瀬戸〈中外陶園〉 働き方改革と新しいデザインで 進化する招き猫
若い世代も飾りたくなる招き猫を
鈴木さんは、家業である中外陶園の4代目ですが、
大学卒業後は大企業で働いていました。
「いつか実家に戻るつもりではいましたが、
東日本大震災や、父が60歳になったのを機に、
自分の人生をあらためて考えるようになりました。
祖父が病気がちだったため、父は若くして代替わりをして苦労したそうで、
小さい頃からその話を聞いていました。それもあって父が元気なうちに、
仕事をしているところを近くで見ておきたいと思ったのです」

2025年の干支「巳(へび)」の置物。〈薬師窯〉というブランドで、招き猫や干支置物などを製造販売してきた。

中外陶園の商品のほか、猫雑貨などを展示販売する〈おもだか屋〉。
こうして2011年、中外陶園に入社し、一社員としてキャリアをスタート。
「商売自体は順調でしたし、父親がやってきたことは
ひとつの正解だろうと思っていました。
半面、自分がやりたいことはちょっと違うのかもしれない、と
さまざまな経験をしながら思うようになりました」
違和感の答えは、同社が運営している〈招き猫ミュージアム〉にありました。
郷土玩具や骨董など、日本中から集められた招き猫のコレクションに心惹かれる一方で、
いまつくっている商品は、あまりにも観光客向けの
お土産になってしまっているように感じたのです。

〈日本招猫倶楽部〉の世話役を務めるご夫婦の個人コレクションを展示する〈招き猫ミュージアム〉。歴史あるものや、地域性に富んだ珍品が勢ぞろい。
「当時の主力商品は、神社・仏閣の門前でお土産品として買うような招き猫でした。
でも自分たちの世代が家に飾るとしたら、
もっとシンプルでクラシカルなデザインのものを好むと思ったんです」
そして鈴木さんが指揮をとって立ち上げたのが、〈瀬戸まねき猫〉というブランド。
本物の猫のようにすらりとしたフォルムや、
猫背を特徴とする「古瀬戸(ふるせと)型招き猫」のスタイルと、
セトノベルティの伝統技法を受け継いでいます。

セトノベルティの伝統技法を用いた瀬戸まねき猫。クラシックだけど、どことなくモダンなところがポイント。
あるとき、展示会で伊勢丹のバイヤーと名刺交換にこぎつけ、
瀬戸まねき猫をアピールしたところ、年末年始の催事の話に。
納期的には到底無理と思えたものの「できます!」と即答し、
現場の協力を得てなんとか実現させたのでした。
「実を言うとこの業界において、
我々つくり手が直接小売と接触するのはご法度とされているんです。
なので僕が自ら伊勢丹の売り場に立つことは、本来はNGなんですけど、
ここは“業界のルールを知らない息子”の立場を利用してしまおうと思いました」
そして伊勢丹新宿店の催事で販売したところ、なんと完売。
さらに催事に立ち寄った、セレクトショップ〈BEAMS〉のバイヤーの目に留まります。
折しも、日本の魅力を発信するショップ
〈BEAMS JAPAN〉のオープンを控えたタイミングで、
この出会いがきっかけとなり、BEAMSカラーのオレンジ色の招き猫が誕生。
BEAMS JAPANではオープン初日に完売し、
以後、予約の時点で売り切れてしまうこともあるほどの人気商品となったのです。

〈BEAMS JAPAN〉の人気商品〈まねき猫〉(左)と、〈まねき犬〉(右)。
「鈴木社長は『とにかくすぐやる』を経営の信条にされていますが、
その姿勢は社長になる以前から一貫しているのですね」(伊藤さん)
「それだけ必死だったのでしょうね。
当時の社長、つまり父も『息子のことを手伝ってくれ』と、
ほかの社員を巻き込んでくれていましたけど、当初は周りも
『別にこんなことをやらなくても、いまの商売で食べていけるのに』
という思いがあったはずです。
けれど少しずつ成果が見えてきたのと同時に、僕の必死さが伝わって、
新商品の開発に一緒に取り組めるような若い世代が徐々に増えていったのです」

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