二足、三足のわらじを履く
「らんぷはうすのお母さん」に
下田の民謡舞踊を習う
「らんぷはうすのお母さん」とは?
伊豆下田に暮らし始めて半年になる津留崎さん一家。
複数の仕事を持つ新しい働き方をしたいと考えていた津留崎さんが出会った
「らんぷはうすのお母さん」は、そのお手本のような人でした。
そして、ひょんなことからそのお母さんに民謡舞踊を習うことに。
とにかく忙しくて元気なお母さん、その元気の源は……?

なんだかんだと用事があり月に1、2度は東京に。来るたびに建物がなくなってたり、店が変わってたり。歩く人もなんだかみんな急ぎ足。少し離れると時間の流れが早く感じます。
移住先で、新しい働き方を実践したい
下田に移住してから
いくつかの仕事を掛け持ちしています。
以前にも紹介した『月3万円ビジネス』という本の影響もあり、
ひとつの仕事にこだわらずに、生活をしていく土地で
自分が生かせる仕事をしたいと考えているからです。
東京で暮らしていたときは会社員だったり自営業だったりと
いろいろな仕事をしてきましたが、その時々はひとつの仕事に従事していました。
仕事がそれなりに忙しく、ほかに仕事を掛け持ちする
余裕もありませんでしたし、副業を禁止している会社もありました。
でも、ひとつの仕事で忙しくしていると、
ほかの生活がおざなりになっていきます。
また、人工知能の発達により仕事のあり方が問われ始めてもいます。
そんなときに『月3万円ビジネス』という本に出会って、
その働き方に魅力を感じました。
これからの時代の新しい働き方だ! くらいに思っている節はありました。
移住した先ではそんな働き方を実践してみたいと思っていたのです。
そして、下田に移住しました。

少しずついくつかの仕事のカタチが見え始めてきた頃、
ふとまわりを見渡してみると……
いくつもの仕事を持ってる人が普通にいることに気づきました。
その人たちは、これからの時代の新しい働き方をといった感じではなく、
当たり前のように複数の仕事をこなしているのです。
月3万円ビジネスというより
二足のわらじを履いているという感じかもしれません。
二足のわらじ……、どうやら、このまちでは普通のことのようです。
このまちというか地方では珍しいことではないのかもしれません。
民宿と洋服屋という二足のわらじを履いていた
ある方にアドバイスされました。
「下田はひとつの仕事だけじゃなかなか食えないから、
楽しむ仕事と稼ぐ仕事と持つといいよ」
夏に観光客が多く集まる観光地ならではということもあるのかと思いますが、
まち全体がそんな価値観でいるように思えます。
また、ほとんどの方がいわゆるお金を稼ぐ仕事でなくとも
地域のために活動しています。
地域の祭りや海水浴場の掃除や駐車場の管理、消防団などなど。
(地域の企業もそうした行事がある場合は優先させてくれると)
これも下田に限らず大都市以外に暮らしている人には当たり前のようです。
(東京の知人で地域の活動に参加している人はかなり少数派でした)
だからこそ、地域のつながりが強いのだと
暮らし始めてから実感としてわかるようになりました。

下田の夏の風物詩といわれる八幡神社例大祭「太鼓祭」。ご覧のとおりすごい迫力! 下田は決して大きなまちではないのですが、それぞれの地区で祭りがあります。人口に対しての祭りに関わる人の割合なんていうデータは見たことがないですが、感覚的に言うと東京の十倍以上にはなる気がします。
さらに驚いたことが、多くのご年配の方も
そのようにいくつも仕事を持っているということです。
東京でいえば現役を退く年代でも、こちらの方はまだまだ現役。
とにかく元気で驚きます。
なかでもこの人は本当に元気だなあと感心してしまう大先輩に
いま、大変お世話になっています。

鈴木智津子さん。
僕らは「らんぷはうすのお母さん」(以下、お母さん)と
呼ばせていただいてます。
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「らんぷはうすのお母さん」との出会い
そもそもお母さんとの出会いは物件を借り始めた4月のはじめ、
鍵の受け取りのために僕ひとりでやってきたときのことでした。
まずはどこかで腹ごしらえをと、記念すべき下田暮らし初の朝食を
どこでとるかネットで検索して探しました。
なになに……〈らんぷはうす〉という店の干物定食が人気らしい。
地元の干物屋さんの干物を定食にしてお腹いっぱいにさせてくれるとのこと。
朝6時からやっているという気合の入り方も気になります。
ここだ! と期待に胸を膨らませ店に向かいました。
そして……。

スナック? 喫茶店?
僕のイメージする干物の朝定食を出す店の雰囲気と
あまりに違うことに少なからず尻込みしながら店に入りました。
店内も干物定食イメージをはるかに超えるカオス感……。

そして、笑顔のチャーミングなお母さんが
カウンターの中で出迎えてくれます。
「開きは鯵。丸干しはサンマ。
サンマの丸干しはもうすぐ終わりだからおすすめだよ。どっちにする?」
悩む……。干物といえば鯵の開きな気もするが
時季的にもうすぐ食べられなくなるという丸干しも気になる。
結局、「もうすぐ終わり」という決め台詞に惹かれて
サンマの丸干しをオーダー。そして出てきた定食が……。

ツボです。最高です。これぞ求めていた朝ごはん。
干物の焼き加減。しっかり漬かった漬物。
副菜のボリューム。具沢山の味噌汁。
さらに納豆がパックのままでなく小鉢に入ってネギと鰹節がかかっています。
そんな細やかな配慮に愛を感じます。
ちなみにこのボリュームで財布にやさしい600円。
店のカオス感もすでに心地よくなっていきました……。

テーブルにはオリジナルマッチ。喫茶、スナック。民舞教室……??
おいしくいただいて、お腹も心も満たされました。
僕の前に来ていた常連さんらしきお客さんも帰り、店内には僕だけ。
ここでお母さんと話さない手はない!
「実は今日から下田に暮らし始めることになりました!」
お母さん、すごく喜んでくれました。
「あらそうなの! ようこそ!」
ニコっと笑った顔が忘れられません。
お店とお母さんについていろいろと聞いてみました。
お母さんはここで、らんぷはうすを昭和56年に創業して以来、
下田のまちを見続けてきたそうです。
朝6時からの昼過ぎまで定食屋としての営業のほかにも、
予約が入れば夜はカラオケスナックとして営業。
そして、店だけでなく下田の魅力を観光客に伝えたいと
ボランティアで観光ガイドをしていたり、
育児中の母親を支援するボランティアをしていたり。
さらに、地域の方々に民謡舞踊を教えているというのです。
何足のわらじかわからないくらいですが、
忙しいはずのお母さんはとにかく元気で楽しそう。
生き生きとしているのです。
そんなチャーミングなお母さんと愛あふれる定食に
すっかり惚れてしまった僕は
「今度は家族を連れて来ますね~」と店をあとにしました。

らんぷはうすは昔ながらの天日干しの干物屋が軒を連ねている「干物横丁」と呼ばれるエリア(PDF/地図)にあり、そのうちの一軒から仕入れているそうです。天気が良くない日には干物がつくれず安定して生産できないことから、多くの店では天日干しから機械干しに変わりました。天日干しならではの旨みを感じます。なかには冷凍のストックもしていない店もあり、雨の日には売り物がないということも。経済効率優先の都会では考えられない自然に沿った商売のあり方です。
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地域にまつわる民謡舞踊を習う
その数日後、妻と娘も下田にやってきて3人で暮らし始めました。
いよいよ下田暮らしの始まりです。
そして、ふたりをお母さんに会わせたいとらんぷはうすへ。

さっそく、お母さんと打ち解ける妻。
暮らし始めて1週間も経っていない頃のことでした。
右も左もわからないこのまちに居場所ができたようで
ほっとしたのをよく覚えています。
そして、娘と初めて対面したお母さんから意外なひと言が。
「この娘、踊りやらせたら映えるよ!
着物も貸してあげるし踊りも教えてあげる!」
と、お母さんがやっている民謡舞踊教室にお誘いいただきました。
民謡舞踊は各地に伝わる民謡で躍る民俗的、土着的な踊りで、
阿波踊りなどの盆踊りも民謡舞踊のひとつになるようです。
この地に暮らし始めた娘にとっても
土地に馴染むいいきっかけになりそうです。
また、下田に落ち着いたら娘には何か習い事をさせたいと考えていました。
暮らし始めて1週間も経たずにこんなお誘いをいただくことに
驚きもありますが、ただならぬ縁を感じます。
着物や踊りを通して日本の文化に触れるのもとても良いことに思います。
といっても大事なのは娘の気持ち。
着物を着られるということに惹かれたということもありそうですが
「踊り習ってみたい!」と興味津々。
11月に発表会があるそうで、それまでに簡単な曲を
2曲踊れるようになればよいとのことで、そこまで負担もなさそうです。
ということでお母さんのお誘いをお受けすることにしました。
こんな不思議な流れで習い事が始まりました。
流れ流れてこの地にやってきたわが家っぽいといえばそんな気もします。

お稽古はお辞儀から始まります。所作や畳の縁を踏まないといった礼儀作法も仕込んでもらっています。

熱心に娘に稽古をするお母さん。娘を見るまなざしがなんとも温かいのです。
そして、諸事情により秋の発表会では僕も踊ることになりました……。
その昔、高円寺に住んでいた頃は、酔っぱらって
ノリと勢いだけの適当な阿波踊りを踊っていましたが、
ちゃんと踊りを習ったことはありません。
娘に日本文化に触れてほしいというわりには
自分自身その方向にはまったく明るくなく、
ならばちょうどよい機会だと受けることにしたのです。
僕と娘が踊るのは伊豆半島のつけ根、三島発祥の民謡「ノーエ(農兵)節」。
鍬で土を耕す動きなども盛り込まれている農民の踊り。
最近、畑の土も耕せていないのに
まさか「エアー耕し」をすることになるとは思いもしませんでしたが、
娘に恥をかかせないためにもちゃんと練習しないとです……。

下田に暮らし始めたら釣りやサーフィンに挑戦してみたいと思っていましたが、まさか民謡を踊ることになるとは……。人生何があるかわからんもんです。だから楽しいのですが。こうなったら楽しむしかない!
発表会は11月。下田の公民館で行われます。
ノーエ節は数人の地域のおばさまたちと
先生と僕と娘という不思議なメンツで踊ります。
娘はもう1曲、「雨降りお月さん」という童謡を
ひとりで躍ることになっています。
お母さんが踊りの先生となったいまでも、
たまにごはんを食べにらんぷはうすに行きます。
下田での僕の大切な居場所のひとつです。

いつものチャーミングな笑顔と愛情たっぷりのごはん。
いつ行っても地元の人やら観光のお客さんで賑わっていて
お母さんは忙しそう。
ある日、お母さんに聞きました。
「お母さんの元気はどこからやってくるのですか?」と。
「だって夢があるもの。下田が元気だった頃の賑わいを取り戻したいからね」
お母さんがらんぷはうすを始めた頃は、下田のまちは
人であふれていてそれは賑やかだったそうなのです。
時代の流れもあり、いまではそこまでの賑わいはありません。
「夜遅くまでカランコロンと下駄を鳴らして歩いてる
観光のお客さんがいてね。懐かしいなあ」
お母さん、昔を思い出してなんだか楽しそうです。
そんなお母さんの暮らしは、朝6時からお店を開けるため
3時半に起きてお店の準備開始、そして予約が入ると
夜、カラオケスナックの営業もしています。
「地元の商店の人たちの楽しみだからね」
いくら賑わいを取り戻したいといってもお母さん元気すぎです……。
「人と話をするのが好きだから楽しいんだよ。会話は人生の楽しみだよ」
民謡舞踊のお稽古はらんぷはうすの営業後に。
秋の発表会では自らも踊り、唄います。
そして、最近、お休みしていたボランティアの観光ガイドも
またやりたいそうです。
「みんなに下田の良さを知ってもらいたいからね。
ボランティア精神ってやつだよ。楽しいよ」とニコっと笑うのです。
お母さんの元気の源は「楽しむ」な気がしました。

この秋で下田で暮らし始めて半年になります。
仕事のペースも少しだけつかめてきました。
仕事以外にも地区の祭りや荒れてしまった竹林の整備のお手伝いなど、
できる範囲で関わっています。
公民館で娘と父で民謡を踊るという想定外のイベントもあったりと
盛りだくさんのこの秋。
仕事と地域のこと。もちろん日々の暮らし。
お母さんを見習い、とにかく「楽しむ」でいこうと思います。

information
らんぷはうす
住所:静岡県下田市2-8-3
TEL:0558-22-2266
営業時間:6:00~14:00(12月~3月 7:00~)
*夜は前日までに要予約
定休日:不定休
駐車場:2台
