連載
posted:2012.6.5 from:岡山県岡山市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!?
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。
writer's profile
Yutaka Akahoshi
赤星 豊
あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。
児島の事務所でサブを飼い始めてちょうど1年になる。
忘れようとしたって忘れられない。
近所に住み着いていた野犬のサブを保健所に連れて行くかここで飼うか、
端的に説明するとそんな選択をつきつけられた。
正直、その展開におおいに理不尽さを感じてはいたんだけど、
表には出すことなくその二者択一を受け入れ、
受け入れたからには「保健所にどうぞ」の選択はなかった。
その夜、餌でおびき寄せ、
事務所の中に足を踏み入れたところで入り口の倉庫のシャッターを下ろした。
瞬間、サブが豹変した。
それまでヨタヨタ歩いている姿しか見たことがなく、
吠えたりうなったりするのも聞いたことがなかった。
そんな老犬のサブがいきなり20歳ぐらい若返って、
白い牙をむき出しにして吠えまくり、狂ったように倉庫の中を走り回った。
まったく手がつけられなかった。
その夜は互いに距離を置いたまま、まんじりともせず、
緊張感をともなった状態で朝を迎えた。
次の日の夜、サブがぼくに腹を見せるようになった。
横になった状態で白い腹をこちらに向け、
ぼくの顔を見ながら合わせた両手を何度も何度も空を掻くようにして上下に振るのだ。
懇願するサブの声が聞こえるようだった。
「頼むから外に出して!」と。
何度めだったか、ついに見ているのが耐えられなくなった。
ぼくはサブの腹の上にのり、首のところに両手をあてがって頭を押さえつけた。
「やめろ、サブ! あきらめてここで暮らせ、面倒みちゃるけん!」
前日の夜からずっと語りかけてきた言葉を強い調子で言って聞かせた。
そんなやりとりが何度かあって、サブはまずぼくへの完全な服従を決めた。
しかし、それからはぼくの姿が見えなくなると、激しく遠吠えを繰り返すようになった。
結局、サブを閉じ込めたあの夜から丸4昼夜。
ぼくはサブにつきっきりで、言葉をかけてなだめたり、
カラダをさすってやったりしながら一緒に過ごした。
戦争みたいな数日間だった。
サブを洗った。最後に洗ったのが昨年の9月だから実に8か月ぶり。
ヒトミちゃんとサトちゃん、
それにこの春から新しくスタッフに加わったニシちゃんの3人の女子に囲まれ、
サブはおとなしかった。
おとなしいどころか、まんざらでもないご様子。
泡だらけになったサブは子犬のようだった。
そんな光景を見ながら、「あのサブがなあ」と1年前のあの数夜を思い出さずにいられない。
そしていつもの考えが頭をよぎる。
サブにとっては、これでよかったのかどうか————。
あの夜サブを遠くに放して、
「逃げられました」と言い張る選択肢がないでもなかったのだ。
餌に困ることはあっても、いまも自由に走り回っているサブと、いまのサブ。
そんなことを考えても仕方ないし、
答えがわからないこともわかってるんだけれど、
それでもいまもよくそんなことを考える。
サブを洗ったその日の夕方、先の女子3人を車に乗せて岡山のマチスタに向かった。
新しいアレンジドリンクの試飲会である。
マチスタにはお休みだったのーちゃんにも出勤してもらい、
アジアンビーハイブのスタッフが初めて顔をそろえることとなった。
最初に飲んだのはコーヒースカッシュ。
開発中のメニューの中でぼくが一番期待していたドリンクである。
期待通りだった。女子の評判がすこぶるいいのもさもありなん。
このメニューがこれまでどこのお店でもなかったのが不思議なぐらいだ。
開発者のコイケさんに聞いた。
「これって、ほかで出してるところはないんですか?」
「実はずいぶん前に大阪で似たようなのが出たというのを聞いて、
飲みに行ったことがあるんです」
「で?」
「全然ダメでした」
その全然ダメだったものを
こうして完成度の高いドリンクとして出してくるのがコイケさん、
そのあたりのセンスは天才的である。
そもそも大阪まで行ったというのが常人じゃない。
目的がストーンズのコンサートじゃなく、スカッシュなわけだし。
ほかにコイケさんのアレンジドリンク数種を試飲した。
どれも言わずもがな、美味い。
結果、コーヒースカッシュは翌日から早速メニューに加えることになり、
その他のドリンクもマチスタスペシャルの「今月のドリンク」として、
期間限定で順次導入していくことが決定した。
さて、お次はのーちゃんの作ったドリンクである。
彼女の新メニューは、のーちゃんらしい健康志向が反映されたものと、
家でよく飲んでいるというアレンジドリンクの2種。
試飲する女子軍のコメントが、
双方ともにコイケさんのときのようにすんなり出てこなかった。
結果はともに「再考の余地あり」。
のーちゃんには優しくない試飲会となってしまったが、
コイケさんとはキャリアも違うんだから当然といえば当然。
しかし、近いうちにのーちゃんが開発したドリンクが
マチスタのメニューとして採用される日も遠くないとぼくは見ている。
さて、梅雨を迎える6月のマチスタ。
自慢のアイスコーヒーとともに、新メニューのコーヒースカッシュ、
是非試してみてください。————って、普通に宣伝してみました。
Shop Information
マチスタ・コーヒー
住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00
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