連載
posted:2017.10.24 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
岩見沢の山里にエコビレッジをつくれたら。
そんな想いを持ちながら、いまわたしは、
この地域で自分ができることは何かを探っている。
今年に入り、山里をテーマにした展示や似顔絵マップを地域の仲間とつくっており、
こうしたなかから地域に根ざしたエコビレッジの輪郭が
浮かび上がってくるのではないかと考えている。
さらに6月には、アーティストやデザイナーと一緒に岩見沢の山里を舞台にした
ワークショップを行う〈みる・とーぶSchool〉を立ち上げた。
6月より月1回ほどのペースで開催、10月で第4回となった。
10月のゲストは、札幌生まれで東京を拠点に活動する写真家の南阿沙美さん。
今夏開催された札幌国際芸術祭2017の参加アーティストで、
展示の搬出を終えた後に岩見沢に立ち寄ってくれた。
南さんに出会ったきっかけは雑誌の仕事だ。
わたしの本業はフリーランスの編集者。
担当した雑誌の記事で、あるとき南さんが撮影をしてくれたことがあった。
これまでたくさんの写真家と仕事をしてきたが、
南さんの撮影する様子は特に印象深かった。
取材相手に、弾けるような笑顔で話しかけながらシャッターを押す南さん。
その笑顔を見ているうちに、ついつい取材相手の顔もほころんでくるのだった。
誰が撮影するかによって、人はまったく違う表情を見せるもの。
生き生きとした表情を引き出すのが、南さんはとても上手だと、
そのとき強く感じたのだった。
また、雑誌の仕事だけでなく、作品として発表された写真もとてもおもしろい。
札幌国際芸術祭2017では、壁にところせましと人物写真が並べられ、
『ハトに餌をやらないでください』というタイトルがつけられた。
「ハトの餌なんか持っていないのに、この張り紙を見ると、
まるで自分が餌をあげようとしていたのかという、よくわからない気持ちになります。
そうしたいと望んでいたのかもわからないのに、思わずシャッターを押してしまう、
そういう感覚があるんです」
南さんの写真は、日常の何気ないスナップかと思いきや、
モデルの表情やポーズに意外性が感じられたり、
道端に置かれた意味不明な形状の何かがあったり。
簡単には見過ごせない、“心のひっかかり”とでもいったらいいのか、
不可思議な感覚が潜んでいる。
こうした写真を撮る南さんとワークショップをやってみたら、
参加者もいつもと違った1枚が生まれるのではないか。
10月4日「親子で楽しい写真を撮ろう!」と題したワークショップに、
わたしはそんな期待を持っていた。
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開催当日は、あいにくの雨。
これまでのワークショップは、子どもたちの遊び場〈みんなの森運動広場〉で
やってきたが、雨を避けて隣接する公民館で実施することに。
ただ、わたしには一抹の不安があった。
ここは、いわゆる地域の公民館で味も素っ気もない空間。
せっかく写真を撮るのに、果たしていい絵になるのか……。
南さんに下見をしてもらうと、iPhoneをサッと取り出して、
さっそくいくつか写真を撮ってくれた。
「部屋の中でも、いい写真撮れそうですね」と笑顔の南さん。
やがてワークショップの時間となり、参加者たちが集まってきた。
今回は、岩見沢の山里にある小学校に通う子どもとその親たちに加え、
写真に興味を持つ仲間が、車で30分以上もかけてやって来てくれていた。
南さんは、まずはじめにiPhoneで撮った写真を参加者に見せてポイントを説明。
すると、大人たちは「おお~!」と歓声を上げていた。
当初、親子で撮り合いっこするイメージだったが、
子どもたちはワイワイ走り回って大騒ぎ。
南さんは笑いながら、その子どもたちを追いかけ、どんどんシャッターを切っていく。
そんな南さんにつられて、ほかの大人たちも、
いつになく子どもたちに接近してバシャバシャ撮影。
最初はモデルをしてくれていた子どもたちだったが、
大人からカメラを借りて撮影を始め、全員がカメラを持って撮り合うという混乱状態。
制御不能となった子どもたちのエネルギーに、大人は押され気味。
こんな状態で果たして撮影はうまくいったのだろうか……。
一般的なワークショップは、もう少し計画だててお行儀よく(?)
進めるんじゃないか、あまりにも子どもを野放しにしすぎ(?)
という気にもなったのだが、後日送ってもらった写真を見て心が躍った。
グッと子どもに迫るような写真やクスッと笑いがこみ上げるようなものなど、
南さんと撮ったからこそ生まれたと感じられる表現がたくさんあったからだ。
〈みる・とーぶSchool〉は、アーティストやデザイナーと一緒に何かをすることで、
彼ら彼女らの表現の根幹に触れてもらえたらという想いから始めた活動なのだが、
参加者のみなさんはどう感じたのかは、これまでハッキリとはとらえられないでいた。
けれど今回、みなさんの写真をあらためて見る機会を得られて、
言葉にならない“何か”が確実に伝わっていると実感できた。
これまで4回続けてきたが、実は〈みる・とーぶSchool〉は、
運営方法や方向性が定まっていない、試行錯誤中の活動だ。
お金の面では、参加費ひとり500円という設定もあり、
ゲストに払える謝礼は微々たるもの。
交通費などは到底払えず、昔からの友人が、わたしの家に
タイミング良く遊びに来てくれたから実現できたことだが、
ずっと“友人頼み”という状態ではまずいのでは……と自分でもツッコミを入れたくなる。
規模を大きくして経済的に回るように
ワークショップを整備していくことも考えられるが、
近所の子どもたちがふらりと立ち寄れる、気軽さは維持しておきたい。
こんなふうに迷いながら(次回のゲストも決まっていない)、
進めている状態だからこそ、今回、参加者が撮った写真を見て、
この場から生まれた“何かがある”と実感できたことは、
自分にとってとても重要だったのだ。
「写真家・南さんの人との間合い、タイミング、すごかったなあ。
すごい仕事人がふつうにそこにいる〈みる・とーぶschool〉すごいすごい。
大人になって随分経つはずなのに、知恵熱が出ました」
開催後に参加者からこんなメッセージをもらい、
知恵熱が出るようなワークショップってなんだかいいなあと、
かすかな糸口が見つかったような、そんな気もしつつ……。
いまはまだ、なぜ、この活動をやっているのか自分でもよくわからないけれど、
毎回起こる混沌とした場に、可能性を感じずにはいれない。
わからないけどやってしまうっていう感覚は、これはもしや
「ハトに餌をやらないでください」状態なのかしら?(南さん、どうでしょう??)
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