連載
posted:2017.4.20 from:三重県いなべ市 genre:暮らしと移住 / 食・グルメ
sponsored by いなべ市
〈 この連載・企画は… 〉
ここには何もないから……、と言ってしまうのは簡単です。
だけどいなべ市には、四季を感じさせてくれる自然が贅沢にあって、
自然の恵みをたっぷり受けた人々の暮らしが息づいています。
そんな、いなべの暮らしを旅してみませんか?
writer profile
Ikuko Hyodo
兵藤育子
ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。
photographer profile
Yayoi Arimoto
在本彌生
フォトグラファー。東京生まれ。知らない土地で、その土地特有の文化に触れるのがとても好きです。衣食住、工芸には特に興味津々で、撮影の度に刺激を受けています。近著は写真集『わたしの獣たち』(2015年、青幻舎)。
http://yayoiarimoto.jp/photo/fashion/
田んぼに囲まれたのどかな集落に、月に2回だけオープンするプリン屋さんがある。
ごく普通の民家の軒下にテーブルを置き、プリンを販売するその店の名前は
〈いなべプリン店〉と、シンプルかつストレート。
窓を開け放して、軒下に座っている日置愛彩さんの背中では、
看板息子の官助くんがにこにこと愛嬌を振りまいている。
日置さんはいなべ出身のだんなさんと結婚して、
2014年に生まれ育った同県の鈴鹿から移住してきた。
しかしなぜ、自宅の軒下でプリンを売ろうと思ったのだろう。
「鈴鹿にいた頃、ひとりで喫茶店をやっていたんです。
U字型のカウンターしかないちょっと変わったお店なんですけど、
昼間は私が喫茶店をやり、夜は母がスナックをやっていました。
喫茶店のメニューのひとつにプリンがあって、
積極的にお勧めしていたわけでもないのに、お客さんには結構人気だったんです。
移住とともに喫茶店は閉じてしまったのですが、
いなべでも何かやりたいと思って。この辺にはプリン屋さんもないし、
子育てをしながらでもできるかたちが“軒下プリン”でした」
ストライプのシェードが目印。「わざわざ足を運んでくれる人には、『めっちゃ家やん!』ってびっくりされます(笑)」と日置さん。
いなべプリン店の定番商品は3つ。鈴鹿のときの喫茶店の名前を冠した「カリカのプリン」は、
人気メニューのレシピを踏襲したシンプルで懐かしい味わい。
食べ方も昔ながらのスタイルで、お皿に盛りつけて楽しんでほしいという思いから、
このプリンだけはプラスチックのカップを使っている。
「よそいきプリン」はコクのあるなめらかな味わいで、どちらかというと女性に人気。
「茶っぷりん」はまちのヒット商品で、いなべ産のお茶を使ったプリンというのが定義。
パティスリーやカフェ、レストランなどさまざまな店がオリジナル商品を販売しているのだが、
いなべプリン店ではその発案者でもある〈マル信 緑香園〉のほうじ茶を使用。
甘さ控えめの生クリームと香り豊かなほうじ茶のプリン、
そしてほろ苦いカラメルが層になっている。
右側のカップに入っているのが「カリカのプリン」、真ん中がリッチな味わいが人気の「よそいきプリン」、左側はほうじ茶の香ばしさを生かした「茶っぷりん」。
ほかにもバレンタインの時期はチョコのプリン、
夏はアイスプリンなど季節限定の商品が登場するのだが、
共通してこだわっているのは、やはり素材。
いなべプリン店という店名にふさわしく、できるだけ地産地消にしたいと思っている。
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「牛乳は三重県産の〈大内山牛乳〉を、卵はいなべ産のものをいろいろ試してみた結果、
〈いっちゃんたまご〉を使っています。いっちゃんたまごは私がつくるプリンに合っていて、
つくり比べてみたら一番おいしかったので」
「カリカのプリン」はこんなふうにお皿に盛りつけて食べるのがオススメ。フルーツや生クリームを添えて、プリンアラモードにしても。
いっちゃんたまごは、いなべプリン店やマル信 緑香園と同じ大安町に
養鶏場があるのだが、その最大の特徴は黄身の色。
最近は黄身の色が濃くて、黄色というよりオレンジに近い卵のほうが、
なんとなく上質で栄養価の高そうなイメージがあるが、
いっちゃんたまごの黄身はそんなイメージに逆行するかのごとく、
透明感のある淡い黄色。しかしながら、黄身の色と栄養価は実質的には関係ないそうで、
エサの配合などによる違いなのだとか。
黄色というよりレモン色に近く、独特の甘みがあると評判のいっちゃんたまご。黄身の周りにこんもりと盛り上がっている濃厚卵白が多いのも、上質な卵のしるし。
いっちゃんたまごの生産者・伊藤恵子さんはこう説明する。
「『色が濃くなきゃ卵じゃない』なんて言う人もいますが、うちのは昔ながらの卵なんです。
いなべプリン店さんもうちの卵を使いたいと
飛び込みで来てくださって以来のおつき合いですが、
スイーツの材料に使ってくださっているお店も多いですよ」
夫の一男さんを叱咤激励しながら、いっちゃんたまごの営業・宣伝を担当する、明るく元気な恵子さん。
ちなみに、いっちゃんたまごというネーミングは、
卵づくりに情熱を注いでいる恵子さんのだんなさんが、
一男(いちお)という名前で、地元では“いっちゃん”の愛称で通っているため。
「おかげさまで今では卵が有名になって、
主人がいっちゃんと呼ばれていることを知っている人のほうが少ないですけどね」
と明るく、話し好きな恵子さんは笑う。
ベルトコンベアで20分ほどかけて運ばれてくる卵を選別しながらケースに並べる、一男さん。鶏舎では約8000羽の鶏を飼育している。
定期的にここへ直接買いに来る日置さんは、
「私が妊娠して間もない頃、『これ食べなさい!』って
初産の卵をもらったんです。普通の卵よりすごく小さくて、
栄養が詰まっているんだろうなって思いました。
伊藤さんとはいつもいろんなおしゃべりをして、楽しんでいます」
いっちゃんたまごは、いなべ市内の国道306号線とミルクロード沿いに2か所ある自動販売機でも購入可能。
軒下でプリンを売り始めたときは、
本当にお客さんが来てくれるのか不安だったという日置さん。しかしながら結果的には、
プリンを通して近所の人と会話をする機会が増えたことを喜んでいる。
「移住してきた自分のことを気にしてくれていたんだろうな、
と今になって思います。お店を開いていると、
『何やってるの?』と声をかけてくれる通りすがりの人もいますし、
自転車に乗って買いに来てくれる人もいます。
ついこないだは小学生と保育園児くらいの姉弟が、
初めてのおつかいみたいな感じでお金を握りしめて買いに来てくれて、かわいかったですね」
家にこもっているのが苦手で、人と会うことが好きなため、
出産前後も2か月しか休まずにお店を再開。
子どもが生まれるのを楽しみにしていたお客さんが、わざわざ見に来てくれることも。
「イベントに出店したときも、ひとりでテントを建てていると、
全然知らない人が息子を抱っこしてあやしてくれたりするんです。
子どもがいるのは大変だなって思うこともあるんですけど、
それ以上に周りに助けてもらうことが多いんですよね」
人なつっこい官助くんを抱っこする日置さん。
子育てが落ち着いたら、ゆくゆくはいなべでも喫茶店をやるのが夢だという。
「イメージとしては、カフェではなく喫茶店。
お皿に盛りつけるプリンがいいなと思う感覚とつながっているのですが、
懐かしい感じが好きなんですよね。
前にやっていた喫茶店はカウンターしかなかったこともあり、
ひとりでふらりとやって来るお客さんが多かったんですけど、
お客さん同士で話が盛り上がっているのを見ると、
こちらもうれしくなるんです。だから次にやるときも、カウンターのある喫茶店が理想ですね」
日置さんが喫茶店のカウンターに立っている間、
看板息子の官助くんが軒下で店番をする、なんて日がいつか来るかもしれない。
information
いなべプリン店
住所:三重県いなべ市大安町門前994
MAIL:karika2012@me.com
営業時間:10:00〜17:00※売り切れ次第終了
営業日:第2・4日曜のみ販売
information
いっちゃんたまご(伊藤いち男養鶏場)
住所:三重県いなべ市大安町宇賀453
TEL:0594-78-2249
営業時間:10:00〜15:00
定休日:無休
※遠方から訪ねる場合は事前に電話を。また、いなべ市内では、JAみえきた直営の産直の〈いなべっこ〉(TEL:0594-82-1147)や農家による商処としてオープンした〈みずほのおかげ市場〉(TEL:0594-37-0206)でもいっちゃんたまごを販売している。
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