一関地域はもち料理の数日本一!?
郷土の食文化を伝えるお店
もち料理の多さは全国一を誇る一関地方。
一関を含む岩手県南地方のもち食文化は、伊達藩を源流とするそうだ。
連載第5回目は、一関が「もちのまち」と呼ばれる理由を探るとともに、
種類豊富なもち料理の数々を知るべく、市内のもち料理店を巡ってみた。
もち料理の数が多いのはなぜ?
寒さの厳しい東北において、北上川の中下流に位置する岩手県南地方は
比較的気候が温暖で平地が多く、米づくりに適していた。
いわて東山歴史文化振興会長の佐藤育郎さんにもちの歴史を聞いた。
藩政期、伊達藩は開墾・新田開拓に力を入れており、
毎月1日と15日はもちをついて神に供え、邪気払いのために
「赤いもの=小豆」と一緒にもちを食べる風習があったそうだ。

「ところが、貧しい農家はもちを食べるゆとりはなかったんです。
そこで、くず米を粉にして練り、雑穀などと混ぜ合わせた
『しいな餅』(すな餅)を食べていたのですよ」
くず米をよりおいしく食べる工夫。その暮らしの知恵こそが、
今に続くもち料理の数々となり、冬期や飢饉の保存食としても重宝された。
もちづくしの「もち本膳」
そのなかで、一関地方に伝わる「もち本膳」は、
冠婚葬祭などあらたまった席でのもてなし膳である。
本膳料理は、室町時代から江戸時代に武家の料理文化として登場したもので、
膳の数や食材は地域それぞれ。一関・平泉地域の場合は、
もち本膳と呼ばれるもちづくしの膳が受け継がれてきたのだ。
武士から商家へ、さらに農家へと広まっていったもち食文化。
特に農家では、もちつきと農作業の関わりが深く、
田植えや刈り上げのあとなど、神や自然への祈りと感謝をこめてもちをつき、
集まった人たちに振る舞ったという。

東山町で行われた昔の結婚式のもちつき風景。(写真:『年月のあしおと』より)
こうした古くからの習慣は年々減ってはいるものの、
もちは、今も一関地域の人たちにとっておもてなしの必須アイテム。
家庭に限らず、一関市内にはもち料理を食べられる店が徐々に増えている。
というわけで、実際に市内を巡ってみることに。
築200年の古民家にて、もちつきに遭遇!

最初に向かったのは、
一関の南端、花泉町にある農家レストラン〈夢みる老止(おとめ)の館〉だ。
ここでは、築200年を超える日本家屋で、四季折々の山菜とともに、
花泉地区ならではのもち料理が味わえる。経営者の佐々木善子(やすこ)さんが、
もち料理をもっと気軽に楽しめるように、と自宅を改装して開いた場だ。

平成12年にオープンした夢みる老止の館の和室。県外や海外からも団体客が訪れる。
「昔、嫁入りがある日は、早朝から親戚や近所の人たちが集まるから、
玄関口で嫁入り行列を迎えるもちまきが賑やかに行われたものよ。
千本杵でもちをつき、地域全体で嫁入りを祝いながら、『もちつき歌』を唄ったの」
そう出迎えてくれたのが佐々木さんだ。
一関市のなかでも特に、花泉町は古くから米づくりが盛んで、
地元のもち米と食材を使ったもち料理がたくさんある。
佐々木さんは花泉らしいもち料理を広く知ってもらおうと、杵と臼を使った
出前もちつきグループを立ち上げ、平成6年から全国各地に出向いてきた。
今や岩手県内各地で行われる、出前もちつきの先駆けだという。

もちつきに合わせた大黒舞は、貴重な文化のひとつ。
そして、取材にうかがった日、県内沿岸部の中学生が農家民泊に訪れており、
偶然にも庭先でもちつきを体験していた。もちつきとともに
〈花と泉のふるさと 出前もちつきグループ〉メンバーが大黒舞を披露。
唄にあわせて杵をおろし、合いの手を入れる様子は、
まさに日本の懐かしい生活風景が再現されたようで、感激の思いだ。
さて、この日いただいたのは、同店人気メニューの「山菜膳と餅膳」のセット。
最初に運ばれてきた「山菜膳」は彩りも美しく、
小鉢の一品一品がかわいらしいお膳だ。
どれも、佐々木さんが近くの山や畑で採った山菜や野菜などが中心。

この日は、ナマス、コシアブラの胡麻和え、春蘭、ツクシ、スベリヒユなど山菜や野草の盛り合わせ、サク(山菜)の油いため、アケビの皮のワイン煮、ブラックベリーの食前酒などなど、10数品。
季節によって素材は変わるが、どれも珍しい食材ばかり。
佐々木さんに、その特徴を聞きながら食べるのも楽しい。

「山菜膳・もち膳セット」は2160円(税込)。
次に運ばれてきた「もち膳」には、もちが4種類と引き菜汁が乗っている。
あずきを使ったあんこもちは全国的にスタンダードだが、
ほかはどれも、花泉ならではの味。
かつて町内でよくとれたという沼エビを使ったえびもち、
エゴマ(じゅうね)をすり潰したじゅうねもち、
そして、名前から素材を想像しがたいふすべもちは、
すりおろしたゴボウと甘辛い醤油ダレで和えたもの。
もともとはキジ肉やドジョウを使っていたという。
ふた切れずつ入ったもちを平らげられるか? と不安もあったが、
一関産のもち米〈こがねもち〉のコシと歯切れの良さが、次のひと口を誘う。
山菜膳など多彩な味を楽しみながら、さらりと平らげてしまった。

佐々木さん(真ん中)と出前もちつきグループのみなさん。佐々木さんは、県が郷土食の伝承者に認定する「岩手県食の匠」の伝統もち料理分野にも選ばれているという。
information
夢見る老止の館
住所:岩手県一関市花泉町油島字上柏木39
TEL:0191-82-2722
営業時間:11:00~20:30(4人以上で2日前までに要予約)
〈道の駅かわさき〉で堪能する、昔ながらの「もち本膳」

「もち本膳」1100円(税込)。本来、伝統行事では足付きのお膳で出されるものだが、レストランでは略式で。
次にめざしたのは花泉町からやや北へ車で20分ほど、川崎町の国道沿いに建つ
〈道の駅かわさき〉だ。この中にある食の匠レストラン〈ぬくもり〉では、
千葉秀子さんがつくる昔ながらの「もち本膳」を食べることができるのだ。

新鮮な野菜を見るのも楽しい〈道の駅かわさき〉。
もともと、自宅の座敷を利用して〈農家レストランぬくもり〉を営む千葉さん。
自宅では、モクズガニを使った郷土料理「カニばっと」を中心に、
もち料理も提供していたそうだ。
平成27年に〈道の駅かわさき〉館内にオープンした〈ぬくもり〉は、
川崎町で、ふらりと訪れた人が気軽にもち料理を食べられる貴重な店だ。

明るい〈ぬくもり〉の店内。
あんこもちとクルミもち、お雑煮、そして大根おろし。
それぞれふた切れずつもちが入り、たっぷり乗ったあんこやクルミに
惜しみないもてなしの心が感じられる。
ちなみにクルミをすってつくるクルミもちは、岩手県ならではの料理。
「もち本膳は、あんこもちから食べるのがしきたりですが、
だいぶ略式化されて順番どおりに食べるのは私たちの母世代ぐらい。
郷土食を広く知ってもらうため、使命と思って出しています」と千葉さん。
ところで、川崎町は古くから、小麦づくりも盛んな土地柄。昔、米が採れない時は
小麦粉でつくる「はっと」(すいとんのようなもの)が主食になったという。
その「はっと」の中でも、千葉さんがつくる「カニばっと」は
市内でもめずらしい郷土料理で、濃厚な味わいを求めてやってくるお客さんも多い。

もち膳と合わせて、ぜひ試してほしい「カニばっと」。
本来は秋にしか食べられない「カニばっと」だが、
千葉さんは、試作を重ねてモクズガニのスープ瓶詰めを販売するなど、
とても研究熱心。
おいしいものを食べてほしいという千葉さんの人柄がうかがわれる。

秀子さんが開発したカニスープは、道の駅で販売されている。

千葉さんがつくる味は、どれも丁寧でやさしい。千葉さんは、カニばっとで岩手県食の匠に選ばれているという。
information
道の駅かわさき 食の匠レストラン ぬくもり
TEL:0191-36-5170
営業時間:11:00~15:00
ひと口ずつ、多種多様なもち料理を味わえる!

「ひと口もち膳」という名称は同店の登録商標。
3軒目に紹介するのは、
JR一ノ関駅から徒歩2分の場所にある〈三彩館 ふじせい〉。
昭和63年、それまで営んでいた旅館の一角にオープンした
〈山菜料理ふじせい〉が、その前身である。
「この土地ならではのものを食べたい、という
お客さまの声をヒントに始めた山菜料理店でした。
でも、都市計画で建物を取り壊すことになり、
平成3年に、日本料理、山菜料理、もち料理を提供する
現〈三彩館 ふじせい〉を開業しました」と、経営者の伊藤信行さんと篤子さん。
観光客をはじめ、一関、平泉地域を訪ねる人たちに人気のもち料理だが、
初めて、ひと口サイズのもちで「ひと口もち膳」として提供したのが
ここ、〈三彩館 ふじせい〉なのだ。

まるでギャラリーのようなモダンな建物。
篤子さんは、当時の思いを振り返る。
「昔ながらのもち本膳は量が多いからと敬遠する人もいる。
でもなんとか新しいかたちで、
おいしいもち料理を提供したかったんです。これなら食べてみたいと思えて、
食べきれる量のもち料理を出したくて、いろいろ考えました」
その結果誕生したのが9個の枡に彩り鮮やかなひと口サイズのもちを並べ、
中心に大根おろしを置く現在のスタイル。

見た目も美しく、女性にも人気の「ひと口もち膳」1620円(税込)。
さっそく出された膳には、あんこ、ずんだ、クルミ、ゴマ、じゅうね、
納豆、ショウガ、エビの8種類のもちと、引き菜がたっぷり乗ったお雑煮。
真ん中に甘酢で和えた大根おろしを添えてある。
どれも市内の各地域で食べられてきたもち料理で
今の時代にマッチしたサイズのひと口もち膳は、
お客さんからの評判も良く、認知されていったという。

本当にひと口サイズなので、ペロリと食べられる!
同店が大切にするのは、一関ならではの伝統もち料理を提供すること。
それゆえ、できるだけ地元産食材を使うこと、素朴な味つけにこだわっている。
例えば、ずんだもちに使う枝豆はもちろん一関産。
茹でた後も薄皮をひとつずつ手剥きすることで、
色鮮やかに舌触りよく仕上げるなど随所で手を抜くことはない。
また、主役であるもちのつき方にもひと工夫し、
一関産の〈こがねもち〉のコシを生かしながらも
柔らかさをどう持続させるかの研究を重ねた。
「使うのは水と米だけですが、どんな工夫かは企業秘密です」と、社長の信行さん。

お客さんの声から生まれたという、持ち帰り用の冷凍餅膳。湯せん解凍するだけで、つきたての柔らかさになるという。
「伝統を楽しみつつ、今に合った食べ方を工夫していかなきゃね。
栄養たっぷりで消化の良いもちはアスリートにもおすすめですよ」
と微笑む伊藤さんご夫妻。
ほどよい満腹感を抱えながら、ふたりの笑顔に別れを告げた。

もち料理への思いを話してくれた伊藤夫妻。
information
三彩館 ふじせい
住所:岩手県一関市上大槻街3-53
TEL:0191-23-4536
営業時間:昼11:00~14:00 夜17:00~21:00
定休日:月曜日
もち本膳から、オードブルまで! 〈道の駅厳美渓〉へ

最後は、一関市の西側に位置する厳美町(げんびちょう)へ。
集落を見下ろす栗駒山のふもとには、
ダイナミックな渓谷が広がる〈厳美渓〉があり、
紅葉の名所として知られ、秋には多くの観光客が訪れる。

ワイルドな断崖が美しい厳美渓。
その厳美渓から車で3分の距離にある〈道の駅厳美渓〉。
併設された〈もち食レストラン ペッタンくん〉は、
言うまでもなくもち料理が自慢の店だ。

同店では、一関産の〈こがねもち〉を毎朝店内でつき、
できたてのもちを出している。メニューには「もち本膳」をはじめ、
お雑煮など単品、そして好きなもちメニューから5種類選べる
「餅オードブル」まであってびっくりだ。
「一関地方にはもちの歳時記があり、季節の節句や農作業の節目、
冠婚葬祭など、ことあるごとにもちを食べるのですが、
最近は外へ出向いて、皆でもちを味わう家も増えてきました」
と、道の駅・駅長の小野寺拓也さん。

「和風もちセット」880円(税込)この日の創作もちは、産直で販売されている青シソを使った「シソ味噌味」。
レストランの人気は、8種のもちが入った「和風もちセット」。
ずんだ、あんこ、ごま、ショウガ、エビ、クルミ、いなりの定番7種に加え、
地元の旬を生かした季節限定のもちが入るのが特徴だ。
菜の花、トマト、ブルーベリー、モロヘイヤ、カボチャなどの創作もちは、
リピーターにとっても楽しみのひとつ。
定番も加えて、なんと100種類近いレシピがあるそうだ。
これは、新鮮な地元野菜が並ぶ産直が隣にあってこそといえる。

レストランに隣接する産直は、季節ごと常に旬の食材であふれている。
「しょっぱいものだけでなく、甘いものにも合うのがもちのすごいところ。
白いご飯にはできないことですよね」と小野寺さん。
9種のもちを詰め合わせた「おみやげもち」もあるので、
時間がないけど持ち帰りたい! という方はぜひ利用してみては。

定番8種にきな粉を加えた「おみやげもち」。
information
道の駅厳美渓 レストランペッタンくん
住所:岩手県一関市厳美町字沖野々220-1
TEL:0191-29-2000
営業時間:4月〜10月 10:30~17:00、11月~3月 10:00〜16:30(通年レストラン LO16:00)
駆け足で東へ西へと巡った市内4店舗。
たっぷり食べたもちの数々はどれも違った味わいで、
お腹が減ってくるとまた恋しくなる、そんな不思議なおいしさがあった。
一関市に脈々と受け継がれるもち食文化。
伝統を生かしながらも進化を続けるもち料理は
この地を訪れたらぜひ味わってほしいものだ。
ほかにも市内にはもち料理店や
もちをおみやげに購入できる店があるので巡ってみてほしい。
きっと、「もち」に対する新しい発見があるはず!
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