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ジローちゃんのライブ

マチスタ・ラプソディー
vol.029

posted:2012.10.4  from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

植木職人だったころ。

兄から手紙なんかもらったのは、後にも先にもあれきりだ。
1986年の秋、大学にはまったく顔も出さず、
世田谷の植木屋で働いていたときのことである。

ユタカくん、植木職人になるそうですね。
お前は昔から少し変わっていたから、なるほどユタカらしい選択だと思いました。
でも、一方的にそれを告げられた父と母の気持ちを考えたことがありますか?
うちが経済的にまったく余裕がないことはよく知っていると思います。
それでも両親はお前を東京の私大にやり、
4年もの間少なからずの額の仕送りもしてきました。
そんな彼らがお前にどれだけ期待をしていたか、考えたことがありますか?
もちろん、ああゆう人たちだから、
今後もお前のことに口を挟むようなことはしないでしょう。
でも、父も母もお前のこのたびの決断におおいに失望しています。
もう一度考え直すことはできませんか?

雰囲気こんな感じの内容だった。
いかにも教員らしい、説教くさい文言が便せん3枚にびっしり書かれていた。
ぼくは無理矢理いびつなカタチに固められたシャービックにでもなったような気がした。
これじゃまるっきり典型的な「出来の悪い弟」じゃないか。
それにしても、こんなに『出来のいい兄』気取りのことがよく書けたなと
ほとほと感心した。親にかけた心配を累積したら、
兄こそメジャー、ヤンキースのクリーンナップクラスなのだ。
それに、「植木職人のどこが悪い?」という反発する思いもあった。
当時、すでに1年近く働いていたぼくは、植木屋の仕事に惚れこんでいたのだ。
とはいうものの、「貧しい」とか「仕送り」とか「親の苦労」といったいくつかのワードが、
いちいちグサリとガラスの破片みたいに心に刺さったのも事実だった。
実際、うちの両親は苦労していた。
それを知っていたから、留年するとわかったときに「仕送りはもういらない」と断った。
そして、生活費を稼ぐために探した仕事がたまたま植木屋だったというわけなんだけど。

「こりゃあれだな、一回どこかに就職したほうがいいんじゃねえか?」
場所は明大前の居酒屋、目の前には当時しょっちゅう一緒に遊んでいた
植木屋の先輩のシンちゃん。そしてその隣に斉藤さん。
ぼくは彼らに兄からもらった手紙のことを話したのだった。
「それでよ、やっぱりダメだってんなら、そんとき戻ってきたらいいんだよ。
植木屋なんて、いつでもなれんだからよ」
シンちゃんがそう言って、斉藤さんが大きくうなずいた。
ふたりの意見をすぐにすんなりと受け入れたわけでもなかったんだけど、
結果、そのように考えるようになっていった。
そして、急遽就職活動を始めたのが11月。
当然、学校にも求人はほとんどなく、
就職課の職員からは「あるわけないでしょ、この時期に」とあきれ顔で言われながら、
それでも「これでも受けてみたら」と素っ気なくわたされたのが、
青山にある編集プロダクションの2次だか3次だかの募集の要項だった————。

もしもあのとき、兄から手紙をもらわなかったら。
もしもあのまま植木職人になっていたらと考える。
ぼくは東京の下町の2DKのアパートに住み、
猫の額ほどの小さなベランダには仕事で身につけている脚絆や足袋が干してある。
3人の子どもはみんなぼくのことが大好きで、
ぼくが仕事から帰るとまとわりついてしばらく離れない。
奥さんも子どもに負けず明るくて、毎朝弁当を作ってぼくを送り出してくれる。
スライディング・ドアを一枚隔てたぼくの生活は、つつましくも幸せそうだ。
いまも高松で植木屋をやっているジローちゃんのレゲエを聴きながら、
ぼくはそんなこっ恥ずかしい想像をめぐらせていたのだった。

マチスタ初のイベント、「コーヒー&レゲエナイト vol.1」。
ジローちゃんのライブはとてもよかった。
鼻にかかった声が素朴な歌い方にマッチしていて、巧くはないんだけど、
適度な情感も感じさせてくれた。
カフェリコの稲本さんに焙煎してもらったジャマイカのコーヒーも格別だった。
それもそのはず、ジャマイカというと最高級コーヒーのブルーマウンテンらしく、
ライブの直前にコイケさんから「原価がうちのコーヒーの3倍ですよ、
喫茶店で出したら1000円以上のコーヒーですよ!」と笑顔で軽くしかられたのだった。
ちなみに当日の入場料はそのブルマンが一杯ついて800円。
赤字は逃れられそうにない。でも、来てくれた人たちがみんな喜んでくれたのでよかった。
子どもたちまでそれなりに楽しんでくれた。
なにより、ぼくの植木屋時代の先輩のジローちゃんが
「またやろうぜ!」と言ってくれたのが嬉しかった。
参加人数は約20人と決して多くなかったが、
秋の夜の、実にマチスタらしいイベントだった。

大丈夫。ぼくのいまの人生も、そんなに悪いもんじゃない。

ホント、いい感じでした。高松からジローちゃんを迎えての「コーヒー&レゲエナイト」。vol.1としたからには、きっとvol.2もあるでしょう。来年の春あたりかな。

コロナを飲みながら切々と歌うジローちゃんの横で、しらふのコイケさんが淡々とコーヒーを淹れる。まさにレゲエとコーヒーの競演! 新しいパフォーマンスを見るようでした。

10月をホットドック強化月間とすることにしました。熱々の肉汁が飛び出してヤバいソーセージに、特別に焼いてもらっている天然酵母のパン。絶対美味しいけん! 今回のポップもデザインはヒトミちゃん。グッジョ!

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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