そして移住先探しの旅は続く。
心機一転、新たな旅へ

振り出しに戻って、再出発?

三重県津市美杉町への移住を考え、試しに暮らし始めた一家。
ところが5歳の娘が環境の変化になじめず、
いったんは東京に引き上げることに。
このまま移住を断念せざるを得ないのか? 
そして自分たちにとって、本当に大事なこととは……? 
悩む津留崎さん夫妻ですが、ずっと悩んでるばかりじゃないのがこのふたり。
新しい決断をしたようです。

山深い美杉から東京へ。これが僕と妻の故郷の景色です。娘の故郷はどんな景色になるのか?

仮住まい物件の期限が迫る

の年始に、三重での新しい生活に向けて、
それまで住んでいた妻の実家の荷物を片づけて
必要なものを車にぱんぱんに詰めこんで意気揚々と出発しました。
でも、前回お伝えしたような事情により、
いったん東京に戻ることにしたのです。

半月もせずに戻ることに気恥ずかしい思いもありますが、
何をもってしても大事なのは家族の気持ちだ、と
半ば無理矢理、意気揚々と帰ってきました。
とにかく落ち着いて今後のことを考えよう。
時間が解決することもあるはずです。

妻の実家ではこんなわが家をあたたかく迎えてくれました。

戻るところがあるというのは本当にありがたいことです。
でも、考えてみるとそんな「戻るところがある」というありがたい状況が、
わが家の移住をなかなか進められない弱さをつくっているのかもしれません。

この移住先探しの旅で知り合った移住者の中には
東日本大震災の原発事故の影響により
移住を余儀なくされた人が何人もいました。

ある日突然、いままで住んでいた土地に住めなくなる。
家族や親せき、友人がばらばらになる。それはどんなに辛いことだったのか。

家族で移住することの難しさを身をもって知り、
原発事故の影響でやむを得ず移住をした方々のはかり知れない苦労について
あらためて考えてしまいます。

(こんなこと二度とあってはならないですよね……)

それに対して、このわが家の一時撤退は簡潔に言ってしまえば
「娘に泣かれたから引き上げる」ということです。なんとも情けない……。

親がここだと決めた場所なら子どもはすぐに馴れるもんだよ、
とアドバイスを多くいただきました。
ただ、同居しているいとことと離れて住むことになるという
わが家ならではの状況、娘の性格、そして前回、妻が書いた
美杉での夜の出来事を考えると、すぐに馴れるからと
無理に続けようという気にはどうしてもなれないのです。

これが自分たちのやり方なんだ、事情があっての移住ではなく
家族で丁寧に暮らすことを目指しての移住としては、
この決断こそが大切なのだ、そう自分に言い聞かせました。

そして、この2月には美杉の仮住まいを借り始めて3か月となります。
この物件は家主さんのご好意で、とりあえず3か月住んでみて
気に入ったら長く住むもよし、3か月の間にほかに気に入った物件があれば
引き払うもよしという事になっております(詳しくはvol.6)。
今後の方向性を決断しなければならないタイミングが迫ってきました。

2016年11月より借り始め、あっという間に3か月。3か月の間にこの土地であれやってこれやってと妄想していたのですが、思うように進まずに月日が過ぎていきました……。そして借り始めたときには予想もしなかった展開になっていることを考えると、この「とりあえずの期間」があってよかったと感じます。「お試し移住」とても大事です。

この物件を借り続けるのか? 
美杉でほかの物件を探すのか? 
ほかの土地を探すのか? 
それとも移住をあきらめるべきのか? 
娘にとって、家族にとってどのように進めるのがよいのか? 
東京ではできない暮らしって? 丁寧な暮らしって? 
考えれば考えるほどこんがらがってしまうのです。

東京での生活が始まりました。フリーのフォトグラファーである妻は依頼が入れば撮影に出かけています。対して昨年夏に会社をやめて以来、無職の僕。日中は娘と過ごし主夫してます。ずっと無職、主夫でいるつもりではなく、移住先が決まったら、その地、その家にふさわしい仕事をみつけるつもりです。ところが、なかなか移住先が見つからない……。こんなとき、焦ってもしょうがない。娘との時間を楽しむしかないですね。

いとこたちと遠く離れて暮らすと僕と妻が決めたことは
娘の心に少なからず傷を残してしまったようです。
美杉の話をするとそれまでの笑顔が硬い表情になってしまう。
その小さな体にどれほどの不安な気持ちを抱えこんでいたのか、
それを思うといい歳こいたおじさんの僕が泣けてきてしまいます。

(妻と同じで涙もろいのです……)

妻とは今後のことを毎日毎日、明けても暮れても、
飲んでも飲まなくても話しました。

そして、これは時間が解決する問題ではない、
娘に大きな負担を背負わせない決断をしよう、
ふたりともそう考えました。

美杉への移住はあきらめる。
けれど、移住はあきらめない。
東京に近い移住先を探して、しばらくは毎週末東京に戻り、
いとこたちと過ごす時間をつくる、そして徐々にそのペースを開け、
いとこたちと別々に暮らせるようにしていこう。
それでもだめならそれはそのときに考えるしかない。

年始には美杉の大自然のなかで遊びまわっていた3人。東京に戻ってきても3人一緒にいることがあたり前のように過ごしています。

娘がここで暮らしたい! と思える移住先を探そう。

美杉の風土に惹かれ、出会う人々に惹かれ、
この地への移住を試みたのですが、
それだけでは足らなかったということなのでしょう。

心機一転、ふり出しに戻ります。

[ff_assignvar name="nexttext" value="新たな旅の目的地は…?"]
[ff_file_include_from_theme filepath="/include-unit/unit-layout-magazine-child-pagenation.php"]

美杉で経験したこと、感じたこと、考えたことは僕にとって、わが家にとってかけがえのない宝物です。そう、こうしてあたって砕けてしかわからないこともあるのです。人生に無駄はない!

新たな移住先探しの旅へ

まずは、あらためてどこに移住先探しの旅をするかを考え始めました。

いままでに考えていた移住先の条件(詳しくはvol.3を)

1 自給的生活のできる土地

2 井戸水・沢の水が飲める、または日常的に汲みに行ける距離に湧水がある

3 東京へのアクセスのよさ(車で6時間以内くらいを目安)

4 小学校・中学校が近くにあり、徒歩圏内に駅やバス停がある

5 温暖な気候

6 なるべくお金をかけずに生活できる物件価格・賃料

(売買なら400万、賃貸なら月3万を目安)

を少なからず考え直す必要があるのかと思います。

毎週末帰れる距離というと具体的にどれくらいか? 
感覚的な話になってきますが、目安として車で片道3時間とします。
そして車の運転があまり好きではない妻が
娘を東京に連れて行く際には電車で帰りたいとのことなので、
電車でも東京へのアクセスがいい立地がよいのでしょう。
妻は移住後も東京の仕事を受けることを考えています。
その際にも渋滞で時間が読めない車移動より
電車移動のほうがよいのかもしれません。

ただしその立地条件となると、当初考えていた売買なら400万、
賃貸なら3万という予算では厳しそうです。
そもそも娘が移住に対して抵抗感を抱いてしまっている
いまの状況を考えると、いきなりの売買はリスクが高すぎるので
賃貸で考えます。

賃貸物件の賃料としては、東京から車で3時間、
電車でのアクセスもよいエリアの相場を調べると
6万円前後にはなりそうです(家族で住める広さの戸建ての場合)。

とりあえず、一般的な賃貸物件からスタートして
その土地に馴染めるようであれば、地域に入り込んで
地元住民にしか出回らない空き家情報などから、
より理想に近い物件がでてくるかもしれません。
美杉の仮住まいの物件も地元の人の空き家情報から見つけました。
それもあって格安でした。

最初から多くの条件を満たす物件を見つけようと思っても
なかなか難しい話なのでしょう。

といっても賃料6万円だとしても都市部の相場から比べるとかなり安いです。
地方ではこの金額で駐車場つきの家が借りることができるのです。

……少し余談を。

日本人の住宅購入代の平均が3700万円、利子を含めると
総支払額5000万円以上にもなるそうです(利子すごい……)。

そして日本人の平均世帯年収は550万円。

住宅のために、金利のために何年間働くのでしょうか……? 
バランスがおかしいように感じます。

さらには空き家が増えて住宅が余っているという状況を考えても、
新築を建て続ける、売り続ける、買い続けるこの状況には違和感を感じます。

総務省統計局 平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約より http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_1.htm

例えば高い住宅を買わずに収入や労働時間を減らして、
できた時間で余っている空き家をDIYでリノベーションする、
そんなわくわくする選択肢がもっと一般的になってもよい気がします。
もちろん業者に頼むより手間と時間はかかりますが、
楽しくやりがいもあります(資本主義経済的にはお金が動かないので
よろしくないのかもしれませんが……)。

美杉でお世話になっている沓沢家のご主人(vol.4参照)も
営むレストランの冬の長い休みを利用して自宅の浴室をつくっていました。
料理のクオリティを維持するためでもあるのでしょうが、
営業は週4日の予約制ランチのみ、冬は1か月以上の休みをとっています。
ワークライフバランスについて考えさせられます。
大事なのは、そんなことができる状況に
自分をもっていくということなのでしょう。

ご主人が奥さまに「300万の工事だよ、これ」と冗談で言っていたのですが、東京のリノベーション会社にいた僕からするとそれは冗談でなく300万かかる工事なのです。

……閑話休題。

では具体的にどこを旅するか? 
条件に合いそうな自治体に移住お試し住宅があれば
そこを拠点に物件探しができるのでは、と情報収集します。

結果、伊豆半島の東南部エリアが気になってきました。
伊豆半島南端が南伊豆町、その東側の下田市、
下田市の北側の河津町、その北側の東伊豆町。

実は妻の祖母の別荘が下田にあり、その別荘には何度も行っていました。
馴染みのある土地で、多少土地勘もあります。
東側の国道を南下していくとだんだんと海がきれいになっていくのが
強く印象に残っています。

またもグーグルマップとにらめっこ。沼津から南下せず静岡方面に進むという選択肢もあるのですが、寒がりの自分たちは暖かい伊豆に惹かれてしまいます。伊豆に住んだら民宿やゲストハウスやってみたいという妄想がさらに膨らんでしまいそうです。

そんな伊豆半島の東側には下田を終点とする伊豆急行があり、
東京からの電車でのアクセスは問題ありません。
車でも下田駅までは東京の家からちょうど3時間。
そして、東伊豆町、南伊豆町、河津町はお試し住宅を持っていて、
移住者受け入れに対しても積極的に取り組んでいるようなのです。

[ff_assignvar name="nexttext" value="伊豆のお試し住宅は?"]
[ff_file_include_from_theme filepath="/include-unit/unit-layout-magazine-child-pagenation.php"]

各自治体のお試し住宅と賃貸物件をチェック

もう少し具体的に調べていきます。
それぞれのお試し住宅は仕組みが違っています。
(各地のお試し住宅をいろいろと調べましたが、
各自治体がそれぞれ取り組んでいるようで、
ひとつとして同じ仕組みはなさそうです)

●東伊豆町

5日間から1か月までの期間で借りることができて、
ホームページ上でもその予約状況がわかるのですが、
しばらくは予約で埋まっています。
古民家で1日1000円と良心的。古民家に泊まりたかった……残念……。

http://www.town.higashiizu.shizuoka.jp/bg/life/ent/1697.html

●南伊豆町

2泊から1か月までの短期、
1か月から1年までの中長期のお試し移住を用意していて、
短期は2週間以上前の申請が必要なので間に合わない、
そして長期も利用中とのこと。残念……。

http://www.town.minamiizu.shizuoka.jp/docs/2016022600010/

南伊豆町の移住者受け入れに対する熱意はホームページから伝わってきます。
ただ南伊豆町には電車が通っておらず駅がありません。
南伊豆町の中心地から最寄りの駅、下田までは車で20分程です。

どこで線引きするかという話ですが、駅から離れる分、
物件の価格も下田までの地域と比較して安いように感じます。
とにかく行ってみて土地の雰囲気を感じてみたいです。

●河津町

2軒のお試し住宅があり、1日から数週間の期間で借りられるようです。
ホームページ上では予約状況などはわからず、
お試し住宅を管理するNPO法人〈伊豆の田舎暮らし夢支援センター〉に
電話して問い合わせてみました。

希望する日程に利用することができると!! やった!!!

http://izuinaka.jp/stay-about/

さらに河津町の空き家バンクに賃貸の物件が3軒あるので、
こちらの見学もお願いしました(2017年1月調査時点での情報です)。

http://www.town.kawazu.shizuoka.jp/akiyainfo/

ネット上では間取りと写真1点のみの情報しかないのですが
雰囲気のよさそうな物件もあります。

賃料も3万、4万、5.5万と条件を満たします。期待!

自治体だけでなく不動産業者の賃貸物件をネットで探しますが、
なかなかありません……。
伊豆という土地柄、いわゆる「別荘地」にある
中古別荘の売買物件がとても多いのです。
なかにはびっくりするくらい安い金額の物件もあります。

ただし別荘地は管理費用や水道使用量、温泉名義料、使用料が高額で、
車で移動することを前提としているので
駅や小中学校から遠いことがほとんどです。
そして、たまにある別荘地以外の賃貸物件は、駅に近いエリアの
単身者向けのアパートだったり、家族では住めそうにない狭い物件だったり。
なかなか賃貸でめぼしい物件が見つかりません……。

そんななか、それこそ別荘中古物件ばかりを扱っている不動産業者のサイトに
戸建てで広さもあり敷地内で畑もできる、
そして川沿いで水道には沢の水を引き込んでいる、
賃料も4万円台という物件を発見しました。
下田駅から距離があるようですが、ほかの条件はかなりよさそうです。

業者に連絡を入れて、内見の予約をしました。ほかにも東伊豆町の
温泉つき物件(使用料がかからないらしい!)や、
下田市の漁村の古民家物件などの賃貸物件を見つけました。
ともに賃料6万円台です。

それぞれ連絡をとり、内見の予約をしました。

情報を集めて、電話して、日程調整をして……。
一時はかなりしょげていた妻も僕も、
こうして移住に対して動き始めると持ち直してきました。
娘には海と東京に近いところの家を探しに行こうと話をしたら
かなり前向きです。子どもにとっては海に近いというのは
かなりのプラスポイントのようです。

実は伊豆は自分たちが目指す暮らしのイメージからすると
ちょっと観光地すぎるのかなと敬遠していました。
ただ前回、妻が書いていましたが

「大事なのは自分たちがどう生きたいのか、何を大事にしたいのか」

だと思います。

先入観は捨てて、もののけ姫のアシタカのように
「曇りなき眼で見定め、決める」のです。

(娘と一緒に何度も見ているのでセリフ覚えてきました……)

そして、伊豆の旅を終えたら、その足で美杉の仮住まいの家に
残した荷物を取りに行きます。
美杉でお世話になった人たちにもちゃんと話をしなければと思っています。

さあ、旅の準備ができました。
伊豆半島から紀伊半島への旅が始まります。

不動産業者の畑つき物件の内見を旅の初日、午前中に段取りしました。朝の渋滞を避けるため前日の夜に出発、途中の伊東の道の駅で車中泊。久々の車中泊でまた旅が始まったことを実感します。まわりには車中泊車がたくさん。さすが東京から近い観光地、いままで旅をしてきたどこの道の駅より多いです。淡路島や徳島ではほかに1台もないなんてこともありました。ちなみに車中泊は夏より冬のほうが快適です! 狭い車中で3人で寝ていると意外と暖かいのです。

不動産業者との待ち合わせ場所、下田駅のロータリーに到着。南国感と黒船感! そして軽トラ! 閑散としているように見えますが平日の午前中にもかかわらず駅には観光客が結構いました。それにしても暖かい。東京より最低気温が2~3度高いようです。寒がり一家なので助かります。

写真・文 津留崎鎮生

text & photograph

津留崎 鎮生 Shizuo Tsurusaki
つるさき・しずお●1974年 東京生まれ東京育ち。大学で建築を学び、卒業後は、建築家の事務所勤務、自営業でのカフェバー経営、リフォーム会社など職を転々とする。地方に住む人々の暮らしに触れるにつれ「移住しなければ!」と思うように。5年半ほど勤めたリノベーション会社を2016年6月末に退職し、新天地への移住に向けて本格的に動き出す。趣味は妄想。特技は妄想。s.tsurusaki@gmail.com

Recommend 注目のコンテンツ

Special 関連サイト

What's New 最新記事