つくり手の顔が見える、 豊かな食卓。 淡路島のさつまいも料理から 感じた大事なこと。

淡路島の美味しいアルバム

今回の美味しいアルバムの舞台は
フォトグラファー・津留崎徹花がここ数年、何かと縁があるという淡路島。
たまたま見かけた記事に惹かれ、さっそく取材依頼。
淡路島の〈あわじ花の歳時記園〉で迎えてくれたのは、
はつらつとした声が印象的な緒方信子さんでした。

懐かしいさつまいも掘りから、おいしい郷土料理、そして
ぐっと心に響いた信子さんの話。
今回の旅でもたくさんの出会いと収穫があったようで…

る日、自宅に大きな段ボールがひとつ届いた。
ずっしりと重い箱を開けてみると、中には新米やさつまいも、栗にすだちなどなど、秋の味覚がぎっしりと詰まっていた。
送り主は淡路島の長沢に住む緒方信子さん。

「大好きな秋、食欲の秋、味覚の秋がやってきました。
主人の大好きな新米が収穫されました、ぜひ食べてほしくて。
長沢の味を送ります。緒方信子」

という絵手紙が添えられていた。箱いっぱいに詰まった土の香りに触れたら、信子さんの言葉をふと思い出した。

「お金はなくても心は豊か、それが一番やね」

風が抜けるテラスで、軽やかに笑っている信子さんの姿が思い起こされた。

ここ数年、淡路島に何かと縁がある。

初めて足を踏み入れたのは2年前のこと。

出張で神戸へ行くことになり、以前から気になっていた淡路島を訪ねてみることにしたのが始まり。その後も撮影で行ったり、地元の方が開催しているイベントに参加させていただいたりと、たびたび足を運ぶようになった。
訪れるたびに島の魅力に触れ、親近感と愛情がどんどん募っていく。

昨年の夏もまた、淡路島で開かれるイベントへ行くことになった。
イベント自体は半日なので、ついでに何か取材ができないかと、インターネットで情報収集。すると、気になる記事を見つけた。

地元のお母さんが、土地の大根を使っておいしそうな郷土料理をつくっている。読み進めてみると、ご自宅は栗や柿の木などに囲まれた自然豊かな環境で、ジャムやら豆腐やらなんでもご自身でつくってしまうのだそう。
写真から伝わってくるその豊かな暮らしぶりに、一瞬にして心を奪われた。

お会いしてみたい。

連絡先を探すと、観光農園〈あわじ花の歳時記園〉を営んでいる方とわかり、電話をかけてみた。

張りのある声で電話口に出てくれたのが、緒方信子さん。

インターネットの記事を拝見し取材させていただきたいのだと伝えると、
「どうぞどうぞ」とすぐさま快諾してくれた。さらに、あんな料理もこんな料理もできるけど、さあどうする? という具合に、次から次へとアイディアをいただくものだから、なかなかメニューが決まらない。

結局その日の電話では結論がでず、その後何日もかけて電話でご相談させていただいた。突然連絡をしたにもかかわらず、こんなに熱心に対応してくださるなんて、本当にありがたい。

数日後にようやく決まったメニューは“さつまいも料理”。
長澤地区でも栽培がさかんに行われていて、まさに秋が旬なのだそう。

「このあたりで採れるもんは、ほんまおいしいんよ。
それを食べているだけで幸せよ~」

そんなはつらつとした信子さんの声を聞いていたら、今回の旅がいよいよ楽しみになってきた。

[ff_assignvar name="nexttext" value="いよいよ〈あわじ花の歳時記園〉へ"]
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翌月。

イベントが終わった翌朝、あわじ花の歳時記園へと向かった。

国道添いの看板を目印に、さらに奥へと進んで行く。携帯の電波が途切れ始めた頃、駐車場へと到着した。車を停め、目の前の急な階段をえんやこらと上って行く。頂上に着いてあたりを見渡すと、眼下には青々とした緑が広がり、遠くには海が見える。なんて気持ちがよいんだろう。

ふーっと、深呼吸をひとつ。

緒方さんご夫妻が営むこの園は、6月のあじさいの時期になると、3000坪の敷地内に3500株の花が咲き乱れるのだそう。
テラスカフェも併設されているので、ゆっくりと散策を楽しめる。

「おじゃまします」

建物の中へ入ると、緒方さんご夫婦が出迎えてくれた。

「よう来たね~」

信子さんのビビッドなピンク色のTシャツが目に飛び込んでくる。
もんぺとの意外な取り合わせがお洒落。
台所の奥にはキュッと鉢巻きをしたお父さんの姿、緒方明さん。

「どうも」と小声で挨拶してくれたものの、
照れくさそうに視線をそらすお父さん。

一枚板のどっしりとしたテーブルの上には、地元で採れた野菜や果物が鎮座している。それを目にしただけで、わくわくしてくる。

熟れて弾けてしまったイチジクがいかにもおいしそう、ごっくん。

「これね、淡路島のイチジクでね、すごくおいしいんよー。食べる?」

はい、食べたいです!

「皮むかないで、このまま手づかみでええよ」

東京では皮をむいて切って食べているが、このわしずかみスタイルは初めて。

「うん、おいしい、おいしい」と信子さん、丸ごとひとつをペロリとたいらげ、ふたつ目に手を伸ばしている。

私もそれを真似、大口を開けて食べてみる。水分をたっぷり含んだ食感と芳醇な熟れた香り、たまらない~。「もっと食べて、どんどん食べて」と誘われるがままに、丸ふたつをお腹におさめてしまった。

「じゃあ、そろそろ行こうか」と、信子さん。

今回つくってくださるのは、地元のさつまいもを使った料理。
そして、その材料となるさつまいもをいただきに、近所の農家さんを訪ねることになっていた。

信子さんの車に乗せてもらい10分ほど走ると、緑色の大きな葉っぱがわらわらと見えてきた。湿気を含んだ土の匂いがおいしくて、大きく吸い込む。土の匂いを嗅ぐと落ち着くのは、やはり農耕民族の潜在的な記憶なのだろうか。

信子さんいわく、この農家さんのさつまいもは絶品なのだそう。その絶品のお芋をつくっているのが田中さんご家族。「掘ってみる?」という田中さんの言葉に誘われて、自分たちで収穫することに。

まず、さつまいもが埋まっている周りのうねを崩していく。すると、赤い色のさつまいもの断面が見え始めた。スコップを差し込み、てこの原理でぐいと持ち上げる。すると、ずるずるっと連なった芋が表にお目見えする。

土の上に転がっているぷっくりとした芋を見ていたら、幼稚園のときに行った芋掘り遠足をふと思い出した。どうにもこうにもワクワクしてやまなかった気持ちが、心の隅にうっすらと染みついている。

温かい記憶に触れて、なんだかとってもうれしかった。

さつまいも農家の田中さん。

遠くのほうでは、信子さんが芋づるを収穫している。

この芋づるを煮つけにするとおいしいのだそう。

さつまいもが入ったビニール袋を両手に、農家さんをあとにする。そのまま帰宅と思いきや、「ブルーベリー好き?」という信子さんからの問いかけ。

もちろん大好きです、ということで、〈プチカ農園〉というブルーベリー農家さんへ寄り道をして手摘み体験をさせてもらった。ひとつ口に含んでみると、甘く濃い汁がいっぱいに広がる。

さつまいもとブルーベリー、淡路島の豊かな恵みを体いっぱいに感じた。

〈プチカ農園〉の宮本さん。

帰宅して、さあいよいよ料理開始! 
という頃には、もう陽が傾きかけていた。

「あら、もうこんな時間やんか、のんびりしすぎたね」

あら、ほんと……。

「明日にする?」

ご都合大丈夫ですか?

「ええよ」

ということで予想外の展開、明日また出直すことに。
淡路島の自然の中で過ごす時間は、あまりにも心地がよかった。

[ff_assignvar name="nexttext" value="翌朝、いよいよ調理開始。"]
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翌朝。おはようございます、昨日に引き続きお宅におじゃまする。

信子「うち泊まればよかったのに、ほんま」

前日、信子さんから泊まっていってはどうかと、ありがたいお誘いをいただいた。けれども、すでに予約していた旅館があったのでそちらに宿泊したのだ。

信子「今度は泊まって、いくらでも泊まってええよ~」

初対面なのにこんなに温かく迎え入れてくれるなんて、これだからまた淡路島を好きになってしまう。

父「泊まってったらお酒も飲めるし、ね」

はい、次回はぜひ一緒に晩酌させてください。

さて、いよいよ調理開始。

まずは芋づるの下処理から。昨日畑で収穫した芋づる、元気な姿でわさわさと籠に盛られている。葉っぱを取り、食べやすい長さにポキポキと折る。これだけ量があると、けっこう手間のかかる作業だ。

テラスの椅子に腰掛け、信子さんと一緒に下処理。世間話をしながらの手仕事は、なかなか心地がよい。女性同士でしか通じ合えない、そんな少しの空気を感じとると、ふとうれしくなるのだ。

そういえば、『キルトに綴る愛』という映画で、あばあちゃんたちが昔話をしながら1枚のキルトを刺していくシーンがある。その空気感に、昔からなぜか強く惹かれた。

それに近い、テーブルを囲んでする野菜の下処理。

いい時間だな。

さて、下処理を終えた芋づるを、塩と重曹を少々入れたお湯でさっとゆでる。
それをザルに上げ、水につけて灰汁抜きをする。
その後、砂糖、醤油、酒、みりんを入れた煮汁で煮詰めていく。

信子「じゃあ、これはそのまま煮ておいて、次は芋ようかんつくろうか」

待ってました!

芋ようかんといえば、東京駅にあるお店で買うのが常。
自分でつくろうなんて、いままで考えたことがなかった。

テツ「芋ようかんて自分でつくれるんですね」

信子「えー、簡単よー」

ということで調理スタート。

まず皮を厚めにむいた芋を、2センチくらいの輪切りにする。それを鍋に入れ、ひたひたの水を入れ火にかけ、やわらかくなったらザルに上げる。お風呂上がりの赤ちゃんのように、ほわほわ湯気の立つお芋を見ていたら、生唾が。

テツ「あの、これ、ひと口、かけらだけ食べてもいいですか?」

熱々のお芋を手に乗せてくれた。口に含むと上品な甘みが広がる。
うーん、シンプルながら格別のおいしさ。信子さんも口に頬張る。

あふっ、あふっ。

「おいしいねー! 田中さんのお芋はほんとおいしいんよ~。
お父さん!お父さん! ちょっとこれ食べて、栗みたいやから」

少々興奮気味の信子さん。

お父さんも味見して、ふむふむと頷く。たしかに、上質な栗きんとんのような味わい。これは完成が楽しみだ。

ほくほくのさつまいもを、熱いうちにすり鉢でつぶしていく。

「ざっくりしたのと上品なの、どっちがええ?」

通常買って食べる芋ようかんは滑らか。
なので、あえてざっくりなのが食べてみたい。
信子さんによると、つぶしたままだと、粒感が残った仕上がりになり、つぶしたあとさらに裏ごしすると、滑らかで上品な仕上がりになるのだそう。

水と粉寒天を入れた鍋を中火にかけ、かき混ぜながら煮とかす。
1分半沸騰させたら、砂糖と塩、牛乳を入れて混ぜ、火を止める。
そこへ、先ほどのつぶした芋を入れ、まんべんなく混ぜる。
流し缶に入れ、冷蔵庫で冷やして固めたらできあがり。

「ね、簡単でしょー」

はい、確かに。

自分ではつくれない、そう勝手に思い込んでいた自分に気づかされた。
本当は簡単につくれるものも、買うものと思い込んで生活している。
この取材をしていると時折そうしたことに気づかされ、自分に被さっている思い込みの鎧を1枚ずつ削ぎ落とされるような、そんな感覚になる。

いつか、抜けのよいすてきなおばあさんになりたい。

信子「そろそろ炊きあがるかな?」

さつまいもご飯も、前もって準備してくれていた。
炊飯器のふたを開けると、もわ~っとした蒸気とともに、お米とさつまいもの甘い香りが一気に立ち上る。秋の恵みの香り、幸せだ~。

[ff_assignvar name="nexttext" value="「そしたら、食べようか」"]
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信子「そしたら、食べようか」

はい!

さつまいもご飯に芋づるの佃煮、そしてお父さん特製のお味噌汁。

信子「お父さんのお味噌汁、すっごくおいしいんよ」

という信子さんの言葉を受けて、
お父さんが照れくさそうに台所を右往左往している。
みんな揃って、「いただきまーす」

まずはご飯をひと口頬張る。これぞ秋の味覚。
少し肌寒くなった秋に身も心も温めてくれるのは、そう、さつまいもご飯なのだ。お父さんのお味噌汁を口に流し込むと、完全に心がほどけていく。

「おいしいです!」

ふふふ、と、また照れながら席を立ってしまった、お父さん。
このシャイな感じと、タオル鉢巻きのバランスがとてもいい。

信子「写真も苦手なんよ、お父さん」

(ということで、お父さんの写真はございません)

芋づるの佃煮に箸を伸ばす。
こってりと煮つけられて黒々とした芋づる、見た目はきゃらぶきのよう。
食べてみると、しゃくしゃくとした歯ごたえが小気味よく、つい箸が進んでしまう。この味わいは、日本酒が進むに違いない。

信子「今度は泊まって、お酒でね」

はい!

信子「ご飯、おかわりは?」

はい、お願いします。あの、お味噌汁もまだありますか? とリクエスト。
ご飯2膳とお味噌汁を2杯いただき、ごちそうさまでした。

信子「デザートの芋ようかん、テラスで食べようか」

はい。

信子さんとふたりでテラスに出る。目の前に広がる緑を眺めていると、
自分の中の邪気がすっと吸い取られていくような気がする。

いろんなことが、ま、いっか、と流れていくような。

信子「これもあるよ、食べる?」

と差し出してくれたのは、昨日収穫したプチカ農園さんのブルーベリーを使ったジュースと、お手製のイチジクのコンポート。

信子「このイチジク農家さんも、すっごくすてきな人なんよ~」

お腹ははち切れそうだけれども、目の前に並んだスイーツ群にはそれにもまさる吸引力がある。ちびりちびりと手を出しながら、信子さんとお茶飲み話。

信子さんは以前、
兵庫県の稲美町で学校給食の栄養教諭をされていた。
学校給食でいかに子どもを支え育てるか、長い時間をかけて取り組んできた。
食育には特に力を注ぎ、子どもたちを積極的に
生産者さんに会わせていたそう。

信子「つくり手さんがこんなに苦労してつくってくれてるねん、
ちゅうのを、子どもたちに伝えなきゃならんよね。
つくり手さんに会ってどういうものなのか知ることで、
給食残さなくなるんよ、子どもたち」

なるほど、それはすごく大事なことですね。

芋ようかんをひと口食べた信子さん、
「おいしいー、田中さんのつくるさつまいも、ほっんまおいしいよね!」
と目を開く。食べ物を口にしたとき、信子さんの体にパッと電気がついたように明るくなる。

私も芋ようかんをひと口、おいしいー。買ってきたものにはない
ごろっと感が、いかにも手づくりで温かみがある。

「このお芋もブルーベリーも、ほんまおいしいやろ。
つくり手さんの顔が見えるっちゅううのが、一番の食の豊かさやね」

そう言って、信子さんはうれしそうにもうひと切れ、
芋ようかんを口に運んだ。

information

map

あわじ花の歳時記園

住所:兵庫県淡路市長沢247-1

TEL:0799-64-0847

営業時間:9 : 00 ~ 18 : 00

定休日:通年不定休(12月30日 ~ 翌1月3日休)

入園料:開花期以外/無料 アジサイ開花期/高校生以上500円、小中生400円

写真・文 津留崎徹花

text & photograph

津留崎徹花 Tetsuka Tsurusaki
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

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