移住先の有力候補? 津市美杉町で 〈日本料理 朔〉を営む 魅力的な夫婦との出会い
いったん東京に帰るはずが
三重県津市の美杉町へ…
岡山から徳島、淡路島と
移住先探しの旅を続けてきた津留崎一家。
東京に帰るはずが、ふと思いたって、
三重県津市の美杉町に寄ることに。
そこには、津留崎さんが「アニキ」と慕う料理人のご主人と
彫刻家で陶芸家の奥さんのご一家が暮らしているのです。
その最初の出会い、それから1年後の、
移住先探しの旅の延長のお話です。

海から山へ。島から半島へ。旅は続きます。
お伊勢参りの道中に泊まった、
美杉の農家民宿
淡路島を出て、東京に戻るつもりが、どうしてもその足で
三重県の美杉町を見たいと、急遽、予定を変更したわが家の移住先探しの旅。
昨年、初めて行ってから何度も通っている僕たちにとっては
思い入れの強い美杉ですが、あまり馴染みのない方のために少し紹介します。
美杉町(旧美杉村、以下 美杉とします)は南北に長い三重県の中心に位置し、
2006年に三重県の県庁所在地である津市に合併されました。
面積でいうと津市の約3分の1近くを占める大きさではあるのですが、
人口は控えめの5千人弱(津市全体では28万人ほど)。
日本の地方に共通して言えることですが、過疎化が進んでいます。
といっても大阪からも名古屋からも車で2時間という距離にあり、
大都市圏とのアクセスにすぐれる立地ともいえます。
でも、そうとは思えないようなのどかな風景が広がっているのです。
主な産業は林業と製茶。
林業といえば、林業に従事する若者の青春を描いた三浦しをんさんの
小説『神去なあなあ日常』、その小説を映画化した『WOOD JOB!』で、
その舞台となる神去村のモデルとなったことで脚光を浴びました。
そんな美杉とわが家の馴れ初めをお話します。
昨年のゴールデンウィークのことでした。
実は、能登を旅しよう! と決めていたのですが、直前になり、
ゴールデンウィークの能登はやっぱり寒そうだ……。
(前回の移住先の条件でも書いたのですが、
僕ら夫婦はとても寒がりなのです)
もっと暖かいとこに行こう! では、どこに行く? となりました。
で、あらためて日本地図を眺めての話し合いの末に、
家族では行ったことのなかったお伊勢参りをしようとなったのです。
そこで、道中に宿泊した宿のひとつが美杉にある〈農家民宿なかや〉さん。
農家民宿とは、従来の民宿や旅館、ゲストハウスと比較すると
小規模で、農業を営む方が開業できる宿です。
小規模なだけに、宿の方といろいろとお話しできたり、
農業体験ができたりということで、名所巡りよりも
地元の方と関わる旅が好きなわが家にぴったりなのです。

旧・伊勢本街道沿いの宿場町だった上多気地区にある〈農家民宿なかや〉。宿を営んでいるのは、大阪より美杉に移住してきた岩田さん。とてもあたたかく面倒見のよいご夫婦で、ご主人は津市の田舎暮らしアドバイザーとしても活動されています。
農家民宿なかやさんに到着し、古民家の雰囲気にわくわくしながら
お茶をすすっていると、ご主人よりバーベキューのお誘いが。
これぞ農家民宿の醍醐味! とばかりに喜んで参加させていただきました。

バーベキューはもちろん地元の食材! アマゴや鹿肉などなど。お酒が進みます!
奥さまと息子さんも加わっての楽しい宴が始まりました。
お酒も進み、夜も深まってきた頃、
奥さまからわが家の運命を変えるひと言が。
「津留崎さんと同世代の家族が近くに移住してきて、
そこの娘さんが花歩ちゃん(わが家の娘)に瓜二つなんですよ!
明日にでも会いに行きますか?」
娘とそっくり? 移住してきた家族? それは是非会いたい!
ということで二つ返事でお願いしました。
そして、聞くところによると、自宅の離れをレストランにすべく
自分たちで工事中とのこと。
自分たちで工事中? そちらにも興味が湧く……。
といっても当時、東京のリノベーション会社で
いくつもの現場を任されるような立場にあった僕は、
「まあ、一般の人がDIYで工事しているというくらいだから、
いわゆる手づくり感満載の感じかな」とは思っておりました。
と言っても自分は職人ではないので、何かつくるとなると
手づくり感満載なのですが……。
そして、楽しい宴が終わり、翌日、岩田さんとともに
そのご家族、沓沢さん一家に会いに行ったのです。
[ff_assignvar name="nexttext" value="行ってびっくり!衝撃の出会いが…"]
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建築も料理も作品もすごい!
沓沢家に惚れ惚れ
山深い細い道を登っていくと、急に目の前が開け、
抜けのある広大な敷地に到着。
その敷地に、母屋、レストランに改装中の離れ、
山羊の小屋、ツリーハウスが点在しています。
思っていた感じとスケールが違うぞ、とわくわく、ぞくぞくしてきました。

その年の夏にレストランをオープンすべく工事を進めている現場を、
沓沢敬さん、佐知子さんご夫婦に案内していただきました。
まず、驚いたのが、もともとは離れだったという小さな古民家を
独自の発想で、とても斬新で魅力的な建築にしていることでした。
手づくり感満載のDIYというレベルじゃないのです……。

増築した部分が斜面よりせり出している独特の佇まい。本職は料理人の沓沢敬さんの発想だそうです。難しい大工工事は地元の大工さんにお願いしており、ちょうど大工さんもいらっしゃったのでお話をうかがいましたが、やはり敬さんの発想に驚かれていました。

エントランスへの石畳は、近くの川の石を持ってきて敷き詰めていました。壁はそこの土を塗ったそう。土地の素材を使うということは、経済の流れのなかでつくる建築とは一線を画す、建築本来のあるべき姿なのかもしれません。
それらを見ているうちに、僕の建築・リノベーションのプロとして
やってきた自信はがらがらと崩れ去っていく感じを受けました。
すべてが想像以上だったのです。

敷地の近くを流れる川に川床をつくっていました。なんとも贅沢な遊び場所。娘同士の似てるっぷりも想像以上でした!(撮影:津留崎徹花)
そんな沓沢家にいよいよ興味が湧いてきてしまい、勢い余って
「明後日、泊まるとこ決まっていないのですが、
この空いてるとこにテント張らせてもらえないでしょうか……?
自分、工事も手伝います!」とお願いしてみました。
そんな、めちゃくちゃな申し出に快く応じていただき、
翌々日に本当にお邪魔してしまいました。

ご主人と中学生の長男で夏休みにつくったというツリーハウス。そして、厚かましくもお願いして張らせていただいたテント。どんなキャンプ場にテントを張るよりもワクワクしました。 *当時は工事中ということで、一応、その道のプロである自分が工事を手伝うということを志願して、特別に敷地内にテントを張る許可をいただきました。現在は飲食店を営業されていますので、訪問者が敷地内にテントを張ることはできません。
さらに、夜には宴まで開いていただき、
料理人である敬さんの手料理を堪能させていただきました。
土地の食材の力、敬さんの料理のセンスに圧倒され、
至福のひとときを過ごしました。

ここんとこ、包丁でなくのこぎりしか握ってないからどうかな~、とおっしゃっていたのをよく覚えています。料理も建築も素材を見極め、つくりあげる、という意味では近いのかもしれません。
工事現場やツリーハウスを見て、びびびっとなっていた自分でしたが、
話をしていてもびびびっとくることが多く、特に印象に残ったのが
「上流に住んでいるのだから流す排水のことを
しっかり考えないといけないと思っている」という話でした。
語るだけでなく、独自に排水を浄化する仕組みを考えて、
つくり上げているのです。

こちらは完成後の写真ですが、エントランス脇に鴨のいる小さな田んぼがあり、この田んぼも水の浄化装置のひとつとなっているのです。そして、この田んぼの米もお店で出すと。なんとも深いです。
こんなすばらしい家族との偶然の出会いがうれしくて、楽しくて、酒が進み、
すっかり酔っぱらった僕は、敬さんを「あにきぃ~!」と呼びまくって、
尊敬の念をアピールしておりました……。
さらには、その翌日には、彫刻家で陶芸家の奥さま、
佐知子さんの作品を見せていただいて、またもや衝撃が走ったのでした。

土地の土で地層を表現した一輪挿し。やはり深い……。(撮影:津留崎徹花)
夫婦揃ってすごすぎる……世の中、すごい人たちがいるんだなあ……って。
これ、僕だけが感じたわけでなく、
一緒にいた妻も沓沢家に完全に惚れていました。

自らの手で店をつくり上げる沓沢夫妻と愛犬ゆう。ほかにも山羊のシロ、鴨のチャチャもいて、敷地内には鹿もよく出没する。自然と動物とともに生活があります。(撮影:津留崎徹花)
沓沢家の皆さまはそんな馴れ馴れしい僕たちを楽しんでくれたようで、
それ以来おつき合いをさせていただいているのです。

2015年の6月に〈日本料理 朔〉オープン。美杉の美しい自然、敬さんの料理、佐知子さんの器をはじめとするアートワーク。敬さんは自らの料理を命のリレーの最終章と言います。

撮影:津留崎徹花

そんな沓沢家との出会いから1年が経ち、
わが家は移住先探しの旅をすることになったのです。
もし沓沢家と出会っていなかったら
その選択は少なからず違うものになったいたのかもしれません。
[ff_assignvar name="nexttext" value="それから1年後、移住先探しの旅の続き"]
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なんと、有力物件登場!?
移住先探しの旅に話を戻します。
淡路島から再び美杉に向かうことになったわが家。
その目的は、岡山、徳島、淡路島と巡ってきたその足で
美杉を見たらどう感じるのか?
そして沓沢夫妻に移住を決心したことを報告したい、ということでした。
さらに、美杉の現状を確認したかったことがひとつ。
この旅で、ある人から地域によっては水の問題があるため、
移住希望者がお米をつくるのはハードルが高いかも?
と言われたことが気になっていて、その点は美杉はどうなのか。
沓沢家も移住者でありながら米づくりをしていて、
店ではつくった米を出しています。
沓沢家に到着。淡路島から来たので、初めての大阪経由のルートです。
道もスムーズに流れていて大阪から2時間ほどで到着。
東京からだと名古屋経由で来るのですが、名古屋からも約2時間。
ふたつの大都市から車で2時間で来られる立地。
客商売には意外と向いているのかな、そんなことまで考えてしまいます。

森を抜けてここに来ると、時間の流れが変わる感じがします。不思議な場所です。
そして、自分たちが移住する決意をしたこと、
移住先探しの旅に出たことを報告。沓沢夫妻としても、
わが家のこの動きを楽しんでくれているようで、ほっとしました。
その夜には、美杉での暮らしについていろいろとうかがいました。
米については、美杉は田んぼも余っているし、
水も豊富なので、心配しなくていいよ、と。
そして、さらには「もし、美杉に来たら一緒に米、つくろうよ」
という、アニキと慕う敬さんのありがたいお言葉。
また、沓沢家の娘さんとうちの娘はとても気が合うようで、
遊んでいるのを見ていると本当の姉妹のよう。
もしも、沓沢家の近くに住むことになれば
娘が友だちがいなくて寂しがるかも? といった不安はないのか……。
といっても物件がなければ移住はできません。
ネットで探すと美杉の物件は少なからずは出ているのですが、
美杉といっても冒頭でも書いたとおり、かなりの広さがあります。
前回挙げた条件を満たすような立地と自給ができる土地
(300坪をひとつの目安としています)と金額の物件は
なかなか見つかりません。

津市の空き家情報バンクにも物件は出ています。登録物件のほとんどが美杉の物件という状況です。
そう簡単には条件を満たす物件、出るわけないよなあ……。
だから、移住先を探す旅をするのだ!焦ることはない!
と自分に言い聞かせました。
そんな時、佐知子さんから意外なひと言が。
「うちの近くの物件、売りに出してるみたいよ。明日、見に行ってみない?」
なんでも沓沢家から歩いて行けるくらいの物件らしいです。
といっても、ネットなどで探した際には、
考えている条件に近い物件が美杉にはあまりないという現実もあり、
あまり期待はしていませんでした。
翌日、その物件を見に行きました。そして、なんと。
「あれ? いいかも……」と思ってしまったのです。
土地の広さも目安としている300坪以上ありました。
金額的には、予算オーバーではあるのですが、
どうにか交渉すれば予算内におさめられるかも? というオーバー具合。
うーん……。まさか、突発的に美杉に立ち寄り、
いいかも!? と思える物件に出会ってしまうとは……。
といっても、いきなりこの物件を買うという決断は
できません(賃貸だったらなあ……)。
とにかくヒートアップした脳みそを冷やそうと。
物件の見学を最後に、その旅は終えることにしました。
沓沢夫妻に、その物件がかなり気になっているということを興奮気味に伝え、
東京へと戻ります。

雨の森もまたいいです。この旅では雨について、水について随分と考えさせられました。
気になる物件が具体的に出てくると、
いよいよ「移住」が現実味を帯びてくる、そう感じました。
いままでにはない感情でした。
そして、東京に戻り、次の移住探しの旅に出るまで少し時間があるので、
その物件をどうするか? これからの移住先探しの旅をどうするのか?
冷静に考えてみようと思います。
あまりにも濃い旅がひとまず終わります。
さあ、わが家の移住先探しの旅、どうなるのでしょうか……。
今回の移住先探しの旅
information
農家民宿なかや
information
日本料理 朔
住所:三重県津市美杉町八知3541
営業時間:11:30~16:00(11:30~と13:15~の2回)
定休日:水曜・木曜・金曜
*各回6名まで、完全予約制、4300円(税込)のおまかせコース

