〈 この連載・企画は… 〉
フォトグラファー、津留崎徹花が、美味しいものと出会いを求め、各地を訪ね歩きます。
土地の人たちと綴る、食卓の風景を収めたアルバムです。
text & photograph
Tetsuka Yamaguchi
山口徹花
やまぐち・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。『コロカル』のほか『anan』『Hanako』など女性誌を中心に活躍。週末は自然豊かな暮らしを求めて、郊外の古民家を探訪中。
2月上旬、コロカル「山崎亮 ローカルデザイン・スタディ」の撮影で山形へ。
ならば、ついでに旨いものを、とリサーチ。
昼は山形蕎麦、夜は地元の居酒屋で決まり、残るは翌日の朝ごはん。
ホテルで済ませてしまうのでは何だかもったいない。
タクシーの運転手に地元オススメを聞き込みをするも、有力な情報は得られず。
「外で食べねえからな~」とひと言。
ごもっとも。
そうこうしているうちに、時刻はお昼時。
ひとまずお蕎麦を食べに向かおう。
山形出身の友人からのススメで「想耕庵」という店へ。
いざ行かん。
かみのやま温泉駅から車で8分、雪景色の中を進む。
住所の場所に辿り着くと「龍王温泉」の看板が目に入る。
あれ? と思いつつ奥へ進むと、「想耕庵」なる看板を発見。
誰かのお宅のような佇まい。
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「こんにちは~」と玄関を開けてみると、作務衣姿のご主人が出迎えてくれた。
「こちらへどうぞ」
誘われた先の広間には、川と雪が織りなす絶景が広がっている。
温かいそば茶でほっとひと息つきながら、その景色を堪能。
板そばを注文してほどなく、今度は女将さんが小鉢を持って来てくれた。
つけ合わせがあるとは聞いていなかったので、思わぬサプライズに心が躍る。
小鉢の内容はというと
☆もってのほか
山形の郷土料理。
菊の花びらと、水気を切った大根おろしを和えたもの。
お醤油を少しだけ垂らしていただく。
☆赤大根の甘酢漬け
自家製の赤大根は、瑞々しくてほんのり甘い。
シャキシャキと歯ごたえも抜群。
☆白菜の煮浸し
白菜をじっくり蒸し煮にして、お醤油とみりん少しで味つけ。
雪の下で寝かされた自家製白菜。寒さをくぐりぬけた白菜は葉が詰まり、
甘みがギュッと凝縮されている。
これらを少しずつつまみながら、お蕎麦がゆで上がるのを待つ。
ほどなくして、お父さんがお蕎麦を運んできた。
つやつやでピチピチ! 何とも美しい。
硬めの歯ごたえもほどよく、噛むと蕎麦の風味が口いっぱいに広がる。
そば湯もとろんとろんで濃厚、体の芯まで温めてくれる。
私の様子をうかがっているのか、それとも景色を眺めているのか、
ご主人が傍らに静かに座っている。
「すごく美味しいです!」と伝えると、照れくさそうに微笑む。
「どっから来たの?」
「東京です」
「どうやって来たの?」
「新幹線です」
「この川はね、上流に温泉があるから魚が住めないんだよ~。
硫黄が流れてくるからね~」
など、たあいもない会話が流れてゆく。
つぶらな瞳、赤い頬、柔らかい山形弁、どこからどう見ても善人なご主人。
??? ひょっとして? これはいけるんじゃないのか!? と、頭をよぎる。
明日の、そう、明日の朝ごはん! これいけるんじゃなかろうか!
いやしかし、普通なら断るだろ……。
それでもダメならダメでよい!
聞くだけ聞いてみよう!
「お父さん! あの……朝ごはん食べさせてもらえませんか?」
ご主人は一瞬固まり、ゆっくりと窓の外に目をやる。
少しの間、沈黙が流れた。その後、
「かあちゃんに聞いてみねえとなぁ~」
急に立ち上がり、小走りで厨房へ向かうご主人。
一大事が起きたかのように叫ぶ。
「おかあさん! おかあさん!」
その後を私も急いでついてゆく。
「なんかね、朝ごはん食べたいんだって、なんか東京から来た人でね」
女将さん「……」
「うち、たいしたもん食べてないよ~」
まさかまさかと手を横に振る。
「あの、いいんですっていうのも何ですが、たいしたもんでなくてもいいんです!
何でもかまわないんです!」
女将さんは腕組みをして少し考えた後
「うーん……いいけど~」
すごく嫌そうでもなく、快諾という風でもなく、うつむきながら承諾してくれた。
「では明日、お邪魔します! 何時頃ですか? 朝ごはんは」
「うーん、だいたいあれ、NHKの朝の、あのドラマあるでしょ、あの時間」
「8時ですね? ではその頃にうかがいます!」
ということで、朝ごはんをご一緒させていただけることに。
なんで承諾してくれたんだろう……知らない人なのに……。
なんて、自分からお願いしておきながら、不思議な気持ちに包まれる。
山形の朝ごはん、さてどんなものが食卓に上るのやら、
期待に胸を膨らませる。
「どうやって帰るの? 電車ちょうど来るから乗せてくか?」
と、駅まで車で送ってくれた。
やはりご主人は善人だ。
(つづく)
Information
想耕庵
住所:山形県上山市金瓶字原150
TEL:023-673-3008
営業時間:11:00 〜 15:00 ※17:00以降は要予約
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