古民家1棟貸し
〈平泉倶楽部~FARM&RESORT~〉
世界遺産・平泉の
“風土”と“人”に出合う宿
平安末期、奥州藤原氏によって建立された寺院や歴史的建造物が残る、岩手県平泉。
〈中尊寺〉や〈毛越寺〉など、東北で初の世界遺産認定を受けたこの地に、
2018年7月、古民家ゲストハウス〈平泉倶楽部~FARM&RESORT~〉がオープンした。
築150年以上の古民家をリノベーションし、
1日1組限定(1組9人まで)の1棟貸しで、宿泊費は1泊10万円。
少々高い? と思う人がいるかもしれないが、
その値段にふさわしい設備や、行き届いたホスピタリティ、
特別な体験がいくつも用意されている。
まだオープンして半年だが、日本の伝統や文化、プレミアムな体験を求めて、
国内外からの問い合わせが多いのだとか。

自然光の差し込むリビングダイニング。古い建材にもしっかりとマッチしたモダンな内装。
広々としたエントランス部分には、囲炉裏と、窓に沿って据えられたベンチ。
その奥には、キッチンとカウンターが設置されたダイニング。
キッチンには調理器具、基本調味料、IHコンロなどが用意されており、
宿泊者はこれらを自由に使うことができる。
棚にディスプレイされているのは、
岩手県一関の伝統工芸品「秀衡塗(ひでひらぬり)」に「南部鉄器」。
これらももちろん使用可能。

キッチンの窓からは青々とした裏の林が見え、まるで絵画が飾られているかのような美しさ。

漆を焼きつけた、秀衡塗のワイングラスで日本酒を。(写真提供:平泉倶楽部)
お風呂はふたつ用意されており、そのうちのひとつは総ヒノキ風呂。
やわらかな木目のあたたかさと、ヒノキの香りに、心身ともリラックス。
なんとも贅沢なバスタイム!

3つの和室と、ベッドが設えてある洋間がひとつ。
廊下はぐるっと1周することができ、
和室を横切って次の部屋へ、という構造ではないので、
複数の家族や友人と訪れても、プライベートが守られるのはありがたい!

和室には、代々大切に祀られてきた立派な神棚が。

ベッドが置かれた洋間。こちらの部屋のみ施錠可能。
快適な設備が導入され、美しくリノベーションされているが、
天井の梁、太い柱、土壁など、可能な限り昔の建材を残しながら、
当時の家に刻まれた記憶も今に伝えたいという計らい。
さらには、先ほども紹介したとおり、館内には
岩手の伝統的工芸品である秀衡塗や南部鉄器だけでなく、
一関の染職人が手がけた〈京屋染物店〉の作務衣、暖簾、座布団なども。

古いタンスの上には、古民家に保管されていた農道具がオブジェとして飾られている。
「ここは、ゲストハウスでもありながら
ある意味、一関の伝統工芸品のショールームでもあるんです。
南部鉄器で飲む白湯、秀衡塗でいただくお食事、手染めした作務衣など、
一関・平泉地域の歴史や伝統を、五感で体感してほしいんです」
そのように語るのは、平泉倶楽部を手がけた〈株式会社イーハトーブ東北〉の松本数馬さん。
松本さんもまた、一関に生まれたひとりだ。

〈株式会社イーハトーブ東北〉の代表、松本数馬さん。
何度も訪れたくなる旅とは、“商品”ではなく、訪れた先の“人”にある
東京や仙台で銀行員として働いていた松本さんが、
地元である一関にUターンし、起業したのは、2011年の東日本大震災がきっかけ。
「あのときは、僕も仙台で被災しました。
当時は法人担当だったので、津波で工場が流されたというお客さまがたくさんいて。
また当時は、地元ボランティアとして活動もしていました」

自らも被災しながらボランティアに参加。
東北の復興に携わるなかで、一関の現状にも意識が向くようになり、
帰郷を決意したのはその2年後。
「ボランティアなどをやっていくなかで、
東北ってやっぱりいいよな、って感じたんです。
でも、自分の地元を振り返ると、衰退していく部分がたくさん見えて、
今動かないと、このままではなくなってしまうもの、途絶えてしまうもの、
たくさんあるだろうなって。
いつか地元に戻ろうと思っていたので、じゃあ今しかない、と」

松本さんが起業した〈株式会社イーハトーブ東北〉の理念は「東北を照らす」。
地域活性化事業を通じ、「雇用創出」と「関係人口増加」を目指す会社だ。
「僕の使命は“雇用”をつくること。
雇用がないと、U・Iターン者といった人が移ってこないんです。
ただ、どうやって雇用をつくるかというときに、
大企業や工場誘致だと一時的になりがちで、撤退するとなれば影響はすごく大きい。
だから、100億の会社が1社あるより、
1億の元気な会社が100社あるほうがいいと思っていて」
そこで松本さんは、「宿泊」「飲食」「旅行」という3つの事業を展開。
「飲食」の事業では、
地元食材を活用した和洋食料理のレストラン〈かぶらや〉をオープンし、
一関・平泉の食文化を発信する場所をスタートさせた。

“平泉・一関のまるごとレストラン”をコンセプトにした〈かぶらや〉。三陸の「早採れわかめのしゃぶしゃぶ」や、岩手の風土が育てたブランド豚を用いた「館が森高原豚のかつ丼」、一関のもち文化から生まれた「もちパフェ」なども。(写真提供:平泉倶楽部)
「旅行」の事業では、東北を中心とした、伝統工芸、伝統芸能、農業体験、
グルメ、復興といったテーマの旅行ツアーを企画催行。
こういった取り組みから、飲食店従業員はもちろん、
ツアーガイドや、体験先へのオファーなど、雇用や仕事を生み出している。

地域の人と交流する、郷土料理体験。(写真提供:平泉倶楽部)
また平泉倶楽部では、
地域のお母さんの手ほどきで、一関・平泉の郷土料理をつくる「郷土料理体験」や、
踊り手を招いて宿の縁側で舞う「南部神楽鑑賞」、
ガイドつきの世界遺産ツアー、地元農家での農業体験など、
さまざまなオプションを用意し、地域住人を巻き込んだ取り組みも。

平泉倶楽部の縁側で舞われる南部神楽。オプションのメニューだが、神楽舞をひとりじめできるという贅沢。(写真提供:平泉倶楽部)
「平泉の“風土”を感じ、知ってもらいたいという想いから生まれた宿なんです。
何度も訪れたくなる旅先って、“商品”ではなく、訪れた先の“人”にあると思っていて。
人や友だちに会いに行く、そんなゲストハウスにしたいんです。
それに、これだけ農業という基盤がある場所なので、
近くの農家や、農家民宿と一緒にやっていくのがいいと思っていて。
ただ、彼らと同じことをやってしまっては、ただの競合になってしまう。
そこで、今までなかった長期滞在ができる設備や、農家の人と連携した農業体験、
農家のお母さんたちによる料理体験などで、人と出会い、
地元の農産物を食べ、本当の平泉を体感してもらう、そういう文脈になっています」

平泉の風景。右下の赤屋根の家が平泉倶楽部。(写真提供:平泉倶楽部)
平泉文化の“風土”を、“人”を通して知ってもらい、
再び訪れてもらう場所になることこそ、平泉倶楽部が目指すものだ。
とはいえ、平泉にはまだまだ課題や問題が山積みという。
難題に挑む松本さんを鼓舞するのは、
これまでにも連載で紹介してきた同年代の仲間たち。
「地域をなんとかしようと、強い想いを持った同年代の仲間がたくさんいて、
僕も自然体でいられるんです。これは自分にとって大事なことですね」

束稲山の麓に佇む平泉倶楽部と、緩やかに続く棚田。(写真提供:平泉倶楽部)
世界遺産にも登録された中尊寺をはじめ、
地域一帯が遺産的価値を持つと世界的に評価された平泉。
荘厳できらびやかな遺産と併せて、“風土”や“人”といったローカルな価値に出合う旅は、
きっと深く心に刻まれ、再び訪れたい場所となるはずだ。
information
平泉倶楽部~FARM&RESORT~
住所:岩手県西磐井郡平泉町長島字前林78-1
TEL:0191-26-0015(受付時間9:00~18:00)
宿泊料金:1泊100,000円(税抜) ※1日1組限定、1棟貸しの料金
予約可能人数:9名まで
チェックイン:15:00~21:00
チェックアウト:10:00
