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ご近所さんとのこと

森のまち智頭町子育て日記
vol.004

posted:2015.9.17   from:鳥取県八頭郡智頭町  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  鳥取県南東部に位置する八頭郡智頭町。
森林に囲まれたこの小さなまちに、家族4人で移り住んだ一家がいます。
このまちで、どんな風に子どもたちが育っていくのか。普通の母親の目線から、その日常を綴ります。

writer profile

Aya Tanaka

田中亜矢

たなか・あや●横浜市生まれ。2013年東京から広島・尾道へ、2015年鳥取・智頭町へ家族で移住。ふたりの子ども(3歳違いの姉弟)を育てながら、マイペースに音楽活動も続けている。シンガーソングライターとしてこれまで2枚のソロアルバムをリリース、またバンド〈図書館〉でも、2015年7月に2枚目のアルバムをリリース。
http://ayatanaka.exblog.jp/

あたたかいご近所さんたち

ガラガラ~。
下の子の授乳などをしていると突然玄関の引き戸が開いて、
近所のおじいちゃんやおばあちゃんが立っている。
手にはたくさんの野菜や果物。
こちらに来てからの、日常風景だ。

最初のころは玄関が急に開くたびに驚いていたが、
最近ではずいぶん慣れてきた。
じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、トマト、キュウリ、
なす、かぼちゃ、ピーマン、甘長とうがらし、ゴーヤー……
そのときどきに、おうちの畑で採れたばかりの野菜をどっさり、
食べきれないから……と言って分けてくださる。

いただいた野菜。じゃがいもを箱いっぱいいただくことも。

春に智頭に引っ越してきてから、定住する家を探しつつ
町営の“移住おためし住宅”に住んでいるのだが、
ご近所さんはとても親切で、そのおかげで
初めてのまちでも不安を感じることなく暮らせている。
地域のことをいろいろと教えてくださるのはもちろん、
雨が降りだすと、洗濯物が濡れないように知らせてくれたり、
はたまた外出中に雨が降ると、洗濯物をとり込んでくれたり!
子どものこともとてもかわいがってくれて、
娘に「ちょっとうちに遊びに来るか?」と、
ごく自然に手を引いて、家に連れていってくださることもある。

こんなこともあった。
ある朝、娘を森のようちえんの集合場所に送っていこうと車に乗ったら、
なぜかエンジンがかからない。
ちょうど前の家のおじいちゃんが外にいて、
娘が「くるまがうごかないのー!」と言うと、
車に詳しい息子さんと一緒に来てくださった。
いろいろ試みるも、やはり原因がわからず、
ああでもないこうでもないとやっていたら、
すっかりようちえんの集合時間が過ぎてしまった。
すると、息子さんが車を出してくださり、
フィールド(活動場所の森)に、直接送っていただくことに!
おかげで無事に、娘を送り届けることができた。

家に戻ると、今度は、何軒か先に住んでいるおじいちゃんを連れてきてくれた。
聞けば、我が家の車と同じ車種に乗っているという。
おじいちゃんがハンドルを強く回しながらエンジンをかけると、
一発でエンジンがかかった!(原因はハンドルロックだった)
車が動かないことで、今日はようちえん休むしかないかな……
JAFを呼ばないといけないな……などと考えていたわたしは、
ご近所の力でそれらがすべて解決してしまったことに感激だった。

移住おためし住宅の庭にて。登園前に花を摘む。

家の玄関や窓や物干竿には、いつも小さなお客さんが。

夏は、地区の行事もいろいろとあった。
7月には集落の夕涼み会。
広場に椅子とブルーシートが用意され、
住民の方々が焼きそば、焼き鳥、かき氷、ビールなどを売る。
小さなステージでは、皆が順番にカラオケを歌う。
集落にはまだまだ面識のない方もいるので、
最初、わたしたちが会場に着くと、
「あれは誰?」という視線が注がれたが、
会の最初のほうで、我が家を紹介してくださり
その後はいろんな方が親切に話しかけてくださった。
娘は駐在さん一家のところに入りびたって遊んでもらい、
息子は抱っこしてくれたおじいちゃんの腕で熟睡。
また、新しい住人はカラオケを歌うのがお決まりで
わたしは夫が勝手に入れた「天城越え」を十何年ぶりかに歌うことに……。
ともあれ、いろんな方と交流ができて、楽しい会だった。
8月には集落のさらに小さな単位、“班”の夕涼み会もあり
バーベキューを囲みながら、ご近所さんと歓談した。

夕涼み会に向かう道。用水路から水を引き込んだ池に鯉がいた。

集落の夕涼み会。小さなステージでカラオケを歌う。

Page 2

9月に入ると、廃校になった小学校のグラウンドの草刈り。
秋に開催される地区の運動会に向けて、皆で整備するのだ。
我が家からは夫が参加し、草刈り機がないので、
刈られた草を集めて運ぶ仕事をした。
草刈りといえば、家の庭の雑草も伸びたままにしておくと、
ご近所の視線をあびることになる。
我が家はつい忘れがちで、見かねた(?)お隣の会社の方が
ついでに草刈りをしてくださったこともあった……。

家の隣、廃校になった小学校のグラウンド。ここでも花摘み。

このほかにも、地域の行事はいろいろとあるし、
定住するとなれば消防団にも参加することになり、
ご近所のつながりは、とても濃い。
少し前、ヨガクラスで知り合った方とおしゃべりをしていたら、
そういうしがらみが嫌で地元を出て行った友だちも多いと言っていた。
(その方は、生まれてからずっと地元・兵庫県のとあるまちに住んでいる)
なるほどなぁ……。
たしかに、面倒と感じればそうかもしれない。
でも、どちらかといえば都会で暮らしてきたわたしにとっては、
お金では買えない豊かなものが、そこにあるような気がしてならない。
なんでも身内で、またはお金を払うことで解決していたことが、
人と人との、お互いさまの助け合いで解決するということ。

夕暮れ時に近所を散歩。田んぼが黄金色に近づいてきた。

智頭に来る前、2年間住んでいた尾道でも、
ご近所さんはもちろん、通りすがりの人とも
ごく自然と会話が始まる雰囲気があった。
それまで人見知りが激しかった娘が、すごくオープンな性格になり
誰とでも積極的にコミュニケーションをとるようになっていったのは
年齢的なこともあったかもしれないけれど、
環境からの影響も大きかったんじゃないかな……と感じている。

もちろんこれは、あたたかく迎えていただいているからこそ言えることだし、
これから長く暮らしていくなかで、大変と感じることもあるかもしれない。
それに、いまはまだ「してもらう」ばかりで、
ほとんど何もお返しすることができていない。
わたしたちなりに、できることってなんだろう……。
そんなことを考えながら、今日も、
ご近所の自然な親切をしみじみとありがたく思うのであった。

ある日のやさしい夕焼け空。

日没後、静かな集落の風景。

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