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金沢・ジャズバー〈穆然〉
マスターはカレー、
お酒とレコードはママ担当

SOUNDS GOOD!!! 音のいい店ジャパンツアー
vol.001

posted:2022.7.20   from:石川県金沢市  genre:旅行 / エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。

writer profile

Akihiro Furuya

古谷昭弘

フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。

credit

photographer:深水敬介

illustrator:横山寛多

加賀藩前田家御典医屋敷跡に、老舗ジャズバーあり

音楽好きのコロンボとカルロスが
リスニングバーを探すツアーのスタート地に選んだのは、石川県金沢市。

コロンボ(以下、コロ): 音楽はどんな系列が好きなの?

カルロス(以下、カル): ひと通り聴いてきたけど、クラブシーンがベースかな。
でも「GOLDに間に合わなかった世代」の典型で、ちと忸怩たるものがあるんだ。

コロ: ボクもカウンタカルチャーが炸裂した
「レイト60’sムーブメントに間に合わなかった世代」。
洋楽を聴き始めたときはすでに『ラバーソウル』はリリースされていたし、
ウッドストックだって終わっていた。涙。
でも、音楽は最高の酒のつまみだから、レコードバーにはよく行く。
間に合わなかったことへの復讐かもね。

カル: いま金沢がベースなんだけど、東京や湘南に住んでいた時代から
ボクもミュージックバーみたいなところを探してたね。
たしかに「音楽は最高の酒のつまみ」だけど、
お酒が強くないボクには、コーヒーのお茶請けでもあるよ。
ソフトドリンクでも大丈夫なお店があるとうれしい。

大テーブル席とカウンターに分かれる店内、カウンターまわりはジャズを感じさせる。

大テーブル席とカウンターに分かれる店内、カウンターまわりはジャズを感じさせる。

コロ: 金沢って町はジャズが浸透しているみたいだけど、実際のところどうなの?

カル: 〈金沢ジャズストリート〉ってイベントがあって、
このときは金沢駅から片町まで、まちかどライブがあったり、
ホールライブがあったりでジャズ一色。今年も9月17~19日に予定しているんだ。
となりの野々市市にはニューヨークを意識した
〈BIG APPPLE in Nonoichi〉とかもあるし。

コロ: 1973年にマイルス・デイビスが金沢にやってきて、
その30年を記念したイベントとかもあったようですね。
〈穆然〉(ぼくねん)のマスターが言っていた。

カル: 〈穆然〉いいよね。1992年に開店したジャズバーの老舗。
前田家の御典医屋敷だったところにあって、アプローチがいいんだよね。

コロ: こんなとこにジャズバーって感じ。ネオンなんかも怪しいし、
タイムスリップ感がある。入口のところにある松は樹齢400年近いんだって。

カル: ちょっと入りづらいけど、入ってしまえばこっちのもの。
ジャズバーにありがちな排他的な緊張感がないのもいいよね。

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カップとソーサーの間に紙を挟んだワケとは?

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ジャズとカレー、そして最高のオーディオ

コロ: そもそもはジャズ好きなマスターが始めたんだけど、
今はレコードとお酒はママが担当して、マスターは料理と、
役割分担はちょっと変わっている。
どうやらマスターはお気に入りを何度も聴き込むタイプらしいけど、
ママは幅広く聴いているから、今ではどの棚にどのレコードがあるかは、
ママのほうが詳しいらしいんだ。
でもレコードを女性がかけていると
意地悪なオーディオマニアにいじめられたりするんだって。

創業以来人気の〈キーマカレー〉900円。ポタージュ風〈穆然カレー〉や〈牛すじカレー〉などもあり。

創業以来人気の〈キーマカレー〉。ポタージュ風〈穆然カレー〉や〈牛すじカレー〉などもあり。

カル: それはひどい。マスターのつくるカレー目当てにくるお客さんもいるんでしょ。
ジャズとカレー。

コロ: 昼間はカレー狙いのお客さんがほとんどなんだって。
もちろん夜もオーダーが多くて、つまみとして食べるお客さんも多いそう。

カル: 夜に飲みに行ったときは、
ビル・エバンスの『The Solo Sessions Vol.1』がかかっていたんだけど、
とにかく音の立体感にびっくり。

閉店際の締めの1枚。ビル・エバンス『BILL EVANS THE SOLO SESSIONS VOLUME 1』が『蛍の光』代わり。

閉店際の締めの1枚。ビル・エバンス『BILL EVANS THE SOLO SESSIONS VOLUME 1』が『蛍の光』代わり。

コロ: スピーカーはJBL4350Bを改造した4WAYマルチ+1(スーパーツイーター)。
パワーアンプ4台とプリアンプ1台と
スーパーツイーター用にプリメインが1台で鳴らしているんだって。
それでもコンクリート打ちっぱなしの洞窟みたいなスペースとの整合性が合わなくて、
酒棚にくぼみをつけたり、棒を入れたり、反射音を抑えるため、
壁に有孔ボードを貼ったり、しまいにはカップ&ソーサーの間に紙を挟んだり、
涙ぐましいまでに追求しているみたい。

カル: 真空管のフォノイコライザーをモノーラル構成で特注したりして、
機材もこだわりにこだわっているんでしょ。

コロ: それでもマスターは
「いっておきますが、僕はオーディオマニアじゃないです」と。

カル: 十分、マニアな気がするけど(笑)。

コロ: でも、いいこと言うんだよ。
「若いときから音楽が好きだったけど、
今ではそのミュージシャンのほとんどが死んじゃって、レコードで聴くしかない。
だから、とにかくいい音で聴きたいから工夫するんだ」って。

カル: いい話。この店、山田詠美さんの小説の舞台になっているんだよ。
北國新聞に載った(2021年10月30日号)「ぼくねんじん」という短編。
金沢に単身赴任した妻子ある上司と逢瀬を繰り返す話なの。
〈穆然〉でタンカレーのジントニックをオーダーして、
ビル・エバンスの「Peace Piece」(『EVERYBODY DIGS収録) を聴く。
結末は切ないんだけどね。物語にはママも登場するんだ。

コロ: ママが言ってたけど、お客さんがレコードを持ち込むこともよくあるみたい。
亡くなったご主人のものを寄贈してくれた方もいるらしい。

カル: いい話。また行きたくなっちゃったな。

information

map

Jazz Spot 穆然(ぼくねん)

住所:石川県金沢市尾山町6-22 尾山町Zig 1F

営業時間:(火~金曜)11:30~14:00、17:00~23:00  (土・日・祝)11:30~23:00

定休日:月曜

Web:Jazz Spot 穆然

備考:喫煙可能店として、登録されています。

 

【SOUND SYSTEM】

Speaker:JBL4350B(改造)+ JBL UT-045Be

Pri Amp:HOVLAND HP100

Power Amp:ATC P-1(Bass)、ATC SPA2-150(Mid Bass&Mid)、ATC P-1 PRO(High)、Unison Research Unico-P(JBL UT-045Be用)

Turn Table:EMT-930(改造)

その他秘密機器多数。

旅人

コロンボ

音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。

旅人

カルロス

現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。

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