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連載

〈KEM工房〉
子どもたちと、かつて子どもだった
人のための木のおもちゃ

木のある暮らし
ーLife with Woodー
vol.039

posted:2015.1.22  from:北海道札幌市  genre:ものづくり

〈 この連載・企画は… 〉  日本の面積のうち、約7割が森林。そのうちの4割は、林業家が育てたスギやヒノキなどの森です。
とはいえ、木材輸入の増加にともない、林業や木工業、日本の伝統工芸がサスティナブルでなくなっているのも事実。
いま日本の「木を使う」時かもしれません。日本の森から、実はさまざまなグッドデザインが生まれています。
Life with Wood。コロカルが考える、日本の森と、木のある暮らし。

writer profile

Emiko Hida
飛田恵美子

ひだ・えみこ●茨城出身、神奈川在住。「地域」「自然」「生きかた・働きかた」をテーマに、書くことや企画することを生業としている。虹を見つけて指さすように、この世界の素敵なものを紹介したい。「東北マニュファクチュール・ストーリー」の記事も担当。

credit

撮影:藤原かんいち

KEM工房からつながる北海道の森のはなし

土地面積の71%が森林に覆われる北海道。
その広さは広大で、全国の森林面積の約22%を占めている。
日本を代表する豊かな森を擁する地域だ。

道土面積そのものが広く、道央・道南・道北・道東で気候や地形が異なることから、
トドマツやエゾマツなどの針葉樹、
ミズナラやカンバ、イタヤにブナといった広葉樹など、天然林の樹種が豊富。
山々は、四季折々で美しい表情を見せる。

植生の多様さから、紅葉の時季になると山は七色に染まる。

木でものをつくって、贈りものをするようにたくさんの人に届ける

「大切なものは、目に見えない」
サン・テグジュペリの名作『星の王子さま』の中に出てくる言葉だ。
この物語は私たちに、目に見えるものがすべてではないこと、
心で見ることの大事さを教えてくれる。

この作品から大きな影響を受け、心を育むものづくりを行う人がいる。
札幌にある〈KEM工房〉の煙山泰子さんだ。

煙山さんは、“子どもたちと、かつて子どもだった人への贈りもの”をコンセプトに、
30年以上、木のおもちゃをつくり続けている。

かわいいおもちゃが並ぶ工房で、優しく微笑む煙山さん。

煙山さんが木工を始めたのは、20歳の頃。
汚れた木材をカンナで削ると、美しい木目が現れ、
カンナ屑がくしゅくしゅっと丸まり、木の香りが漂った。
その瞬間、まるで恋に落ちるかのように、「私、木が好きだ」と感じたという。

「木で調味料入れや棚をつくると、母が
“わぁ、うれしい”って喜んで、毎日使ってくれたんです。
誰かのために木でものをつくることって素敵なことだな、
それを仕事にしたいなと思いました」

23歳のとき独立し、KEM工房を立ち上げた。
当時はまだ女性の木工家は珍しく、注目されたそうだ。

どんな製品をつくっていたのかって?

音を鳴らして赤ちゃんをあやすおもちゃ。ガラガラとも呼ばれる。

たとえば、〈カタカタNo.1〉。

赤ちゃんがいちばんはじめに出会うおもちゃだから、
木のものを使ってほしいと製作した。

煙山さんはこれをつくるために世界中のガラガラを研究。
余計なものを削ぎ落とし、ガラガラの原型ともいえる形にした。
針葉樹のエゾマツ、広葉樹のナラがあり、鳴らしてみると音の違いがわかる。

シンプルなので飽きられることがなく、
発売から何十年経っても変わらず売れ続けている。
もしかすると、この文章を読んでいる方の中にも、
“これ、家にあった”という人がいるかもしれない。

棒を押し出すと顔が飛び出し、引っ張ると隠れる。

こちらの〈イナイイナイ・バア〉もかわいい。
子どもに慣れていない新米のお父さんは、
照れくさくて“いないいないばぁ”ができないことが多い。
でも、このおもちゃを使えば、赤ちゃんをあやすことができる。
笑ってくれるとうれしい。もっと笑顔を見たくなる。
そうしていくうちに、自然と赤ちゃんとの接し方が上手になっていく。

「おもちゃは、人と人とのあいだにあるもの。
コミュニケーションを豊かにする道具だと思うんです」

おもちゃを開発していたとき、煙山さんの子どもは既に小学生になっていた。
「あの頃、こんなものがあったらよかったな」と思いながら創作していたそうだ。
子どもたちも「赤ちゃんだったらきっとこんなふうに遊ぶよ」
「こっちのおもちゃと組み合わせて、こんなこともできるよ」と、
アイデアを出してくれた。いわば、親子の共同作品、ということ。

まだ見ぬ誰かが喜んでくれるようにと、心を込めて試作する煙山さん。

そんなかけがえのない思い出が詰まった製品が、
全国の子どもたちにいまも愛されていることに、煙山さんは喜びを感じている。

3世代で受け継がれていくKEMのおもちゃ

煙山さんは当初、製品をひとつひとつ自分で手づくりしていた。
しかし、それでは量が限られるし、単価も高くなってしまう。

質のいいものを手頃な価格で届けるため、
製造を引き受けてくれる工場やメーカーを探した。

そんなとき、煙山さんに声をかけたのが道東にある津別町。
面積の約9割が森林で覆われた“愛林のまち”で、
昭和59年に津別木材工芸協同組合を設立し、木工品を地場産業にしようとしていた。
両者の想いは一致し、一緒に製品づくりに取り組むことになった。

2年前に組合は解散することになったが、
工場長だった水戸部寿一さんが津別木材工芸舎を立ち上げ、業務を引き継いでいる。
水戸部さんは、18歳のとき組合に入り、職人としてKEM製品をつくってきた人だ。

「せっかく築き上げてきたものを失くしたくない」と津別木材工芸舎を立ち上げた水戸部さん。

「おもちゃは、真似して真似されて、が当たり前のようになっている世界です。
だから、どれだけ気持ちを込めてつくるか、が勝負だと思う。
こちらは毎日たくさんの製品を製作するけど、
買ってくれる人が手にするのはひとつだけ。
そのひとつが、雑につくられたものであってはいけない。
丁寧に仕上げて、厳しく検品して、ということを、真面目にやっています」

丈夫で長持ちするKEM製品。3世代で使っている、という人も珍しくない。
汚れて黒くなっているのに、「愛着があるので修理して使いたい」というそうだ。

「このキズは赤ちゃんが噛んだときの、このシミはコーヒーをこぼしたときの、って、
キズやシミもその家族の歴史や思い出なんですよね。
販売する側としては、新しいの買ってよっていう気持ちもあるけど(笑)、
そういう声を聴くとやっぱり嬉しいし、やっていてよかったなって思いますね」

「雑につくられたものを、人は大事にしない」という考えから、丁寧に丁寧に仕上げる。

〈イナイイナイ・バア〉であやされていた赤ちゃんが成長してお母さんになり、
お母さんだった人はおばあちゃんになり、
ふたたび〈イナイイナイ・バア〉を手に持って、新しく生まれた赤ちゃんを覗きこむ。

そんなふうに家族のなかで大事に受け継がれていくのは、
ぬくもりのある木製品だからこそかもしれない。

手の中に森を感じる心を育てる

煙山さんは平成16年から、〈木育推進プロジェクト〉のメンバーとして、
木育にも取り組んでいる。いまではポピュラーとなった木育という言葉だが、
最初に打ち出したのは北海道なのだ。

木育授業で使う、樹種の異なる板。ルーペで見ると、広葉樹の道管、針葉樹の仮道管の違いがよくわかる。

北海道の木育のテーマは、“木とふれあい、木に学び、木と生きる”。
子どもの頃から木を身近に使うことを通じて、
人と木や森との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育むことを目標にしている。

煙山さんは木育に携わるようになり、
自分自身も北海道の森に育まれてきたことに気づいたという。

「木は、ただ私たちの暮らしを便利にする材料じゃない。
森で何年ものあいだ生きてきた生きものなんです。
木を伐るというのは、いのちを奪うということ。
たべものを“いただきます”と食べるように、
木も“使わせていただきます”という気持ちで
大事に使いたい、使ってほしいと思いました」

木育授業では、森に入って樹木に触れ、木を使ったものづくりを行う。
木を触り、匂いを嗅ぎ、重さを比べ、音を鳴らし、時には舐めて。
五感をめいっぱい働かせた子どもたちは、
スイッチが入ったかのようにいきいきしてくるそうだ。

10種類の木材でつくられた木のたまご。ひとつ800円。それぞれ重さや手触りが異なる。

KEM工房の代表作のひとつに、〈森の鳥たちからの贈りもの〉という木のたまごがある。
煙山さんが子育てに追われてなかなか木工に取り組めずにいたとき、
「いつも手元に置いて、触れていられる木製品がほしい」と開発した。
たまごの形にしたのは、いのちを宿す形だから。
自然が生み出す造形の美しさを、木で形にしてみたいと思ったという。

授業を受けた子どもたちは、たまごの木目を見ながら
「ここだけぐにゃっとしてるね、何か(環境の変化が)あったんだろうね」と話したり、
年輪を数えて「100歳の木だったんだね、100年前ってどんな感じかな」と
自分の知らない時代に想いをめぐらせたりする。
想像力や考える力が、自然と育っていくのだ。

「木育は、心の森づくりだと思っています。
木のたまごを握って、手の中に森を感じられる心を育てられたら、それがゴールです」

木のたまごを掌で包むと、優しい気持ちになる。

授業のこと、KEMのおもちゃで遊んだことを、
子どもたちはいつか忘れてしまうかもしれない。
でも、そのとき経験したこと、そのとき感じたことは、
きっと心の栄養になって、子どもたちの感性を健やかに育むことだろう。

目には見えないけれど、大切なもの。
決して失われることのない、煙山さんからの贈りもの。

木のある暮らし 北海道・KEM工房のいいもの

木育の玉手箱 価格:5,800円(税別) 木育授業から生まれた、限定400個のキット。エゾマツの木箱に、5種類の板(エゾマツ、イチイ、ミズナラ、セン、サクラ)、カタカタ2個(エゾマツ、ミズナラ)、樹脂製ルーペ(10倍)、輪切り材2個(イチイ、サクラ)、木の種子(マツボックリ、クルミなど数種類)、テキストが入っている。

イヤイヤ 価格:1400円(税別) 棒を持ってまわすと手の玉がリズミカルに響く。子どもがイヤイヤして泣くところをユーモラスに表現した。ナラ・ミズキを使用。

information

map

KEM工房

住所:北海道札幌市豊平区月寒東3条19丁目20-11
TEL:011-855-5510
http://www.h3.dion.ne.jp/~kem/

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