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アーティストと子どもが一緒に遊ぶ
〈みる・とーぶSchool〉
過疎地域につくる独自の学びの場

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.046

posted:2017.7.6   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

画家・MAYA MAXXが再び美流渡にやってきた!

北海道の春はあっという間に過ぎ去り、6月になると初夏の兆しが感じられる。
新緑の美しいこの季節に入ると、
道外の友人たちが、ここ岩見沢を訪ねてくれる機会が増え、
わが家には楽しい出来事がいろいろと起こるようになる。

6月下旬、京都からやってきてくれたのは、画家・MAYA MAXX。
わたしがアートとイラストレーションの雑誌『みづゑ』の編集長をしていた頃に出会い、
15年以上、家族ぐるみでおつき合いをさせてもらっている大切な友人だ。

MAYA MAXX『見えぬものを見るように』2016 何必館・京都現代美術館での個展『黒から玄へ』より。

MAYA MAXXは愛媛県生まれの画家。
1993年よりこの名で活動を始め、2008年には活動の拠点を東京から京都へ移し、
〈何必館・京都現代美術館〉で毎年のように個展を開催。
また、『らっこちゃん』や『ちゅっちゅっ』などの絵本の刊行でも知られている。

わが家を訪ねてくれたのは2度目。
1度目は、昨年2月に、地元の北海道教育大学岩見沢校で行われた市民向けイベント
〈あそびプロジェクト〉でワークショップと講演を行うためにやってきた。
このとき併せて、わが家族がこれから転居しようと考えている、
岩見沢の中山間地・美流渡(みると)の小中学生を集めたワークショップ
開いてもらったこともあり、今回再びこの地で
子どもたちと絵を描く機会をつくってもらうことにした。

今回、MAYA MAXXはプライベートでの来道だったが、
ワークショップを快くOKしてくれ、ありがたいことに画材一式まで提供してくれた。
こうしてMAYA MAXXの地元・今治でも開催したことのある、
タオル素材のポンチョに絵を描くという
子ども向けのワークショップを開催することとなった。

昨年2月、美流渡の中学校体育館で開催したMAYA MAXXと絵を描くワークショップ。大画面に手と足を使って大地となる色を塗り、上から筆で美流渡の風景を描いた。

開催に際して、このワークショップに〈みる・とーぶSchool〉という名前をつけた。
岩見沢の美流渡地区を含む中山間地一帯を東部丘陵地域と呼ぶため、
“東部”を“見る”でみる・とーぶ。

この連載でも紹介したように、4月に札幌で、
地元有志によるイベント〈みる・とーぶ展〉を開催しており、
それに続く新しい試みが、この〈みる・とーぶSchool〉となる。

わが家が転居を決めてから、この東部丘陵地域に関わることが多くなるにつれ、
過疎化によるさまざまな問題があることを知った。

そのひとつが、子どもたちの教育だ。
転居に先立ち息子はすでに美流渡の小学校に通わせているが、全生徒数はわずか6名。
一時は教育委員会から統廃合の方針が出されたこともあったり
(現在、この方針は保留の状態)、近隣には児童館など
放課後に子どもを預かってもらう施設がなかったりと、
どうしても行政の手が行き届かない場所となっている。

また、息子を生徒数の少ない学校に通わせることに対して、
充分な教育が受けられるのかと疑問を口にする友人もいた。

そんななかで、もし行政の手が回らない部分があるのであれば、
親たちが工夫することで、東部丘陵地域らしい学びの場がつくれるんじゃないか? 
そんな想いがわたしにはあった。

すでに地域の人々は、人数が少ないからこそ、
運動会などの学校行事に積極的に参加しているし、
PTA主催のイベントにも熱心な人が多いこともあり、
親が子どもたちへ向けた何かを企画をするのは、
この地域ではとても自然なことのように思えた。

しかも、MAYA MAXXの来道のあとにも、クリエイターの友人たちが、
美流渡を訪ねてくれることになっており、それならば月1回ペースで、
〈みる・とーぶSchool〉が開けるのではないかと考えたのだ。

美流渡の運動会。保育園、小学校、中学校合同で行われ、約30名の子どもたちが参加。玉入れ、綱引き、リレーなど親が参加する競技も多数ある。

美流渡地区には児童館がないため、今春から小学校の親たちで〈美流渡ほうかごあずかりの会〉を始めた。親が交代で子どもたちを見守る。

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いよいよワークショップ開始!

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絵具だらけ! 満面の笑顔ではしゃぐ子どもたち

そんないろいろな想いを抱えながら、
〈みる・とーぶSchool〉第1回のワークショップを6月21日に開催した。
美流渡の幼児や小学生たちを中心に参加を呼びかけ、
おおよそ10名くらいの参加予定だったが、噂を聞きつけ、
最終的には17名の子どもたちが集まった。

キャンバスとなるタオルを広げ、MAYA MAXXの
「今日は生き物を描いてみよう」という提案を受けて勢いよく筆を動かす子どもたち。
ウサギやネコといったかわいらしい絵を描く子もいれば、
大トカゲやシャチなどを大胆な筆遣いで表現する子も。

〈美流渡ほうかごあずかりの会〉でよく遊んでいる公園、〈美流渡みんなの森運動広場〉が会場に。美流渡の保育園・小学校の子どもたちとともに、岩見沢市街地や、隣接する三笠市からも親子が集まった。

この日、MAYA MAXXが提供してくれたタオルは今治の名産品。今治のお母さんたちが、ワークショップに使うためにポンチョにしたててくれたものだ。好きな色を選び、筆で動物を描く子どもたち。しかし、だんだんと……。

はじめは筆で描いていたのだが、次第に手や足に絵具を塗って
スタンプをするようになり、ついにはボディーペイントへ発展し……。

子どもたちの様子を観察していると、一番弾けて遊んでいたのは、美流渡の小学生たち。
ワークショップの場所は、いつもみんなで遊んでいる公園。
子どもたちのホームグラウンドだったことも、心が解放された理由のようだ。

足形スタンプを押し始め……。

顔にもペイント!

ついに全身に! 映画『アバター』のようだと言われ、うれしそう!?

そして最後に、とっておきの仕掛けがあった。
たくさんのシャボン玉がつくれるシャボン玉マシーンを用意してくれたMAYA MAXX。
タオルポンチョを身につけた子どもたちが、シャボン玉を追いかけ、
ぴょんぴょんと草原を飛び跳ねる姿は、なんともシュールで美しい光景だった。

顔も体も絵具でベトベトになった子どもたち。
描いたあとに走り回り、体も思いっきり動かしたこともあり、
誰もが満足そうな表情を浮かべていた。
普段だったら親に叱られそうな状態だが、
図工の時間にお行儀よく紙に絵を描くのとは異なる、新鮮な体験だったに違いない。

何よりMAYA MAXXという、絵を描くことに一生を捧げ、
日々を真剣に生きる大人とのふれあいは、
きっと子どもたちの心に響くものがあったはず。
MAYA MAXXと子どもたちの姿を見ていて、
〈みる・とーぶSchool〉は、どんな内容のワークショップをやるのかよりも、
希望を失わず、自分の夢を追い続ける強いエネルギーを持った大人と、
子どもたちが接する場となることが大事なんじゃないかという想いをあらたにした。

シャボン玉を追いかけて、子どもたちは飛び跳ねる!

NHK札幌放送局の取材も! シャボン玉を追いかける子どもたちの姿を見て「ミュージックビデオのようでしたね~」とリポーターの女性。

「また、冬に来るから絵を描こうね!」とMAYA MAXX。

MAYA MAXXがくれた大切なひと言

MAYA MAXXの来道はワークショップに参加した子どもたちだけでなく、
わたし自身にとっても重要な意味があった。
この連載のテーマでもあるエコビレッジづくりを、
数年前に薦めてくれたのはMAYA MAXXだ。
その理由をMAYA MAXXは特に語らなかったけれど、
ピンとくるものがあり、そこから新しい世界が開けていった。
そして、今回もMAYA MAXXが、ふと語った言葉が、わたしの心を大きく揺さぶった。

それは、「やっぱり大切なのはさ、自分を否定して、相手を肯定できるかなんだよね」
という言葉。

東部丘陵地域で行う活動について、いろいろな人の思惑があって、
それをまとめることの難しさがときにはある、そんなことを話していたとき、
MAYA MAXXがそう語ったのだ。この言葉に一瞬ドキリとした。

地域貢献的な活動をしていると、ついつい自分は正しいことをやっていて、
理解を示してくれない人を否定しようとする心が働くことがある
(夫婦関係も一緒だと気づいて、いっそうドッキリ。
つい悪いのは相手と思ってしまうし……)。

MAYA MAXXの言葉のような気持ちを持って動かなければ、
ひとりよがりな活動に陥る可能性もある。
もしかしたら、いまの自分に欠けている部分なのかも……。
これからも、いろいろな活動をやっていこうと思うが、
そのときに、MAYA MAXXの言葉を常に心に問いかけながらやっていこう。
このとき素直にそう思うことができた。

〈みる・とーぶSchool〉の第2回は、
わたしたちに〈みる・とーぶ〉の活動を始めるきっかけをくれた
アクセサリーデザイナーの岩切エミさん。
今度は子どもたちと、ダンボールに色紙や布を貼った
電車づくりを楽しめたらと考えている。

〈みる・とーぶSchool〉第2回は、岩切エミさんと一緒に“子ども電車”をつくろう。7月9日10時スタート。詳しくはミチクル編集工房のFacebookで。

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