連載
posted:2015.3.26 from:神奈川県横浜市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Nobuyuki Fukui
福井信行
1975年神奈川県生まれ。大学中退後3年半のニート生活を経て木工所勤務。1996年よりACME FURNITUREにてアメリカ中古家具のメンテナンスと仕入れを担当。不動産会社勤務を経て、2005年に株式会社ルーヴィスを設立。2013年より木賃ディベロップメント共同主宰。2015年より費用負担型サブリースを行う「カリアゲ」をスタート。古家や再建築不可物件など流通しにくい建物の再生を試みながら活動中。
みなさま、こんにちは。ルーヴィスの福井と申します。
僕は、神奈川県、横浜を拠点に
横浜、東京、湘南エリア、ときどき千葉の内房の古い建物の改修工事をしています。
個人や法人のお客さまからの依頼で
デザインと施工の両方をさせてもらう時もあれば、
設計事務所からの依頼で施工だけをさせてもらう時もあり、
関わり方はさまざまですが、カテゴリーでいうと工務店だと思っています。
僕自身はリノベーションの仕事における立ち位置に特にこだわりはなく、
クライアントのニーズに合わせて
ポジショニングを微調整しながら携わっています。
クライアントからよく「結局、ルーヴィスは何屋なの?」とよく聞かれるので、
この連載では、自己紹介を含めて、考え方や活動について書いていきます。
お付き合い、どうぞよろしくお願い致します!
そもそも、僕は建築を学んだこともなく、
設計事務所で働いたことも工務店で働いたこともない、アウトサイダーです。
そんな僕がなぜリノベーションの仕事を始めたのか。
15年ほど前に、当時東京の目黒通りにあった「ACME FURNITURE」
(http://acme.co.jp/ )というインテリアショップに勤めていました。
ACMEでの仕事は主に中古家具のメンテナンスだったのですが、
3か月に1度、カリフォルニアに中古家具の仕入れにも行かせてもらっていました。
フリーマーケットやアンティークモール、
リサイクルショップやインテリアショップをまわって、
1930年代〜1980年代ぐらいの中古家具や雑貨を仕入れ、
40フィートのコンテナを満載にして日本へ送り、
メンテナンスをして販売する仕事です。
仕入れた時に、コンディションの悪い家具も、
組み直したり塗装をし直したりすると、
生産当時のよさがよみがえり、今また新しくつくろうと思っても
コストや材料の問題で実現することができない価値があり、
当時から人気がありました。
今思えば、「古くてもボロボロでも直し続ければ価値は持続する」という感覚が、ACME時代に培われていたのだと思います。
その後、26歳の時に僕は父親の誘いもあり、
横浜にある実家の不動産会社に転職をします。
不動産会社では、主に賃貸管理に携わっていました。
管理物件の中でも、築30年以上のものになると空室が多く、
賃料を下がり続けなくてはならないとなると、
運営維持も入居者を見つけるのにも苦労していました。
当時(いまから約10年前)、横浜でも空き家や空室は増え始めており、
「空室対策」というものを色々とやっていました。
と言ってもリノベーションなどではなく、家具付きの物件にしてみたり、
入居者を紹介してくれるほかの不動産会社に広告料を払ったり、
マンスリーマンションをやってみたりという感じでした。
そんなことを続ける中で、漠然とした疑問が出てきます。
「家具は直せば価値が上がるのに、不動産はなんでだめなんだろう?」
ということです。
家具は消費財だからか? いや、家具の中でも消費財ではないものは価値がある。
日本は地震が多いから古くなったら建て替えないといけないのか?
いや、100年以上建っている家だってある……。
という感じで疑問が疑問を呼び、
自分の目で、自分の体で検証してみたくなったのです。
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とはいえ、建築を学んだこともない自分がすぐに何かできるわけもなく、
悶々とした日々を過ごしていた2003年。
偶然にも六本木ヒルズのTSUTAYAで手に取ったのが、
『リノベーション物件に住もう!~(超)中古主義のすすめ(ブルースタジオ)』
という本でした。
パラっとめくった時から、
「あーーー!!!やりたかったのこういう感じだ!!」
「リノベーションって言葉は知らなかったけど、なんか新しそう!!」
と、衝撃的な刺激を受け、もう悶々としていないで自分でやってみよう。
という気持ちに変わります。
Amazonで「リノベーション」というキーワードで検索をして
出てきた書籍を購入して読み漁り、継ぐはずだった実家の不動産会社を退職し、
2005年に設立したのがルーヴィスです。
しかし、リノベーションの仕事をしたくて、独立してはみたものの……
10年前なんてリノベーションの仕事は、予想以上に無かったのです。
もともと建築を学んだことも設計事務所や工務店で働いたこともない僕に、
リノベーションの仕事なんて頼んでくれる人はそもそもいないわけです……
甘かった。
甘すぎました……今考えても大甘です。
今さら10数年遅れで建築学科に入るのも現実的ではないし、
設計事務所はそもそも入れなさそうだし、
工務店でこれから修業って言ってもちょっと気が重い……。
そう思い、設立して数か月後から工務店の下請けで
ハウスクリーニングの仕事を始めます。
(賃貸物件リフォーム後に行われる仕上げのハウスクリーニングです)
独立したのにリノベーションから遠ざかるわけですが、
ハウスクリーニングの仕事は、長い期間の現場でも3日程度。
ほとんどの現場は1日か2日で終わります。
基本的には工事が完了した後の仕事なので、誰もいなくなった現場で、
クリーニングをしながら家のつくりや仕上げを好きなだけ見ることができます。
しかも毎日違う現場に行けるのです。
不動産屋時代もここまで内装材に手を触れて見たことはなかったと思います。
その後ハウスクリーニングの仕事は1年半ほど続けて400件ほどやり、
もともと知り合いだった不動産会社の人や
賃貸オーナーから少しずつ内装の仕事を頼まれるようになっていましたが、
リノベーションと呼べるような仕事はまだありません。
でもなんとなく生活するには困らない程度の売上も立つようになってしまっていました。
そこで、疑問がわくわけです。
「このままでいいんだろうか?」と。
ここでまた悶々としそうになるんですが
悶々としていたら会社が潰れてしまうので
(会社と言ってもまだひとりでやってましたが)
思い切った決断をしました。
下請けのハウスクリーニングの仕事を全部やめました。
売上ほぼゼロになったのを機に、
銀行に「マンションを買いたいのでお金を貸してください」と交渉。
新宿御苑にある築25年の区分所有マンションのひと部屋を購入し、
リノベーションをします。これが僕のリノベーション第1号案件です。
この部分については割愛しますが、
この物件は入居者を付け、投資家に売却しました。
それ以降は、東京を中心に少しずつリノベーションの依頼を受けるようになり、
横浜でやっとリノベーションらしいプロジェクトの相談を受けたのは
2009年のことです。
そんなある日、賃貸オーナーからメールが来ます。
「1年以上、全部屋、空き室で困っています。一度話をしたいです」と。
数日後、指定された場所に伺うと、
その物件は、僕が不動産屋時代に管理させてもらっていた物件の近くにあった、
築40年の木造アパート「みどり荘」でした。
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横浜駅から坂を登って徒歩25分ほどにあるこの地域は古い木造アパートも多く、
横浜駅まで歩けるとは言え、賃料が下落傾向にあり、
空き室も目立っていたエリアでした。
施主であるオーナーからの依頼は
「予算の範囲内で、リフォームをして貸したい」というもの。
(この頃もまだリノベーションという言葉は主流ではなかったのです)
ただ、全室をリノベーションできるだけの予算ではなく、
とはいえ、
多くの費用をかけたとしても満室にできるかどうかもお互い不安だったため、
想定賃料の3年半分をかけて2部屋だけを先行してリノベーションする提案をしました。
賃貸物件のリノベーションをする際に、
僕は「古いことをネガティブに捉えずにできる限り肯定する」ことにしています。
結果的に、その捉え方がリノベーション費用の低減につながったり、
新築ではつくり出すことのできない価値を提供できると考えているからです。
そもそも、
「賃貸物件におけるリノベーションの価値というのは何か?」
僕は新築も好きなのでリノベーション原理主義者ではありません。
多くの建物はいつか建て替えの時期を迎えるはずです。
ただし、建て替え原資がない状況で建て替えの選択をするのは、
人口が減少していて空室率が上がっている現状を考えると、
リスクが高いと思っています。
リノベーションの価値というのは、賃貸オーナー側の視点から見ると
「再投資して収益性を改善することで建替原資をつくり出せること」
と考えています。
この通り、僕の幼少期によく見たような内装も、
今では「古くさい」と言われてしまうものですが、
一方で「懐かしい」とも言われます。
一般的に「若者」と言われている人々の多くは
すでに人生の半分以上を平成の時代の中で過ごしてきています。
物心ついたときには身近に携帯電話やパソコンが当たり前のようにあった彼らでも、
昭和的なものを見ると「懐かしい~!」と言います。
僕も、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を観て「懐かしいなぁ」と思います。
自分が生まれていない、昭和39年の東京が映し出されたものに懐かしさを感じてしまう。
それはすでに過去の自己体験と照し合せての「懐かしい」ではなく、
「懐かしい」とはこういうものだよね、という学習の成果なのだと考えました。
そこで、「懐かしさは実体験だけではなく、つくり出せるもの」とし、
リノベーションしたのが、この木造アパート・みどり荘です。
「懐かしさ」を残しながら、
現代のライフスタイルに寄せていくように新しいものを組み込んでいく。
でも「懐かしい時代」からあったものを使うというルールに沿って、
リノベーションした結果「懐かしさが残る、いい感じの部屋ですよね」
という実に曖昧で形容しがたい評価を得て、
2部屋とも無事に入居者が決まりました。
リノベーションという行為は、
新築と築古の間にあり、真っ白でも真っ黒でもなく、
その中間にある多くのグレーの中の一部だと思います。
無限にあるグレーをどういうアプローチで
価値を上げていくのかを想像できるのがリノベーションの魅力です。
「価値を上げる」ということは、一方向的に新築に近づけることだけではなく、
古さを際立たせることでも価値が出せると確信したのが、このプロジェクト。
かつて「家具は直せば価値が上がるのに、不動産はなんで駄目なんだろう?」
と思った疑問も「家具も不動産も直せば価値が上がる」に変わった瞬間でした。
このころから、工務店としてボロ物件を劇的に変えていく方法を模索するようになり、
「古い物件で困っててさぁ」という話を聞くと、
目を輝かせて「すぐ見に行きます!」と答えるようになり、
ボロすぎる話が来てしまったりするわけですが、続きはまた次回に。
次回は「築年数不詳。木造平屋のリノベーション」の話を予定しています。
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