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ヨネクラ玩具店

つぶれてほしくない
オジちゃんオバちゃんの店
vol.002

posted:2012.2.16  from:和歌山県田辺市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  レトロな看板に使い込まれてきた店内のインテリア。一見、古くて、時代遅れに見えても、
得も言われぬ魅力に惹かれてしまうのです。全国に潜むそんな名店を探して。

editor's profile

Kanako Tsukahara

塚原加奈子

つかはら・かなこ●エディター/ライター。茨城県鹿嶋市、北浦のほとりでのんびり育つ。幼少のころ嗜んだ「鹿島かるた」はメダル級の強さです。

credit

撮影:在本彌生

子どもの能力を引き出す、木のおもちゃの魔法。

カラフルでかわいくって、どこかぬくもりを感じさせる木のおもちゃ。
ヨネクラ玩具店には、そんな、大人でも子どもでも心を踊らせてしまうような
おもちゃが所狭しと並んでいる。
中央には、子どもたちが遊べるスペースが設けられていて、
レールも電車も木製の鉄道セットや、木の独楽、積み木など
さまざまな種類のおもちゃが置かれている。
なかにはいい飴色になったサンプルのおもちゃもあり、
ヨネクラ玩具店の歴史が感じ取れる。
そんな種類の豊富さに驚いていると、そのなかから、
店主の米倉千景さんがひとつのおもちゃについて教えてくれた。
「これは『アムステルダム』という名前で、
166ピースを使ってまちをつくります。ほら、見てください。
右と左でまちを囲っている積み木の家の屋根の色が違うでしょう?
ぼくは不思議に思って、これをつくった子に
“なんで、色が違うの?”と聞いたんです。
そしたら、“昼のまちと夜のまちだから”なんて答えるんですよ。
子どもの想像力はすごいですよね。ひとつのまちを、夜と昼にわけるなんて。
この『アムステルダム』には、そうやって、
子どもたちが編めるたくさんの物語がうずまいているんです」

おもちゃ「アムステルダム」。赤い屋根のほうは、昼のまち。

昭和33年に創業したヨネクラ玩具店は、千景さんで二代目。
父親が若くして亡くなり、千景さんは20代で店を継ぐことになった。
「おやじが亡くなったとき、大阪で別の仕事をしていたんですが、
迷わず田辺に戻ってきました。おやじがいなくなったら、
“やっぱり、ぼくがやらないかん!”と思ったんですね。
弟もまだ大学に通っていたし、ぼくは3人兄弟の一番上で、
『長男が跡を継ぐ』という教育が体にしみこんでいたみたいです」
そうして店を継いだ千景さんだが、
最初から木のおもちゃを扱っていたわけではない。
当時はゲーム機やキャラクターもののおもちゃを販売したり、
「チョロQ」が流行れば、イベントを開催したりと、
どこにでもある普通のおもちゃ屋さんだった。
「電子音がするおもちゃなんかもたくさん販売していましたよ。
だって、ぼくも商売人として売れるとやっぱり面白いですからね。
でも、自分の子どもが生まれたとき、
子どもにあげたいおもちゃが店には見当たらないんですよ。
おもちゃ屋さんなのに(笑)」

取材中、訪れていた常連のお子さん。「ここに来るといつもわくわくしちゃうんです」とお母さま。

以来、それまで扱ったことのない、
特に外国のおもちゃを探すようになった千景さん。
面白そうなものがあると、息子さんに買う。
そのおもちゃを見たお客さんがほしいと言うから、店でも販売する。
それが、ひとつ増え、ふたつ増え、三つ増え……。
気がつけば、木のおもちゃばかりを扱うようになっていた。
「最初は、木のおもちゃを認めてくれるかなという不安もあったんです。
今から30年くらい前ですからね、当時そういった店はなかった。
でも、外国の木のおもちゃって、知れば知るほど面白いんですよ。
手にとってみると、おもちゃに対する思想が日本とは全然ちがうのがわかる。
つくりはとてもシンプルなんだけれども、
子どもが遊んだときにどうなるかっていう『しかけ』が
ものすごく考えてつくられている。ぼくのほうが面白くなってしまったんですね」

店内の遊べるスペースで、カプラを積みはじめた店主の千景さん。

無限に広がっていく、積み木遊びの面白さ。

外国の木のおもちゃを扱うようになった千景さんの興味は
どんどん深まっていく。そんなとき、あるひとつのおもちゃに出合った。
「福音館書店が発行する、月刊『母の友』で記事を見たのがきっかけでした。
ひと目見て、これだ! って思って、すぐに問い合わせました」
千景さんが一目惚れしたおもちゃというのが、
フランスのおもちゃ「kapla(以下カプラ)」だ。
薄くて小さな木のピースを組み合わせて、
お城をつくったり、タワーをつくったりと、積み木のようにして遊ぶ。
見た目はなんの変哲もない板だけれど、このピースを使って遊びはじめると
子どもたちは黙々とカプラに没頭してしまうのだという。

ひとつひとつ、カプラを組み合わせて、まずは、正方形をつくる。

さらに、カプラを組み合わせていけば、お城の屋根に!

その理由は1ピースの高さ:横:縦が、1:3:15の比率でできているから。
ただ、積み上げるだけなのに、どう積んでも美しいかたちにおさまる。
しかも、薄くて軽いカプラは子どもでもたくさん積み上げることができ、
創作は無限に広がっていく。
「カプラの1ピースを5枚並べると、正方形ができます。
それを積み上げるだけでも、とってもきれいなかたちなんですね。
だからつくる側にも自然と達成感が生まれる。
積み木は、かつてフレーベルという教育者が、
自然や宇宙の摂理を知るための道具として、つくったんだそうです。
子どもたちは、比率の数字のことなんてわかりません。ただ、遊びながら、
この比率のなかに秘められた法則を感覚的にわかるようになるんですね。
そんな風に遊びのなかで、
子どもの能力を無限に引き出してくれるおもちゃはたくさんあるんですよ」

赤が印象的な、カプラのパッケージ。200ピースが基本。生成り他に、カラーのピースもある。

流行を追うだけではない、子どもにとって楽しくって、
能力もひっぱりだしてくれる遊びも考えられている。
積み木に、そんな奥深さが隠されていたなんて知らなかった。
さらに、千景さんはドイツのneaf社の「セラ」というおもちゃを持ってきてくれた。
「これなんかも、無限に遊べるんです。
立法体を面に沿って大小9つのピースに分けられている。
まずはバラバラにして大きい順に積み上げていってみましょう。
真上からみると、さあ、何のかたちが見えてきますか? 六角形なんです。
次は小さい順から重ねていくこともできるし、家をつくって遊ぶこともできる。
一定の比率が計算されているからこそ、できる遊びなんですね。
この青のグラデーションもとても美しいでしょ」
と言って千景さんは、セラの何通りもの遊び方を見せてくれる。
一見するとただの大小の立法体の集まりなのに、
組み合わせ方次第で、幾通りにも遊びが増えていく。

各色の立法体をつみあげながら、子どもはバランス感覚も身につけていけるのだという。

目をキラキラさせて、セラの遊び方を教えてくれる千景さん。

もうかれこれ1時間以上おもちゃについて話を伺っているけれど、
千景さんの言葉からは、大人でも思わず引き込まれてしまうほど、
おもちゃの魅力が溢れてくる。
さらに、おもちゃの説明は続く。
そばにあった独楽を手にとれば、今度は独楽の説明が。
奥さまの富美子さんが隣で苦笑しながら
「独楽が一番好きなんです」なんて耳打ちするが、
「まぁまぁ、いいから、いいから。これはね……」と話し始める千景さん。
「独楽と言えば、これです。でももっとおもしろいのは、こっち……」。
と、店内にあるおもちゃすべてについて話してくれそうな勢い。
それも、おもちゃへの愛情があるからこそ。

千景さんが大好きという独楽。さまざまな国の独楽がヨネクラ玩具店には並ぶ。

「幼稚園や保育園に行ってカプラのワークショップをやっているんですが、
子どもたちと遊ぶにはね、体力が必要なんですね。
子どもたちのキラキラした目を見ると、期待に応えないと! って思ってしまって。
だから、体力づくりのために、今は、毎日走ってるんですよ」
とチャーミングな笑顔を見せる千景さん。富美子さんもそれをあたたかく見守る。
木のぬくもりと、ご夫婦のおもちゃへの愛がいっぱいつまったヨネクラ玩具店。
先生でも、エライ教育者でもない、それでもこんな風に子どもの遊びについて
教えてくれる人が自分の住んでいるまちにいたら、なんてすてきなんだろう。
毎日でも訪れたい。そう思わずにはいられない居心地のよい時間が店に流れていた。

二人三脚でヨネクラ玩具店を支えてきた、千景さんと富美子さん。

information

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ヨネクラ玩具店(トイランドヨネクラ) 住所 和歌山県田辺市湊991-7 TEL 0739-22-1728 営業時間 10:00〜20:30
http://www1.odn.ne.jp/yonekura/

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