移住先探しの旅は岡山へ。 心揺さぶられた 牛窓町の陶芸家夫妻の暮らし

夫婦で交互に綴る
暮らしと移住のはなし

コロカルで『美味しいアルバム』を連載する
フォトグラファー津留崎徹花が
夫、鎮生とともに移住を決意。
夫は今年6月に会社を辞め、現在は無職。
ふたりと5歳の娘は、改造したワンボックスカーで
移住先探しの旅に出ることに。
夫婦で交互に綴る連載、今回は妻の徹花が見た、
岡山の陶芸家夫妻の暮らしについて。

私の背中を押してくれたもの

は2年前に会社を辞め、
フリーランスのフォトグラファーとして仕事をしている。
『コロカル』や『anan』など、雑誌やウェブの仕事がメインで、
それまでは社員カメラマンとして出版社に18年勤めていた。
2011年に娘が生まれたときに育児休暇をとり、
翌年の春から職場に復帰して2年間フルタイムで働いた。

40歳が目前となったとき、
いったい自分は何をしているんだろう……と、ふと思った。
子育てと仕事に追われ、時間に追われ、
いつもイライラしている自分にようやく気づいた。
40歳といえば人生の折り返し時点、
このままだと死ぬ前にきっと後悔する……。
仕事も含めて、自分が本当にやりたいこと、
やるべきことは何だろうと考え始めた。
家族との時間をもっとゆっくり穏やかに過ごしたい。
この先、自分たちがどんな環境で何をして暮らすのがいいのだろうか。
その答えを探し始めた。

すると、「そういうことだったのか!」と、
自分たちに気づかせてくれる人たちが次々と目の前に現れ始めた。

コロカルの連載で出会ったおばちゃんたちからも、
人生におけるヒントをたくさんもらった。
沖縄で土を耕しながら店を営んでいるおばちゃんからは、
こんな言葉をもらったこともある。
「無理して高収入得なくても半分くらいにしてさ、
地方で何もかも自分で工夫して育ててさ。
やってみたらわかると思うから、土を身近に感じる暮らしのよさがね」
本当に移住に踏み切っていいのか悩んでいた私の背中を押したのは、
おばちゃんの教えだったように思う。

移住したいんだと友人に話すと、「お金どうするの?」と聞かれ
「うーん、どうするんだろ、なんとかなるんじゃない?」と答える。
不安がないわけではないけれど、何となくどうにかなるような
気がしている、漠然と。
でも時々は不安になって、父親に相談したりもした。
すると、「人生は冒険だ。予測がつくことなんて何ひとつない、前に進め!」
というメッセージが返ってきた。
そうだ、人生は一度きり、前に進もう。

[ff_assignvar name="nexttext" value="岡山の陶芸家夫妻の家で感じたこと"]
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すべてがひと続きに
なっている暮らし

岡山に住む友人の寺園家も、私たちを激しく揺さぶってくれた人たちだ。
時間にとらわれない丁寧な暮らしをしている彼らに出会ったことで、
自分たちが進みたい方向がはっきりと見えた気がする。

寺園家を初めて訪ねたのは昨年の秋のこと。
証太さん(以降、証ちゃん)とゆうこさん(ユウ)と私は、
同じ大学に通っていた。
卒業してからふたりが結婚したことは聞いてたのだが、
どんな暮らしをしているのかは知らないまま18年が経っていた。
たまたま共通の友人から、証ちゃんが陶芸家になったこと、
その暮らし方が独特で魅力的だと聞き、ちょうど岡山に行く
用事があったので、ついでに寄らせてもらうことにした。

寺園家が住んでいるのは、岡山市から車で1時間ほど東寄りの
瀬戸内市牛窓(うしまど)町。
豊かな自然がありつつ市街地も近いというのは、
子どもを育てるうえでもとても生活しやすい環境だと思う。

寺園家は牛窓に土地を購入して、ハーフビルドという方法で自宅を建てている。
基礎や構造は業者に依頼して、内装などは自分たちで自由につくるというのが
ハーフビルド。
自分たちでつくり上げたという家の内部は、普通とは少し違っている。
それは、仕切りが極端に少ないこと。
トイレとお風呂以外は一切壁がなく、
生活スペースと仕事場もすべてがつながっている。
作陶するときはどこかにひとりこもるんだよね? と思ってしまうが、
寺園家の場合はすべてが混在している。

寺園家は「無理だからあきらめる」という思考から
遠いところにいるのだろう。自宅に隣接している登り窯は、
家族や友人で3年の歳月をかけてつくり上げたという。
立派な窯を目の前にすると、
「どうやったらこれ自分たちでつくれるの? 無理でしょ……」
とつぶやいてしまう。

もうひとつ驚いたエピソードは、次女モモちゃんを自宅出産したこと。
しかも、ユウは40才を超えていて、助産師もなしの完全家族だけ。

「無理でしょ……」

証ちゃんの工房は、ダイニングのすぐ横にあり、ピアノの隣。
そもそも、そこが工房なのか玄関先なのかダイニングの延長なのか、
区別がつかない。なんだかその、どっちにも属さない、どっちでもいいような
曖昧な雰囲気というのがとても心地よいのだと、そのとき初めて知った。

長女の空ちゃんがピアノを弾いていると、
そのすぐ隣で証ちゃんがろくろをゆっくりと回し始める。
かたわらには裸ん坊で走り回る、次女のモモちゃんと愛犬のクロ、
そして2匹の猫。子どもや動物がウロウロしているこの状況で、
私ならとても集中できない……。
けれども、証ちゃんは土に吸い寄せられるようにして、
いつの間にかその世界に入っていく。
その姿はとても印象的で、すてきすぎてうらやましい。

作陶が一段落すると、何ごともなかったように台所に立ち、
夫婦で食事の支度を始める。寺園家にとってはこの家のつくりと同様、
仕事も子育ても炊事も区別がない。
すべてがひとつ線上にあって、行ったり来たりするだけ。
それぞれが好きな時間を好きな場所で過ごしている彼らは、
象のような穏やかな動物の群れのように見えた。
無理のないその暮らし方がとても魅力的に映り、
人としてもともとのあるべき姿のようにも感じられた。

ユウがつくってくれる料理はシンプルで力強い。素材の味がダイレクトに伝わってきて、野菜とは、そもそも命なんだと感じる。

近所の方にいただいた金糸瓜をお浸しにしていただく。金糸瓜は東北や中国地方でよく食べられていて、切って茹でると、繊維が金の糸のようにほどけてくるちょっと変わった野菜。

彼らと再会して以来、これまで自分たちが
当たり前だと思い込んでいたことに違和感を感じるようになった。
わが家は、夫が会社を辞めるまではそれぞれが別の場所へ仕事にでかけ、
日中どんな様子なのかもお互いに知らず、
夜ごはんを一緒に食べるのも週の半分くらいという、
都市部ではよくある生活スタイルだった。
岡山から帰ってからのある日、夕食を子どもとふたりで食べていることが
不思議に思えた。

「なんで夫はいないんだろう、家族なのに」

寺園家と過ごしたことで確実に思考が変わり、何かが動き出したのだと思う。

昨年の再会をきっかけに、寺園家と連絡を取り合うようになった。
夫が会社を辞めた翌月の2016年7月、
証ちゃんが作品の展示会をやるというので、
再び訪ねてみることにした。

[ff_assignvar name="nexttext" value="岡山も移住先候補に?"]
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岡山で暮らしてみたい…
かもしれない

証ちゃんが展示会をしていたのは、岡山市内にある〈ゆくり〉というお店。
中庭のある古い民家がとてもすてきで、窓から差し込む光が気持ちよく、
つい長居をしてしまうようなお店だ。
その日、ゆくりで寺園家の友人らが集まってみんなで食事をするというので、
私たちも参加させてもらった。

今回〈ゆくり〉で開催されていたのは、証ちゃんと写真家ムサシさんの二人展。

ムサシさんが切り取った、寺園家の日常やアフリカで出会った動物などの写真も展示されていた。寺園家もアフリカの動物も、なんというか愛の塊で、ムサシさんの優しい眼差しに、同じく写真を撮る者として嫉妬すら感じた。すばらしい写真でした!

食卓を囲んでいたのはほぼ岡山在住の方々で、
他県から来ているのは私たちとほか数人のみ。
自分たちが移住先を探しているという話をすると、
「岡山いいとこだよー、岡山にぜひ!」とみんな笑顔で誘ってくれる。
どんなところがいいんですか? と聞くと、

「野菜も魚もおいしいし、水も空気もおいしい!」

たしかに、目の前に並んでいる岡山県産の野菜も魚も絶品。
燦々と振り注ぐ太陽を浴びた野菜は、
体に入れると力が湧いてくるような力強さがある。
近海で採れた魚は余計なものを一切感じない、甘みと旨みそのもの。

「野菜も近所の人にもらえるし、魚も新鮮なものが安く手に入るし」
おいしい魚が安く手に入ること、それは私が移住先に望んでいること。
うむ、岡山もいいな~。

「おもしろい人が多いし!」

たしかに、この日お会いした面々も
とても個性的で生き生きしていておもしろかった。

「いつ岡山に引っ越すんですか?」と聞かれ、
「考えてみます」とつい答えてしまった。
胃袋をがっちり押さえられながら笑いに包まれているうちに、
岡山で暮らしてみたくなってしまったのだ。

岡山はもともと移住先としては考えていなかった。
私は東京での仕事も続けたいと思っているので、
行き来するには少し遠すぎる、そんな気もした。
ちなみに岡山と東京のアクセスは以下。

●車(以下、すべて片道)7時間

高速料金13920円+ガソリン代7500円=合計21420円

*リッター10キロ、1リットル115円として計算
(家族全員で移動するときには安く収まるが、7時間となると頻繁には無理)

●新幹線 3時間17分

17140円
(往復およそ3万5千円、ちょっと高いな~)

●飛行機 1時間15分

「特割75」9390円~

「特割3」14190円~

(75日前の撮影のオファーというのはあり得ないので、現実的なのは「特割3」。となると、往復およそ3万円。これならありかも)

●深夜バス 10時間(岡山駅20:30発、新宿駅6:35着)

5000円~
(40歳を過ぎた体にはきついな……)

高速バスが便利な淡路島とか、
もう少し東京に近い三重県などをイメージしていた。
だが、今回の旅であらためて考えている。
この先どれくらいの頻度で東京に通うことになるのか。
二重生活がいつまで続けられるかわからないんだし、
東京とのアクセスにさほどとらわれることもないのかもしれない。

そうしたら岡山もありなのかも?
でも、東京の家族に気軽に会いに行くことはできなくなるし。
などなど、頭がぐるぐる。
思ってもみなかった岡山も候補地に入り、
さらに移住先を迷い始めてしまった。
果たして、どこに着地すればいいのだろうか……。

このあと改造ワンボックスカー〈歩く花号〉は、
徳島、淡路島、三重を回ります。
そこでもまた新たな展開があり、津留崎家、とっても悩んでおります。
その様子はまた次回お届けします。

こぼれ話。「近くにいい海があるよ」というユウの言葉に誘われて、牛窓海水浴場に出かけた。はるか遠くまで続いているのは、波のない穏やかな瀬戸内海。

子どもたちは満面の笑みで水とたわむれ、夫はビーチチェアに座って海風を味わっている。こんなに豊かな時間を家のすぐそばで過ごせるということが、本当の贅沢なのかも。

information

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寺園証太工房

住所:岡山県瀬戸内市牛窓町長浜5183-3

Web:terazonoshota.com

information

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ゆくり

住所:岡山県岡山市北区撫川173-1

TEL:086-292-5882

営業時間:木・金・日曜 11:00~16:00

Web:www.yukuri-utsuwa.net

information

Musashi FILM

写真・文 津留崎徹花

text & photograph

津留崎徹花 Tetsuka Tsurusaki
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。東京での仕事を続けながら、移住先探しの旅に出る日々。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。

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