連載
〈 この連載・企画は… 〉
全国にはどれぐらいの商店街があるのだろう? シャッター通りとか地域の課題もあるけれど、
知恵と元気とみんなの協同で生き生きしている、ステキな商店街を全国行脚します。
writer profile
Maruko Kozakai
小堺丸子
こざかい・まるこ●東京都出身。読みものサイト「デイリーポータルZ」ライター。江戸っ子ぽいとよく言われますが新潟と茨城のハーフです。好きなものは犬と酸っぱいもの全般。それと、地元の人に頼って穴場を聞きながら周る旅が好きで上記サイトでレポートしたりしています。
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撮影:水野昭子
〈商店街サンド〉とは、
ひとつの商店街(地域)で売られているパンと具材を使い、
その土地でしか食べられないサンドイッチをつくってみる企画。
必ずといっていいほどおいしいものができ、
ついでにまちの様子や地域の食を知ることができる、一石二鳥の企画なのだ。
今回やってきたのは東京都の豊島区池袋。
そのなかでも西口エリアだ。
いま、ネット配信で人気が再燃しているドラマ『池袋ウエストゲートパーク』
通称「I.W.G.P.」の舞台でもある。
放送当時(2000年)、純な学生だった私は、
下ネタが多く闇の世界を描いているそのドラマを見て、池袋は怖いところなんだ……
という印象を持っていた。
いや、もちろん架空の話だし、怖さを超えてめちゃくちゃおもしろいドラマなんですけども。
今回は私の友人の大塚拓さんと、
大塚さんが紹介してくれた池袋出身の深野弘之さんにまちを案内してもらう。
実際の池袋西口とはどんな感じかを聞きながら、サンドの食材を買い集めよう。
せっかくなので、まずはドラマのタイトルにもなっている西口公園へ。
池袋には何度も来ているけど、実際行くのは初めてだ。
池袋ウエストゲートパークの放送当時より、ずいぶん明るく開けた感じがする。
豊島区は近年アートカルチャーで売り出しているそうで、
隣の東京芸術劇場とセットでとても近代的に見えた。
ただ安心してほしい。
西口には飲み屋街やラブホ街もあり、カオスなのは当時から変わっていないそうだ。
いまだに昼から飲んだくれた人たちが将棋を打っている光景は健在だという。
いろんなお店が乱立して、なんでもあるように見える池袋。
ただこの辺には、商店街によくある肉屋などのベーシックなお店がほとんどないそう。
それはもう、イメージ通りだ。
唯一あるお魚屋さんはこの日残念ながら定休日だった。
そのかわりに、店主の目利きがすばらしいという魚料理で大人気の〈定食 美松〉、
「西池袋」の宝と呼ばれる喫茶店〈ドリームコーヒー〉(定休日だった)、
出身でもないのに愛媛が好きすぎる店主がつくった
私設の〈愛媛アンテナショップいよかん〉(定休日だった)、
月に1回麺マルシェとして個人向けにも麺をおろしてくれる〈山口や製麺所〉などを
案内してもらった。
うわー、ジックリ歩くと興味深いお店がたくさんあるんだな!
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さて、サンドイッチに必須のパン屋さんに行こう。
目をつけたのは、福井県からやってきた〈PANTES(パンテス)〉さんだ。
元々はあんこをたっぷり混ぜ込んだ、もっちり&しっとりとした
〈あん食パン〉が看板メニューのパン屋さん。
ほかにも栗やサツマイモ、かぼちゃなど季節に合わせたスイーツ系のパンを販売している。
その中から唯一甘くない〈チーズ&黒胡椒〉のパンをゲットした。
さて、ここから今回特に注目してほしいエリアに入る。
池袋駅から要町駅を結ぶ大通りから少し入ったところに、
突如現れる癒しの空間があるのだ!
今回の案内人である深野さんが、
自分がもっている土地をつかって2年ほど前からちょっとずつ広げていっているオアシス、
〈ニシイケバレイ〉>である。
もともと深野さんの自宅があった場所をつかって、
「住人たちの関係が増えていけばいいな」という考えから、この空間は生まれた。
最初は〈チャノマ〉というカフェをオープン。
その後、器などの手づくり作品が並ぶショップや、レストラン、曜日ごとに
飲食店が変わるシェアキッチン、コワーキングスペースなんかもできた。
レストランの裏にある庭では、畑や池を手づくり中。
いずれ蝶や鳥が舞い、魚が泳ぐような生態系をここにつくりたいらしい。
深野さんが楽園の創造主のように見えてきた。
趣きある場所だなあ。
これまで池袋ウエストゲートパークに抱いていた池袋の恐いイメージが一掃された。
なにせニシイケバレイでは子どもたちのキャッキャという楽しそうな声が
あちこちから聞こえるのだ。
隣接するマンションの階段を登ると、パルクールの設備があり、
まるで忍者のように自由に飛び回る子どもたちが。
パルクールとは移動しながら体をきたえる運動で、
どんな場所でも好きなところにいける身体能力が身につく。
このステージには棒や板などの使い方がよくわからないものがあるのだけど、
それを使って自分なりの動きを探しながら鍛えるのだそうだ。
コーチは、高校生のときから『SASUKE』に出場し、
いまや日本パルクール協会会長である佐藤 惇さん。えー!
教室は基本予約制だけど、あいていたら当日参加も可能とのこと。
また、大人向けの教室もあるそうだ。
ほかにも、駐車場には「ジム」と呼ばれる小屋があって、
子どもたちはその中でも運動できる。
自分が小さい頃にこんな場所が近所にあったら最高だったなと思った。
そして駐車場のひとすみには、かわいらしい焼き芋屋さんの屋台がある。
実は案内人の大塚さんの奥さん・和佳さんが週に1回出しているお店なのだ。
(10月頃から3月いっぱいまで。詳細はインスタグラムにて)
和佳さんのお兄さんが山形・庄内砂丘で育てた無農薬の熟成安納芋を焼いて売っている。
小ぶりの安納芋がたくさん入って1袋500円。
昨年わたしはこの焼き芋を食べにきて、また絶対食べたいと思い
今回の商店街サンドの舞台に選ばせてもらったのだ。
あー。ニシイケバレイだけで紹介したくなるものが盛りだくさんだった……!
ほかにも周辺を散策しよう。
チーズ&黒胡椒のパンに、焼き芋までは決まっている。
そこに何が合うのかを想像しながら探した。
最近オープンしたという〈ジラフクレープ〉。
クレープがメインのお店のようだが日本酒や焼酎など
お酒入りのアイスが7種類も並んでいた。(ノンアルコールも3種類あり)
ニシイケバレイのカフェ〈チャノマ〉の冷凍庫を使わせてもらえるというので、
このシリーズで初めてのアイスに挑戦してみることに。
そして最後は、散策中に目をつけていたインド料理屋さん〈GARA スパイスレストラン〉へ。
こちらではメニューにあるものすべてをテイクアウトできるとのこと。
常連客である深野さんは、たまにナンをテイクアウトして家で楽しむこともあるそうだ。
本格インド料理を家で手軽に食べられるなんて羨ましい!
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食材がすべてそろった。
ニシイケバレイの駐車場に戻り、
子どもたち向けの本がつまった小屋をお借りしてそこで食べることに。
大塚さんは当然のように焼き芋をパンに塗り、ついでに皮も乗せた。
いつもこうやって食べているそうだ。
私も真似してみる。
焼き芋の皮を少し剥いて押し出してみると、ホクホク系焼き芋とはまるで違って、
すでにペースト状のような芋が飛び出てくる。それをスプーンで塗りたくった。
これだけでおいしそう!
あとはチキンをちぎって乗せ、アイスを添えた。
はーめちゃくちゃおいしい……
子どもにはまだ早い、池袋ウエストゲートパークのようなサンドができた。
辛味のきいたジューシーなタンドリーチキンとスパイシーなチーズ&胡椒パンが合うこと!
それをあまーい焼き芋がやさしく包み込んでくれる。
今回思い切ってチャレンジしてみた日本酒アイスは、バニラのような甘さはなく、
口の中をスッキリサッパリしてくれた。
そういえばカレー屋にいくとヨーグルトなどの乳製品が添えられていて、
混ぜながら食べることがあるけど、今回はその役目を日本酒アイスが担ってくれたわけだ。
食べていると、大塚さんのお子さんのたつき君が部屋をのぞき、食べたそうにしていた。
でもごめんよ。辛いし日本酒入ってるし、これは大人向けなんだ。
外では子どもたちの元気いっぱいな声が聞こえる。
そんな平和な空間のなかで、大人だけでこっそり食べるサンド。
最高においしかったです!
「出たとこ勝負のぶらり散歩で具材を探し、
最終的に唯一無二のサンドイッチをおいしくほおばる!
『商店街サンド』という企画の醍醐味を体感させていただきとても楽しかったです。
ゆっくり歩けばまちにはまだまだ宝が発掘できますね」
「都会の真ん中にも、こんなほっこりするところがあるんだなぁと、
ニシイケバレイと出会ったのが2年半前。
そこから妻の焼き芋チャレンジが始まり、
今回大好きなこの企画の案内役として参加できるなんて。サイコーでした!
西池袋の知らなかったところ&よろずの焼き芋の新たな可能性⁉︎ を発見できました」
さて次は、どのまちで勝手にサンドをつくろうか。
パンテスの胡椒&チーズパン………1枚420円
焼き芋よろずの焼き芋………1袋500円
ジラフクレープのアイス(八海山と柚子レモン酒)………1100円
GARAの壺焼きチキンティカ(ハーブスパイス焼きとタンドリー焼き)………6p 990円
合計……3010円
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