連載
posted:2025.12.2 from:佐賀県 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルを舞台に活躍する人々のリアルな情報を通して、
日本の魅力を再定義するウェビナーシリーズです。地域を活性化させるために働きたい方、ローカルでビジネスを始めたい方、
自治体や企業で地域創生に携わる方に向けて、新たなヒントを提供します。

現在、日本の地域の魅力を発信するウェブメディア「コロカル」と佐賀県がタッグを組み、拠点づくりや地域創生をテーマとした全4回のセミナーシリーズ「コロカルアカデミー with 佐賀」をスタートさせました。
地域を元気にしたいという思いはあるものの、学ぶ機会や行動のきっかけを見つけられずにいる。そんな方々に向けて、自分らしい形で地域に関わるヒントを得られる新しいスタイルの学びの場です。
初回となる2025年11月8日の第1回を特別公開。建築の枠を超え、シェアハウスや地域づくりを通じて都市と地方をつなぐ活動を続けてきた建築家のクマタイチさんと、コロカル編集長の杉江宣洋が登壇。「自分らしい拠点をつくり、地域を盛り上げるには」をテーマに、講義やワークショップを通して多彩な視点が交わされる濃密な時間となりました。

profile

kumataichi
クマタイチ
TAILAND主宰
建築家。1985年東京都生まれ。
TAILAND主宰。隈研吾建築都市設計事務所パートナー
2014年 シュツットガルト大学マスターコース修了
2016年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了 工学博士
2017年-2020年 SHoP Architects勤務
2020年- 隈研吾建築都市設計事務所勤務
2020年 TAILAND設立
2022年「SHAREtenjincho」グッドデザイン賞受賞

佐賀県は平坦で移動がしやすい。その特徴により、「歩ける街」としての魅力が際立つといいます。
歩ける街では、日常の中で自然と人やお店に出会える仕掛けがつくりやすく、コミュニティがひらけ、拡散する土壌が整っています。
冒頭から建築家ならではの視点を展開するクマタイチさん。考えてみれば、私たちは店や住まいを建てるとき、その土地を前提にしています。具体的には、土地によって特有の個性があり、コミュニティのかたちにも当然影響を与えるものです。しかし、それに気づかないまま進めてしまうことも多いのかもしれません。
加えて、佐賀県は、九州各地へのアクセスも良ければ国際線空港もあります。にもかかわらず、福岡のような都市型のスピード感とは違って流れる時間は、すこしゆるやかで、余白があり、だからこそ移住した人が新しい挑戦を始めたり、地域創生にコミットできるアイデアがおもいつきやすい面白さがあるのかもしれません。総称して、クマさんは、佐賀県を「磁場」がある場所と語ります。

次にお話があったのは、クマさんが佐賀県で手がけた代表的なプロジェクト「鍋島オーベルジュ」について。この施設は、佐賀県鹿島市の重要伝統的建築物保存地区である肥前浜宿に佇む古民家を、地元の銘酒「鍋島」を醸造する富久千代酒造のオーベルジュ(宿泊と食事を楽しめる施設)へと改修したものです。
「お酒づくりの現場に立ちこめる“湯気”や“香り”をイメージし、空間には円形の照明を浮かべています。木組みが美しい古民家の力強さに、透明感ある現代的なデザインを重ねることで、“伝統と現代が共存する場”を表現しました」とクマさんは語ります。

また、「道が一本違うだけで風景は変わるし、五年前にできたことと今できることは違う」と話すその視点には、長年現場に向き合ってきた建築家ならではの深みが感じられました。
イベントの参加者にも、最初は地域の交流拠点として意図された建物が、いつの間にか単なる“箱”になってしまう例を見聞きしたことがある人も多かったはずです。
新しい挑戦をする際には、こちら側の意図や狙いも重要ですが、それと同じくらい「なぜここでやるのか?」「この場所だからこそできることは何か?」と問い続ける目線が欠かせないことを、改めて考えさせられる事例でした。
そのほかにも、「SHAREtsuboya」「SHAREyamabukicho」「SHORTsuido」「BANRAI HANTEN」といった、クマさんが手がけてきた多彩なプロジェクトについて、話を伺うことができました。それぞれの地域の特徴を活かし、新たな場をつくり、コミュニティの動きを生み出していく実践に触れたことで、土地の個性を見極めながら地域を盛り上げるための具体的な手法や視点を学ぶ貴重な機会となりました。

今回の講座で特に心に残った話題のひとつが「場所選び」という視点です。
土地にはそれぞれ独自の磁力や記憶が宿り、それを感じ取ったうえで、自分との相性を確かめることが重要だとクマさんは語ります。そのためには、実際に現地へ足を運び、繰り返し訪れることが欠かせません。
これは、冒頭で佐賀を「歩きやすい街」と形容したクマさんならではの、場所と身体感覚を重視したアプローチにも通じます。私たちはしばしば、事業内容やコンセプトから入りがちですが、本来は「この土地とどう向き合い、どんな対話を生むのか」という、場所との“関係性”が出発点になるべきなのかもしれません。
講座を通じて語られた物語や事例には、建築と地域をつなぐクマさんの哲学が一貫して流れていました。地域創生や地域おこしに取り組むうえで、私たちにも大きな示唆を与えてくれる内容です。

セミナーを通して繰り返し語られたのは、「場所」と「人」との対話というテーマでした。これは単なる意識の問題ではなく、その土地自体が持つ条件や性質が前提となっています。たとえば佐賀県には、九州の交通の要衝としての役割や、都市圏にはない余白、そして「歩ける街」として人と人が自然に出会える空間が存在しています。
環境を踏まえたうえで、さらに具体的な土地の選定が必要になります。駅前なのか、山間部なのか。商店街との距離はどうか……といった視点から、事業や場づくりの展開を描いていくことができるのです。テーマやプランを持ちつつも、場所と向き合いながら柔軟に考える姿勢が重要だといえます。
そして、忘れてはならないのが「人」の存在です。その土地に住む人々がいて、そこに新たな挑戦を持ち込んだときに、その行為が受け入れられるか、広がりを持つかは、人を頼り、つながりを育む姿勢にかかっています。場所と人との関係性を紡ぎ続けることこそが、新しい拠点や活動の土台になるのです。
大盛況となった「コロカルアカデミー with 佐賀」。地域創生に関心を持ち、自分のアイデアを深めたい方、佐賀をはじめとするローカルの未来に関わりたい方は、次回以降の開催もぜひチェックしてみてください。新たな視点や出会いが、ここからきっと生まれるはずです。
今回ご紹介した内容に興味を持ってくださった方は、ぜひ「コロカルアカデミー with佐賀」第3回にもご参加ください。
詳細・お申し込みはこちらからご覧いただけます。
https://colocalacademy-with-saga.hp.peraichi.com
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