連載
posted:2017.2.10 from:埼玉県飯能市 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
イラストレーターとして活躍する平尾香が、各地の粋な飲み屋をご紹介。
旅して飲んで、おいしいお酒と肴と人に出会います。
text & illustration
kao.ri hirao
平尾 香
ひらお・かおり●イラストレーター。神戸生まれ、独自の個性を発揮した作風で、世界的ベストセラー「アルケミスト」を始めとする書籍のカバーや、雑誌の挿絵、広告などで活躍。個展も多数開催。現在は、逗子の小山にアトリエを構え、本人の取材やエッセイなど活躍の幅は広い。著書本に「たちのみ散歩」(情報センター出版局)「ソバのみ散歩」(エイ出版社)
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www.facebook.com/Kao.0408.hirao
その日の私のバッグは、斜めがけしたポーチ、
サブバッグのトートバッグ、買い物した紙袋と3つ。
年末の混み合うラッシュ時間の電車で網棚にのせたトートバッグを、忘れ物。
問い合わせたところ4社目で見つかり、ようやく安堵。
東横線で私に置いてゆかれ、副都心線で気づかれることもなく、
西武線で長らく揺られ、終着駅の飯能駅にあるそうな。
都心近郊の乗り入れ電車は続くよどこまでも。
取りに行くのは、片道2時間ちょっとのゆられ旅です。
大事な商売道具のペンケースとスケッチブックの入ったトートバッグを受け取って、
せっかくなので、知らないまちの駅を降りてみます。
夕暮れ時のロータリーに見つけたのは、やきとりと寿司の文字。
ガラガラと引き戸をを引いて「居酒屋おらく」の暖簾をくぐります。
先客はなく本日最初の客のよう。奥まで広い。
左手のカウンターには、予約席とあったので、右手のくの字のカウンターへ座って、
再放送の、事件の起こるドラマが流れているテレビを斜め上に観つつ、
瓶ビールを注ぎます。
目の前のカウンターの2段目の漆塗りに気がついて、
聞いてみると寿司カウンターだったそう。
創業70年、きつく結ばれたハチマキがお似合いの大将が3代目で、
壁の写真のおばあちゃんの時代は、お寿司もやっていたので、
遠くにかけられた小さなホワイトボードのおすすめメニューの上部は魚介類。
しらこのポン酢和えと湯豆腐を注文して。
お通しのマカロニサラダをいただきながら、じんわり、ほっこりする居心地のよさ。
大将の持ち場は、左のカウンター内、串打ちしたり何かと忙しそうです。
湯鍋敷きと味ぽんが置かれて、湯豆腐待ち。
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テレビの中の事件は解決に向かって急展開してるうちに
小鍋に野菜も結構入った湯豆腐であったまる。
続いて出されたしらこポン酢も量がたっぷり、濃厚で新鮮。
これに合うのは、地酒の天覧山の熱燗かな。
奥の座敷の柱時計がボーン、ボーンと5つ鳴ったかと思うと、おじさまたちがご来店。
何かの帰りかな? 同じようなサイズのバッグを持って奥座敷へ。
予約してないですけど~と入ってきたグループ客は、2階へ。
忘年会シーズンであります。広いのにふたりで回す店内が急に慌ただしくなりました。
山登りの帰りでしょうか、ふらりとリュックを背負って入られたひとり客は、
「やきとりは1時間以上かかっちゃうよ」と大将に言われて、またにしますと。
あ、こちらもタイミングを逃してしまったやきとり……。
温泉も近くにあることも知ったし、電車は1本で来られるし、
またの機会にしましょうか。
外はすっかり陽がくれて冬の冷たい空気。
駅前にボーリング場の看板を見つけて、おじさまたちのバッグの中は、
マイボールだったんだと確信。
帰りの指定席のレッドアロー号は、缶ビール1杯が飲み干せる時間で池袋に到着。
秩父飴、狭山茶、武蔵野うどんと、思わぬ旅のお土産袋も増えたし
電車のお忘れ物には、気をつけて。
information
居酒屋おらく
住所:埼玉県飯能市柳町23-10
TEL:042-972-2484
営業時間:16:00~24:00(L.O 23:00)祭日 15:00~22:00
定休日:日曜
information
平尾香 個展
『weaving a tale under the stars』
日程:2017年2月11日(土)~2017年2月26日(日)月曜休
会場:DIGINNER GALLERY WORKSHOP(東京都目黒区自由が丘1-11-2)
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