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この18か月

マチスタ・ラプソディー
vol.046

posted:2013.6.28  from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

50歳のバースデーパーティ

「赤星さんの誕生日パーティをマチスタでやってもいいですか?」
イシイコウジがマチスタにやって来て、
そんなことを聞いたのは5月の末あたりだった。
イシイくんは岡山で活躍しているカメラマンで、
『HMB(ヒゲ・眼鏡・帽子)』というフリーペーパーを発行したりして、
なかなかユニークなクリエイターでもある。
一定の距離を置いて付き合うぶんには、これ以上面白い男はいない。
でも、車間距離を間違えて近づきすぎると、たいがいろくなことにはならない。
今回のように、向こうからすっと距離を詰めてきたときはなおさらである。
「なにそれ? なんか裏がある?」
「いや、ないです、ないです。
パーティでマチスタの半月分の売り上げを稼いでもらいたいなと。
赤星さんへの50歳の誕生日プレゼントです」
マックスに嫌な予感がした。笑顔のなかで目が笑ってない、あれがヤバい。
それでもぼくはあっさり承知した。
ひとつには、そんな胡散くささや面倒くささも含めて、
イシイコウジという人間が結構好きだったりすること。
そしてもうひとつは、純粋にありがたいという気持ちから。
五十のオッサンの誕生日を祝おうなんて、誰がそんなこと言ってくれる?

岡山に戻って10年近く暮らしているからか、
いまでは東京にいた25年が夢のように感じられる。
記憶にある景色や友人たちの顔は、これ以上ないぐらいはっきりしている。
声だって匂いだってもうありありと。
それでもリアリティはどうやら別ものみたいだ。
飲み残したアイスコーヒーみたいにぼんやり薄い。
振り返ってこの50年からして、リアリティがぶっ飛んでしまうぐらいあっという間だった。
半世紀があっという間なんて、
この『マチスタ・ラプソディー』を読んでもらっている20代や30代の読者には
到底考えられないことと思う。
でもこれ、1足す1が2ぐらいの動かしようのない真実なのだ。
マチスタに携わったこの18か月なんて、一夜の夢にも満たない。

かくして誕生日から2日経った6月16日、日曜日の夕刻。
こんなに人がやってくるなんて思ってなかった。
スタートの午後7時にはすでに店内に人がおさまりきらない状態
(まあ店は相当狭いんですけど)。
ぼくの友人・知人には誰にも声をかけていなかった。
「誕生日だから来てよ」なんて、そんな厚かましいことが言える人間じゃないのだ。
イシイくんだって、フェイスブックで告知しただけだと思う。
でもこれ、SNSのネットワーク力というのでしょうか
(SNSという言葉を自分で初めて使ったんだけど、使い方間違ってないですか?)。
それと忘れちゃいけないのが、
ヒトミちゃんが作ってくれたインパクト絶大の告知ビジュアル。
『ジョジョの奇妙な冒険』のタッチをそっくり真似して、
ぼくがスタンド使いのキャラクターのように描かれている
(「スタンド使い」と普通に書いてしまいましたが、ある種の超能力みたいなものです)。

DJセットは常連の田中さんが全部持ち込んでセッティングしてくれた。
田中さんはぼくの80年代好きを知っていて、かける曲はほぼオール80’s。
UKとアメリカを織り交ぜた洋楽が8割、邦楽は2割ぐらい。
キャッチーでメジャーな曲も遠慮することなくバンバンと。もう最高だった。
どの曲がかかっても、
思わず「この曲はね」と目の前にいる人に解説したくなるような、
そんなイカしたセレクトだった。
ところがだ、その夜、ぼくの解説は一曲として果たせなかった。
最初のお客さんが来てくれた瞬間から、ぼくはいつものポジション、
作業台の向こう側に立ってお客さんのオーダーをこなしていたのである。
そりゃ、次から次にお客さんが途切れずやって来て、
やれブレンドだ、アイスコーヒーだ、バナナジュースだと好きなものを注文するのだから、
しかもヒトミちゃんがレジと洗い物を手伝ってくれているとはいえ
注文をこなしているのはぼくひとりだから、
もう慌ただしいなんてもんじゃない。
目の前で「おめでとうございます!」と言ってくれる人とさえもまともに会話もできない。
(なんだ、この100本ノック状態は?)
イシイコウジの顔が浮かぶ。目だけが笑っていないあの笑顔————。
1時間もしないうちに神経の方がやられてきた。
「もうオーダーは受けん! 誰がなにを飲むかはオレが決める。
値段は一律300円、みんな出したものを文句言わずに受け取るように!」
そんな無茶が許された。
むしろ「ウエルカム!」って感じでその場は盛り上がった。
なにしろ、その夜はぼくの誕生日を祝うパーティなのだから。

終始、店の外に人があふれかえった。
男子率が圧倒的に高かったのは言わずもがな、女子も20人ほど来てくれたと思う。
なんと、その夜のためだけに
東京からウェブデザイナーのスワキタカトシもかけつけてくれた
(『Krash japan』のHP全10号を手がけてもらいました)。
クライマックスは倉敷の洋菓子店「エルパンドール」が作ってくれた
特製の巨大フルーツケーキ。
例のヒトミちゃんのジョジョ風のイラストがホワイトチョコの上に描かれている。
ろうそくは小さいのが5本。そして、店のライトを消して『ハッピーバースデイ』の大合唱。
店の内外から聞こえる拍手のうちに、ろうそくの火を吹き消した。
50歳の誕生日、生まれて初めての誕生日パーティ。
イシイくん、ありがとう。
売り上げは半月どころか一日分にも満たなかったけど、素直に感謝してる。
それからわざわざ来てくれたみんな、本当にありがとう。
あの夜、ぼくは世界で一番ハッピーな男だった。

翌営業日の火曜日。マチスタの開店直前、店内に「お知らせ」を貼り出した。

<誠に勝手ではありますが、7月21日(日)をもって閉店させていただくこととなりました。
これまで当店にお寄せいただきましたご厚誼に心から感謝申し上げます。>

マチスタ閉店の日まで残すところ約1か月————。

「芸術人(アーティスト)」とか「命尽きるまで」のコピーはすべて『ジョジョの〜』に登場するキャラクター・岸辺露伴に用いられたもの。「ドドドドドド」という効果音が雰囲気をとらえていて非常によろし。

ろうそくの火を消し終わった直後。首に巻いたタオルの左右のずれ具合が、さっきまでのキツい労働を物語っています。身につけているTシャツはLAドジャースですが、例によってドジャースファンではありません。

イベントごとはジローちゃんのレゲエライブ以来。夜に人が集まると、すぐに人があふれかえるのがマチスタの特徴。でも、それがかえってクールじゃないですか? 見ようによってはNYとかロンドンみたいで。

Shop Information

map

マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 火〜金 9:00 ~ 19:00 土・日 11:00 〜 18:00(月曜定休)

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