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「さて、ここに集うのは誰?」
古民家をリノベした山ノ家の新たなスタート。

山ノ家、ときどき東京
vol.001

posted:2014.11.27  from:新潟県十日町市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  カフェ&ギャラリー「GARAGE Lounge&Exhibit」を東京に構え、
新潟県十日町市では「山ノ家カフェ&ドミトリー」を運営するgift_(ギフト)の後藤寿和と池田史子。
都市と山間部、ふたつの場所を行き来しながらさまざまなプロジェクトを紡いでいきます。
多拠点に暮らし、働くという新しいライフスタイルのかたち。

writer's profile

gift_

ギフト

2005年、後藤寿和・池田史子により設立されたクリエイティブユニット。空間や家具のデザインや広い意味での「場づくり、状況づくり」の企画を行う傍ら、東京・恵比寿にてギャラリー・ショップ「gift_lab」を運営。2012年、縁あって新潟・十日町市松代に「山ノ家カフェ&ドミトリー」をオープン。現在東京と松代でのダブルローカルライフを実践中。2014年秋に東京の拠点を清澄白河に移転。東京都現代美術館にほど近い築80年の古ビル1階に「GARAGE Lounge&Exhibit 」をオープン。東京でも “ある「場」”としてのカフェが始動した。

その後の「山ノ家」の日常と現実。

お久しぶりです。
リノベのススメにて「山ノ家ができるまで」を連載させて頂いていたgift_です。

東京で、空間や家具のデザインや、広い意味での「場づくり、状況づくり」の
企画などを行うかたわら、
ギャラリー・ショップ「gift_lab」を運営していた私たちでしたが、
2012年、縁あって新潟・十日町松代(まつだい)に
「山ノ家カフェ&ドミトリー」を始動させました。

どちらかがアウェイで、どちらかがホーム、なのではなく、
どちらも同じ重さの「地元」、シームレスに等距離に行き交うことを
「ダブル・ローカル」と称してスタートした時点では、
何を目指しているのかという自覚的なゴールはなくて、
日々、目の前にある to doを積み重ねる日常でした。

オープンから早くも丸2年を経た現在、いつのまにか、じわじわと、
次なる種子のようなものがゆっくりと胎動してきているようです。
その一端として、過疎化が進む山間地域の日常から「タカラモノ」を
発見して都市圏の人たちにきちんと届ける仕組みとして
「山ノ実プロジェクト」がスタートしつつあったりします。

ここからまた何が始まっていくのか。
ちょっと楽しみにしているところです。

さて、ここで時計をふたたび2012年の秋に巻き戻します。

ひと夏かけて山ノ家のリノベがひとまず完成した後、
オープン直後の盛夏には、大地の芸術祭2012のにぎわいに支えられて
まずまず順調なスタートを切ったかと思われた「山ノ家」。
だがしかし、そこに待ち受けていたのは、厳しい現実でした。

春は曙、夏は夜、秋は夕暮れ、冬はつとめて(=早朝)。
枕草子にも「いとをかし」と謳われている通り、
もちろん秋の夕暮れは、とてもすてきだ。
適度な寂寥感というものは心ふるわせる趣深いものだ。
それは認める。
しかしまったく誰も来ない里山のカフェの夕暮れほど
むなしく寂しいものはない。

大地の芸術祭が閉幕したのは9月なかば。
2階のドミトリーがようやく本オープンにこぎつけてから約2週間後。
芸術祭のクライマックスには連日満室だったドミトリーも
9月はまだしも、10月に入るとぱったりと宿泊予約が途絶えてしまう。
10月1か月の宿泊客はなんと5人のみ。
それも、10月前半に集中していて、10月後半は皆無。

宿泊客というのは基本遠方から来るヨソモノである。
地元に家がある人は宿泊はしない。
とにかく来訪のほとんどを占めていた東京圏からの旅人はぱったりと途絶えた。
そして、どんどん高く透きとおっていく秋の空のもと、
田畑の収穫に追われる地元のみなさんは忙しく、まちなかには出歩けない。
「山ノ家」が立つ商店街を通っていく者はほとんどいなかった。

旅人が途絶えたならば、地元の方にカフェを利用してもらいたい。
しかしそもそも、人通りがない。
思い起こせば、宿泊客のほとんどが都市圏からの芸術祭ファンだったように
カフェのお客さんもまたしかり、
ほとんどが都市圏からの旅人が立ち寄ってくれたもの。

リノベで知り合った職人さんたちや、
よく差し入れをしてくださったお向かいのハマダヤさんなど
ごく少数のご近所の方々、
もともと、私たちにこのプロジェクトをスタートするきっかけをつくってくれた、
地元の地域活性活動の旗ふり役である若井明夫さんたち以外で、
私たちが何ものであり、何をしようとしているのか知っている人は、
この頃、実はほとんどいなかったのである。

後で聞いたところ、芸術祭の拠点のひとつで、夏が終わったら、
あたかも海の家のようにたたんで、
東京に帰ってしまうんだろうなと思われていたそうである。
当時、地元の平均的なみなさんにとっては、
あくまでも、「テンポラリーな作品」のようなものと認識されていて
商店街の日常を構成する一店舗とは見なされていなかったらしい。

いや、ここはカフェなのだ。
今日だって営業中なのに。

どうすればよいのだ。

開いてるかどうかわからない、という声を耳にした。
あわてて「Open!」の張り紙をしてみる。

そもそも、カフェだってわからないんじゃない?
山ノ家のロゴデザインをしてくれたDonny Grafiksの
Donnyくんこと山本くんに、ロゴのカフェの部分から
コーヒーカップを肥大化させた看板をつくってもらう。

山ノ家は前面がすべてオープンのガラス張り。
夏の開業時からブラインドやカーテンはつけずに、
日が暮れるとカフェの中からの灯りが外にこうこうと光を放って
建物自体が発光するランタンのようで、
スタッフ一同気に入っていた。

しかし、朝から夜まですべて丸見えで、
定休日にも丸見えで、
待ちわびていたお客さんがせっかく来てくださったのに、
定休日とわからず、鍵のかかったガラスの扉が開かずに
入れない! と叱咤を受ける。

窓にカーテンをつけた。

オープンしていない時には閉め、
オープンしている時には開ける。

わかりやすくなったねとほめてくださる方もいた。
それはよかった。

「もっと目立たせるためには、派手で大きい、
行灯式の看板置かなくちゃだめだよ」とアドバイスされたが、

置きません。

日に日に肌寒くなっていく。

レンズ豆と根菜のスープをつくってみる。
クミンの香り。白い湯気が立ちのぼる。
いい匂い。
とてもおいしいんだけどな。
あったまるし。

デモンストレーションとして、窓際でふうふうと食べてみる。
誰も通らないね。

晩秋ともなれば、5時前には暗くなってくる。
ソファ席の上に広がる白い壁に映画を投影してみる。
日暮れの静かな空気の中に映像がうごめいてとても美しい。
しかし誰も通らない。誰も立ち止まらない。

断言する。
まったく誰もいない秋の夕暮れのカフェで観る
『パリ、テキサス』ほど寂しいものはない。

ライ・クーダーの乾いたギターが悲しく空中に溶けていく。

カフェの壁に映像を投影してみる。

芸術祭が終わると本当に人がいなくなるよ、とはもちろん聞いていた。
多少の覚悟はしていた。
けれども、これほどとは。

いったいどうすればよいのだ……。

Vol.2につづく

information


map

山ノ家

住所:新潟県十日町市松代3467-5
TEL:025-595-6770
http://yama-no-ie.jp
https://www.facebook.com/pages/Yamanoie-CafeDormitory/386488544752048

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