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そんな母は今年の春で下田に移住してきて5年が経ち、
8月に88歳、米寿をむかえました。
来年50歳となる自分でも、移住当初から考えると
体力の衰えを感じることも多くなっています。
でも、40代のそれとは比べものにならないほどに80代の母の衰え、
老化は進んでしまっていて、
これまでできたことがいろいろとできなくなってきていて。
そんなこともあってか、
数か月前から「施設に入りたい」と言い出すようになっていました。
移住当初は娘より背が高かったのですが、すっかり背を抜かれました。
隣に住んでいるとはいってもひとり暮らし。
やはりある程度の家事を自分でしなければなりません。
肺の持病が進行したこともあり、
少し家事をすると息苦しくなるそうです。
そして、仕事や子育てで忙しくしている自分たち家族に、
これ以上迷惑をかけたくない、そんな思いもあったのでしょう。
確かに、自分としても、隣に住んでいて
それなりに面倒を見てはいるけど、仕事や家事、
それだけでなく地域の活動や米づくりもあるなか、
やれることは限られていて、
『これ以上はできない』という思いもありました。
そんな状況で『施設に入りたい』と本人が言うのであれば、
それを叶えてやるのが息子としてのあるべき姿だろうと、
役所やお世話になっている施設の方に相談したり、
施設に見学に行ったり……と入所のための準備を進めていました。
88歳という母の年齢を考えると、施設に入れば、
家での暮らしには簡単には戻れなくなるわけで、
これまでのように一緒に家の食卓を囲むことも
なくなるのかもしれません。
ここになら入所できそうだという施設が見つかり、
いよいよ申込みをする、と
入所が現実味を帯びてきたときにあらためて思ったことがあります。
東京ではできない「暮らし」をするのだと下田に移住してきて、
東京で父が亡くなってからひとりで暮らしていた母親も
下田に呼び寄せた。
そんな母親が施設に入る。
仕事に家事に忙しい今、
息子としては「これ以上できない」のだから「仕方ない」と、
施設入所の手続きを進めてきた……。
でも、自分を産んで育ててくれた母親の「人生の締めくくり」を
そんなふうに簡単に決めてしまっていいのだろうか?
本当に「これ以上できない」のか?
本当に「仕方ない」のか?
これが東京ではできなかった「暮らし」なのだろうか?
優先順位は合っているのだろうか?
などなど悶々と考えてしまって。
結果、施設への入所はもう少し先送りにして、
まだ「できることはないか?」を探ってみることにしたのです。
そう決めてから、母の朝晩のごはんをつくっています。
顔出せるときには顔出して家事を手伝ったり話をしたり、
病院につき添い、買いものに行くたびに電話をして、
ほしいものはないか? と聞いたり、
たまには買いものに連れ出すこともあります。
この決断をしてから、
娘も何かと母の面倒を見てくれるようになりました。
そんなこともあって随分と母親の顔が明るくなった気がします。
外食をするのも体力的に難しくなってきました。大好きな寿司屋にもすっかり行けなくなり……ということで、友人でもある下田のすし職人さんがやってるケータリングサービスを利用し、わが家で寿司を握ってもらう。
娘(孫)から誕生日プレゼントをもらってうれしそうな母。
親の「老い」とどう向き合うか?
母の場合、肺の持病も進行はしていて、
体が不自由になってきたとはいえ、意識はしっかりとしているし、
自分で立って歩くことができるので、
こうした対応がとれるのでしょう。
寝たきりだったり認知症が進んだりという
親の介護をされている方からすると、
まだまだ介護とは呼べないくらいなのかもしれません。
とはいっても、この状況でも、
子育て中で共働きのわが家だけでは面倒をみるのは難しく、
デイサービスもあり宿泊もできて、
日々の見守りや病院のつき添いまでお願いできる
「小規模多機能型居宅介護」のサービスを利用しています
(本当にありがたい制度です)。
こうした行政のサービスなどにも頼れることは頼り、
「良き親の老いとの向き合い方」を探っていきたいです。
ある日の朝ごはん。基本的には娘につくっている朝ごはんをそのまま持って行きます。「身内がその限界を越えるような介護を続けると、するほうもされるほうもストレスがたまり幸せになれないから、無理はしないでね」と、この決断をしてから多くの方にアドバイスをいただきました。「親の介護」を経験した方は本当に多く、みなさまのアドバイスが本当にありがたいです。