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のーちゃんとコイケさんのこと

マチスタ・ラプソディー
vol.011

posted:2012.4.12   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

マチスタのオープンから1週間過ぎて。

我が社アジアンビーハイブの入り口のすぐ横に、
下の写真のごとく、かくも立派な神事・仏事用植物の無人販売コーナーが出来てしまった。
もちろん当社が販売しているわけじゃない。
近所のスワキさんというおばちゃんだ。
あれはまだまだ寒い頃、たしか2月のことだったと思う。
「赤星クン、悪いけどな、あんたんとこの事務所の脇で
“しゃしゃき”とか“さかき”を売らしてもらえんじゃろうか?」
なにせ実家も近いのでむげに断ることができない。
それでも「はあ、まあいいですけどね」と
さも歯切れ悪く返事をすることで一応の抵抗は試みたのだが、
そんな芝居が児島のおばちゃんに通用するわけがなく、
2、3日後には、想像をはるかに上回るスケールの無人販売所が出来上がった。
最初に見たときは、思わず立ち止まって頭を抱えたうえに鼻血が出そうになった。
さらにその数日後のこと。
300円売れたとかで、「1割はあんたにあげるけん」と30円をぼくに握らせようとして
執拗にスワキさんが迫ってきた。
ぼくは「いらんわ! 絶対いらんけん!」と逃げながら断固拒否した。
いまから思えばその強い態度が最初にほしかった。
無人販売所ができて約2か月が過ぎたものの、
その光景にはいまなお慣れることができず、
目に入るたびに若干の気持ちの萎えを感じないではいられない。
でも、なんだかんだいって、基本、アジアンビーハイブのある児島は平和なのだった。

ところ変わって岡山のマチスタ。
のーちゃんの、ここのところの成長ぶりには目をみはるものがある。
厨房での動きにどんどん無駄がなくなってきた。
お客さんがたてこんでもけっして慌てず、てきぱきと注文をこなす。
そして、コーヒーを淹れる姿の美しさだ。
視線を一点に据え、ドリップに集中している姿は凛としていて、
ついつい見入ってしまうほど。
「最近、のーちゃんの淹れるコーヒーのほうが美味しいと思うんですよ」
コイケさんがいつもの笑顔でそんなことを言っていた。
まるっきり冗談とも受け取れない、それぐらいのーちゃんの腕は上達している。
東京のカフェで働いた経験があるとはいえ、ドリップコーヒーは淹れたことがなかった。
そんな彼女がこの1か月でここまで成長したのも、
実はほとんどコイケさんのおかげなのである。
そう、言い方が悪いかもしれないけど、
コイケさんがこの短期間でのーちゃんを仕込んだのだ。

最初にのーちゃんを採用しようとしたのはコイケさんだった。
彼女のことが気に入ってのことなので、それなりに彼女には優しかった。
ところがだ。のーちゃんが仕事でマチスタに顔を出すようになってからは、
手のひらを返したように厳しくなったのである。
怒鳴ったりすることは絶対にないんだけど、
言うこと言うことが、ぴしゃりと肌を打つように手厳しい。
コイケさんと付き合いはじめて7年ほどになるが、
そんなコイケさんを見るのは初めてだった。
ものを深く考えるクセのないぼくは、
最初はコイケさんがのーちゃんのことを嫌いになったのかと思った。
でも、奇跡的な思慮深さが唐突にやって来て、
それがコイケさん流の作戦なのではないかと思うようになった。
じゃあ、なぜコイケさんがそんなことをしているのかにまで考えを巡らせると
————なるほど、マチスタが成功するか否かの、
大きな部分がのーちゃんにかかっているじゃないか。
それを真っ先に見抜いていたコイケさんってやっぱりスゴい。
一方、経営者であるぼくはなにを考えているんだか(なんにも考えてなかったわけですが)。
以降、経営者のぼくはまったく口を出すことをせず、
心のなかでのーちゃんにエールを送り続けていたのだった。

そして、のーちゃんは試練を耐え抜いた。
実際、この1か月は彼女にとって相当キツかったはずだ。
しかし、彼女は案外、強い。たくましい。
というわけで、のーちゃんを3月26日付けで社員第3号に採用した次第だ。
これでまたマチスタのハードルを高くしてしまった感は否めない。
でも、のーちゃんはやってくれる予感がする。
コイケさんが重厚な差し手の居飛車党としたら、
のーちゃんは華麗なさばきを見せる振り飛車党だ。
一軒のお店でそんな変化に富む差し回しができたら、
かつての羽生さんのような7冠制覇も夢じゃない(すいません、将棋好きなもので)。

マチスタのオープンから1週間が過ぎた。
あてにしていた午前中の客の入りはお世辞にも良いとは言えず、
テイクアウトもまだまだ少ない。
売り上げ自体はそこそこいっているのだが、
「オープン特需」による何割かをそこから差し引くと、
はっきり針は赤に振れるだろう。
でも、初日に見たぼんやりとした明かりは、いまも遠くでゆらめいている。
少しずつだ。焦らず、少しずつそこに近づけるようにしよう。

まがりなりにもデザイン事務所です。その玄関がこんなことになりました。これで仕事のオファーがまた減ったような気がしなくもない。

朝イチの清掃の後、サブを連れて海に行くのが児島のルーティーン。天気のよい日なんか最高です。マイナスイオンを浴びまくりのサブです。

オープン前日の夜にぼくが縫ったカーテン。生地を買ったとき「どこかで見た柄だなあ」と思っていたら、自分のトランクスだと後に判明。

コーヒーチケットがぼちぼち出てます。ドリンクやフードにも使用できるので、いわばマチスタの金券なわけ。絶対お得ですから。

Shop Information

map

マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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