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posted:2024.10.18 from:福岡県糸島市 genre:買い物・お取り寄せ
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writer profile
Haruko Sato
佐藤 はるこ
さとう・はるこ●福岡生まれ、福岡育ち。成人してから引っ越した回数は10回以上。日本各地を移動しながら、2010年からフリーランスのライターとして活動。建築、都市、まちづくりに興味あり、音楽やアートの話が好き。人から話を聞くのがとても好き。
かつて、話題の新刊やコミック、雑誌などを買いに
足を運んだまちの書店が「だいぶ減ったなぁ」と実感する日々。
20年前と比べると、国内の書店数は半減しているといいます。
福岡市内でも、半世紀にわたって営業していた天神地下街の書店が
今年8月に閉店し、ニュースになりました。
本を買うだけなら便利なインターネット通販があるし、
わざわざお店まで出かける必要もない……
そんなふうに思っている人も多いのではないでしょうか。
もしかしたら、「遠くても、そのお店を目指して出かけたくなる本屋さん」に、
まだ出合っていないだけかもしれません。
新しい朝ドラの舞台としても注目を集めている「糸島」。
海と山が近く、マリンスポーツが楽しめるエリアとして、
また九州大学の広大なキャンパスがある場所としても知られています。
そんな糸島エリアに2年前オープンした書店が、
〈All Books Considered(以下、ABC)〉です。
店内には、現役の大学生でありオーナーの中田健太郎さんと
スタッフが選んだ新刊、古本、アートブック、ZINEなどがずらり。
本だけでなく、ABCスタッフのひとりが運営するブランド
〈エグゼクティブ愚か〉の内臓のぬいぐるみ、
有田焼の大皿、古着をリメイクした洋服……などなど、
自由で混沌としたアイテムたちが並んでいます。
もともとは同じフロアの4畳半のスペースで営業していた〈ABC〉。
その手狭さゆえ、来客があれば「話しかけない方が不自然」だったそう。
「普段どんな本を読まれているんですか?」という
会話からはじまり、その時々でおすすめの本を紹介する、
「古着屋のような接客スタイル」が定着しているといいます。
戦略的に「積極的に話しかけていこう」と決めたわけではなく、
「個人的に古着屋が好きなので、こういうコミュニケーションのほうが
自分たちにとって自然だったんです」とのこと。
取材で伺った日も、常連のお客さんとの世間話が弾んでいました。
中田さんの「本屋」としてのキャリアが始まったのは、
〈ABC〉の1階にある〈糸島の顔が見える本屋さん(以下、糸かお)〉。
中田さんが住んでいるシェアハウスのオーナーが
〈糸かお〉を共同運営していたことがきっかけでした。
いわゆる「シェア型書店」で、約100人のオーナーが
各自の棚にさまざまな本を並べ、販売しています。
「コロナ禍の夏休みで時間が有り余っていたときに、
自分の本棚に『引きの強いタイトルの本』を並べて楽しんでいたんです。
本を並べることで、横断幕を掲げるような、主張するようなことが
できるなと思っていて、その延長のような感じで〈糸かお〉の
棚を借りたんですが、30センチ四方の棚では全然足りないなと。
その後、2階のスペースを借りられることになったので、
大学の友達に声をかけて、メンバー4人で〈ABC〉を始めました」
「本好き」というよりも、好きな「何か」を持っている人が集まり、
まるでバンドのようなノリで始まった〈ABC〉。
オープンから2年経った今年、同じフロアのテナントに空きがでたことで、
4畳半からその3倍以上のスペースに移転。
オリジナルメンバーの卒業、新しいメンバーの参加もあり、
いま、大きな変化の時期を迎えています。
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「本屋をやりたい」という気持ちの原点にあったのは、
中田さんの出身地、宮崎県にある〈ポロポロ書店〉。
座右の書『はたらかないで、たらふく食べたい』は、
高校時代にここで出合ったといいます。
「意味のわからないことをする店なんです(笑)。
例えば、『ヤッホー割』というのをやったりしていて。
お店のなかで『ヤッホー』と叫んで、何デシベル以上なら
割引します、というキャンペーンなんですが、
本屋ってそもそも大きな声を出すところじゃないし、
『何それ?!』って思うようなことばかりしてるんですよ」
ツッコミどころが多い、ということですか?と聞くと、
「ツッコミどころというより、『それでいいんだ!』という感じで
ものすごいショックを受けました」と中田さん。
「普通はみんな、意味のあること、説明できることをすると思うんですけど、
〈ポロポロ書店〉は意味がなくて、説明もできないようなことをするんです。
でも本当は、価値や意味がないことの方がむしろ難しいと思っていて。
自分はそこに惹かれるし、心のどこかで『そうでありたい』と思ってるんです」
〈ABC〉は「大学生がつくった書店」として注目を集めたため、
各種メディアに取り上げられる機会も多かったそう。
そんな中で、周囲からの“意味づけ”に疑問を感じることもあったといいます。
「学生なので『ガクチカ(※)にいくらでも書けるね!』的なことを
言われたりしたんですが、自分はやりたくてやってるだけであって、
ガクチカのためにやってるわけじゃない。あくまで自分のためなので。
本棚で、自分の主張したいことを主張したい、というだけなんです」
※ガクチカ:学生時代に力を入れたこと。就職活動で聞かれる代表的な質問のひとつ。
「主張する」という目的であれば、それこそモノを書く、
音楽をつくる、作品をつくるなど、いろんな手段があるなかで、
「本屋」を選んだ理由は何だったのでしょうか。
「僕は、『ひとの人生を狂わせたい』と思ってるんです。
本を一冊買うのってたいした買い物ではないんですが、
確実に何かの歯車がズレていくような体験だと思っていて。
本を通して、そういう体験をしてもらいたいんです」
本屋として営業をはじめて、印象に残っているのが、
「本が好きだという、小学5年生のお客さん」だという中田さん。
「その子が、永井玲衣さんの『水中の哲学者たち』を買ってくれたんです。
確か1700円ぐらいで、小学生にとってはなかなか大きな買い物ですよね。
その夜、布団の中で『あの子の人生を変えてしまったんじゃないか』と思って、
ドキドキしたんです。『どんな大人になってしまうんだろう!』って」
ひとの人生の転機になるもの、これまでの人生観を覆してしまうもの。
そんな本との出会いを提供できることを実感したといいます。
「『なんだかよくわからないお店で買ったけど、
この本を読んで、自分の中のいろんなものが変わった』と、
いつか思い出してくれたら本望かもしれない。
そのときに、『自分はこういうことがしたかったんだ』
というのが、だいぶはっきりした気がします」
年齢に関係なく、もっとその人自身の人生を楽しんでほしいし、
今とは違う選択肢もあるということに気づいてほしい。
世の荒波にもまれ、つい流されてしまう日々のなかで、
「本当にそれでいいのか?」と真剣に問いかけてくるような、
そんな思いが「本棚の主張」に込められているのです。
「将来、何をして生きていけばいいのか。」
これは、〈ABC〉のオンラインショップの最初に書かれている言葉。
自己紹介ではなく、問いかけからはじまるのが斬新です。
この問いに重ねて、〈ABC〉の今後の展望についてうかがいました。
「いろいろやりたいことはあるし、考えてるんですけど、
先のことはまったくわからないですね。ポップアップとか、
イベントとかも続けていきたいなとは思ってますが、
10年後は……もう全然わからないです(笑)」
「地域に根ざした書店に」とか、「とにかく長く続けたい」とか、
そういうのも特にないんですよね、とのこと。
それは逆に、形式ばった言葉にしたくない真面目さのようにも、
これからの可能性を言葉で制限したくない希望のようにも感じられて、
10年後の〈ABC〉がますます楽しみになるのでした。
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