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山形・想耕庵 その1

美味しいアルバム
vol.001

posted:2013.4.2  from:山形県上山市  genre:暮らしと移住 / 食・グルメ

〈 この連載・企画は… 〉  フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。

text & photograph

Tetsuka Yamaguchi
山口徹花

やまぐち・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』『Hanako』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。

美しい雪景色と、人のいいご主人の打つ蕎麦を堪能。

2月上旬、コロカル「山崎亮 ローカルデザイン・スタディ」の撮影で山形へ。
ならば、ついでに旨いものを、とリサーチ。
昼は山形蕎麦、夜は地元の居酒屋で決まり、残るは翌日の朝ごはん。
ホテルで済ませてしまうのでは何だかもったいない。
タクシーの運転手に地元オススメを聞き込みをするも、有力な情報は得られず。
「外で食べねえからな~」とひと言。
ごもっとも。

そうこうしているうちに、時刻はお昼時。
ひとまずお蕎麦を食べに向かおう。
山形出身の友人からのススメで「想耕庵」という店へ。
いざ行かん。

蔵王温泉のお膝元、かみのやま温泉駅。斎藤茂吉の生まれ育った里。

かみのやま温泉駅から車で8分、雪景色の中を進む。
住所の場所に辿り着くと「龍王温泉」の看板が目に入る。
あれ? と思いつつ奥へ進むと、「想耕庵」なる看板を発見。
誰かのお宅のような佇まい。

雪にすっぽり囲まれた想耕庵。

Page 2

「こんにちは~」と玄関を開けてみると、作務衣姿のご主人が出迎えてくれた。

「こちらへどうぞ」

誘われた先の広間には、川と雪が織りなす絶景が広がっている。
温かいそば茶でほっとひと息つきながら、その景色を堪能。

夏は新緑、秋は色づいた紅葉と四季折々の景色が楽しめる。

板そばを注文してほどなく、今度は女将さんが小鉢を持って来てくれた。
つけ合わせがあるとは聞いていなかったので、思わぬサプライズに心が躍る。
小鉢の内容はというと

☆もってのほか

山形の郷土料理。
菊の花びらと、水気を切った大根おろしを和えたもの。
お醤油を少しだけ垂らしていただく。

☆赤大根の甘酢漬け

自家製の赤大根は、瑞々しくてほんのり甘い。
シャキシャキと歯ごたえも抜群。

☆白菜の煮浸し

白菜をじっくり蒸し煮にして、お醤油とみりん少しで味つけ。
雪の下で寝かされた自家製白菜。寒さをくぐりぬけた白菜は葉が詰まり、
甘みがギュッと凝縮されている。

野菜はすべて自家栽培、完全無農薬。どれも優しい味で心がなごむ。

これらを少しずつつまみながら、お蕎麦がゆで上がるのを待つ。
ほどなくして、お父さんがお蕎麦を運んできた。
つやつやでピチピチ! 何とも美しい。
硬めの歯ごたえもほどよく、噛むと蕎麦の風味が口いっぱいに広がる。
そば湯もとろんとろんで濃厚、体の芯まで温めてくれる。

ツルっと気持ちの良いのどごしが癖になる。

私の様子をうかがっているのか、それとも景色を眺めているのか、
ご主人が傍らに静かに座っている。

「すごく美味しいです!」と伝えると、照れくさそうに微笑む。

「どっから来たの?」

「東京です」

「どうやって来たの?」

「新幹線です」

「この川はね、上流に温泉があるから魚が住めないんだよ~。
硫黄が流れてくるからね~」

など、たあいもない会話が流れてゆく。
つぶらな瞳、赤い頬、柔らかい山形弁、どこからどう見ても善人なご主人。
??? ひょっとして? これはいけるんじゃないのか!? と、頭をよぎる。
明日の、そう、明日の朝ごはん! これいけるんじゃなかろうか! 
いやしかし、普通なら断るだろ……。
それでもダメならダメでよい! 
聞くだけ聞いてみよう!

「お父さん! あの……朝ごはん食べさせてもらえませんか?」

ご主人は一瞬固まり、ゆっくりと窓の外に目をやる。
少しの間、沈黙が流れた。その後、

「かあちゃんに聞いてみねえとなぁ~」

急に立ち上がり、小走りで厨房へ向かうご主人。
一大事が起きたかのように叫ぶ。

「おかあさん! おかあさん!」

その後を私も急いでついてゆく。

「なんかね、朝ごはん食べたいんだって、なんか東京から来た人でね」

女将さん「……」

「うち、たいしたもん食べてないよ~」

まさかまさかと手を横に振る。

「あの、いいんですっていうのも何ですが、たいしたもんでなくてもいいんです!
何でもかまわないんです!」

女将さんは腕組みをして少し考えた後

「うーん……いいけど~」

すごく嫌そうでもなく、快諾という風でもなく、うつむきながら承諾してくれた。

「では明日、お邪魔します! 何時頃ですか? 朝ごはんは」

「うーん、だいたいあれ、NHKの朝の、あのドラマあるでしょ、あの時間」

「8時ですね? ではその頃にうかがいます!」

ということで、朝ごはんをご一緒させていただけることに。
なんで承諾してくれたんだろう……知らない人なのに……。
なんて、自分からお願いしておきながら、不思議な気持ちに包まれる。

山形の朝ごはん、さてどんなものが食卓に上るのやら、
期待に胸を膨らませる。

「どうやって帰るの? 電車ちょうど来るから乗せてくか?」

と、駅まで車で送ってくれた。
やはりご主人は善人だ。
(つづく)

駅に到着して一枚。「また明日!」

Information


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想耕庵

住所:山形県上山市金瓶字原150

TEL:023-673-3008

営業時間:11:00 〜 15:00 ※17:00以降は要予約

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