colocal コロカル マガジンハウス Local Network Magazine

連載の一覧 記事の検索・都道府県ごとの一覧
記事のカテゴリー

連載

オンライン授業で
どこまで気持ちが込められる?
77の質問に手書きで答えて

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.114

posted:2020.6.3  from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

自己紹介を紙芝居風にまとめる取り組み

札幌にある北星学園大学で、1年に1度、ゲスト講師を務めている。
今年が2年目。文学部の心理・応用コミュニケーション学科の3、4年生が対象で、
将来をいままさに考え中のみなさんに、自分の活動やこれまでの体験について話す
「総合講義」という枠だ。

わたしが話題にしようと思っていたのは「過疎で営む、小さな出版活動の可能性」。
自分がつくった本について話しをしようと思っていたところ、
新型コロナウイルスの感染が拡大していき、大学ではオンラインの授業形態が導入され、
講義の多くがZoomで行われることとなった。

開講日は5月19日。
オンラインでの授業が決まった段階で、わたしは昨年と同じように、
ただ話すだけでは、大事なものが伝わらないのではないかと思った。

2012年に北海道に移住してから、東京の仕事先とオンラインでつなぐことが多かった。
このとき事務的な伝達であればまったく問題ないのだが、
アイデアを考えるときには高揚感が少なく、
相手と共感し合う気持ちが薄いように感じていた。

そこで、自分のいままでの経歴については書面にまとめて
あらかじめ配布しようと考えた。
わたしは編集者なので、人前でしゃべるよりも、
本のようなかたちにして伝えるほうが得意(!)。
全編手書きで紙芝居風プロフィールをつくってみた。

加えてこの講義では、事前にゲストの活動について調べ
質問を考えるのも課題のひとつとなっていた。
学生のみなさんは紙芝居風のプロフィールとともに
コロカルの連載なども読んだうえで、さまざまな質問を寄せてくれた。

履修している学生はおよそ100名(!)。
ひとり2~3問の質問を考えてくれていて、読むだけでもかなりの時間を費やした。
わたしの仕事に興味を持ってくれた人が多く、
読み流してしまうにはもったいないと感じ、A4コピー用紙を4分割し、
ひとコマにひとつ答えを書いてみることにした。

最初は軽い気持ちで始めたが、1日やってもゴールにたどり着けず、
持っている鉛筆がどんどん短くなっていったが、
ついに全部に答えることはできなかった。

およそ200問くらいあったなかから77問に答えた。

およそ200問くらいあったなかから77問に答えた。

質問の内容に身につまされる想いがした。
「不安」「ストレス」などネガティブな言い回しがたくさんあったからだ。

「移住して戸惑いやストレスを感じましたか?」
「会社から独立するときに不安はありませんでしたか?」
「仕事をしていて、一番辛かったことは?」

外出自粛要請が続くなかで、アルバイトもできず友人にも会えず、
就職活動も思うように進められない。
仮に就職ができたとしても、経済に大打撃が起こっているなかで、
未来の展望が見出せない、そんな苦しさが質問からにじみ出ているように思えた。

これに対して、わたしはできるだけシンプルに正直に答えるようにしてみた。
講義の前日ギリギリにみなさんに答えを届け、
いよいよオンライン講座に挑むことになった。

「質問ありがとうございました!!」の手紙とともに、答えを送った。

「質問ありがとうございました!!」の手紙とともに、答えを送った。

オンラインで授業が行われるなかで、在宅ワークに関する質問も多かった。

オンラインで授業が行われるなかで、在宅ワークに関する質問も多かった。

次のページ
画家MAYA MAXXさんとの活動

Page 2

コロナ禍の、いましかできないことがある?

オンラインで話した内容は、当初予定していた自分の出版活動のことよりも、
この連載でも紹介してきた画家MAYA MAXXさんとの活動についてを中心にした。
いま、コロナ禍の状態にあって、自分が以前に出版した本について、
わたし自身がリアリティを感じられなくなっているからだ。

MAYAさんとの活動は、今年に入ってから始まっている。
わたしが住む美流渡(みると)地区にアトリエをつくり、
そこでスケールの大きな作品を思う存分描いて発信していこうというものだが、
新型コロナウイルス感染拡大によって、活動は思いがけない方向へと進み始めた。

古い住宅をアトリエに改修中。

古い住宅をアトリエに改修中。

3月には普段通り卒業式が行えなかったみなさんへ向けて、
MAYAさんの絵と文による『卒業おめでとう』という小さな絵本をつくり無料配布した。

その後も、会いたいけれど会わないことを伝えたい人に向けた
ウェブ絵本『会いたいね』など、
このコロナの状況に反応して生まれたさまざまな作品について紹介した。

また、現在MAYAさんは東京の自宅で黙々と制作を続けており、
毎日のように、その様子をわたしにメールで送ってくれている。
これを制作日記として公開したらいいのではないかとあるとき思いつき、
何日かに分けてYouTubeにアップもしている。

この制作日記の中で、学生のみなさんにわたしが見てもらいたいと思ったのが、
MAYAさんが外出自粛を続けて2週間ほど経ったときに描いた龍の絵だ。
それまでは、どんどん絵に新しい展開が起きてきて、“ノって”描いていたのだが、
急に画面が決まらなくなり何度も塗り直し、
最後には雲の中に龍が消えていったのだった。

多くの人が感じたと思うのだが、外出自粛が始まった当初は、
恐怖や緊張感でテンションの高まりがあった。
それが2週間を過ぎる頃から次第に疲れを感じるようになったり、
精神的に落ち込んだりするようになっていったと思う。

MAYAさんが龍の絵に苦心をしていたとき、
わたしもちょうど考えがまとまらず散漫な原稿しか書けない、
しんどい時期と重なっていた。
そんな互いの“不調”を話していたときに、

「生きてるって、そういうことかもね~」

そうMAYAさんがつぶやき、わたしはハッとした。
気分が良い状態だからといって、良い作品ができるというわけではない。
絵を描くにしても文章を書くにしても、
自分の精神状態が落ち込んでしまっているからこそ表せるものがあり、
不調もあるがままに感じることをMAYAさんは教えてくれたのだった。

わたしは、今回の講義で学生のみなさんに、
コロナ禍だからこそできることがあるということを伝えたいと思い、
このエピソードを紹介した。

そして最後に、MAYAさんとのプロジェクトを
スタートするにあたって書いた言葉を朗読した。

このプロジェクトで大切にしたいのは「本当のことだけを」行うということだ。

この言葉も、あるときMAYAさんが
「これからは本当のことだけしかしたくない」と語ったことがきっかけになっている。
非常に曖昧なフレーズではあるが、新型コロナウイルス感染拡大のように
経験したこともない出来事によって、
大量消費・大量生産の裏に隠れて見えていなかった“何か”が、
いまこそハッキリと見えてくるときなのではないか。

いまだからこそできる表現とは、もしかしたら、
その“何か”を探りつかみ取ることなのではないか。
いまこの状況で感じる「本当のこと」を学生のみなさんにも見つけてほしい。
わたしはそう締めくくった。

今回オンライン授業で使ったのはZoom。授業中は、学生たちのビデオは基本オフだったが、最後にみんなに顔出しをお願いしてとったキャプチャ。

今回オンライン授業で使ったのはZoom。授業中は、学生たちのビデオは基本オフだったが、最後にみんなに顔出しをお願いしてとったキャプチャ。

次のページ
学生さんの感想は?

Page 3

数日後、わたしの手元にみなさんの感想文が届いた。

「授業後、もう一度MAYA MAXXさんの
『卒業おめでとう』と『会いたいね』を YouTubeで拝見しました。
MAYA MAXXさんのゆったりとした声を聴いていると、
なんとかなるかという気持ちになりました。
大げさに感情をこめている訳ではなく、会えないけど大丈夫だよという
等身大の気持ちが伝わってきたように感じました。

多分この朗読の中でもMAYA MAXXさんの
本物のことだけしかしたくないという気持ちがあるのではないかと思いました。
本物のことだけというのは簡単にはできないことだと思います。
どうしても私たちは他人によく見られたくて良い結果が欲しくて、
格好つけてしまったり誤魔化してしまったりすることが多いです。

しかし、本物でしか伝えられないものや価値があるのだろうと
制作日記や朗読を見ていて感じました。
自分にとっての本物とは何だろうと探求していこうと思います」

「『こんな時期だから』と諦めるのではなく、
現実を受け止めた上で今できることや今だからやりたいことが見つかった人は
積極的に行動するべきだなと、講義をきいていて思いました。
なので私も、こんな時代でも自分の足で立てるように、自分の道を見つけていきます」

朝晩は冷え込むが、草木の緑は一層濃くなり、北海道もようやく春本番。

朝晩は冷え込むが、草木の緑は一層濃くなり、北海道もようやく春本番。

最初の質問時にあったネガティブな言葉はほとんど見当たらなかった。
そして、感想文を読んでいて、もしかしたら昨年よりも学生のみなさんと、
なにかもっと心が通い合ったような、そんな気持ちになった。

これは、手書きしたプロフィールや
ひとりひとりへの回答を用意したことかもしれないし、
コロナ禍という特殊な状況のなかで、誰もが自分の足下を
見直す時期にさしかかっていたからかもしれない。

そして……。
学生のみなさんから多くの「ありがとう」という言葉を受け取って、
いちばん救われたのは自分かもしれないと思った。

講義の内容は、自分が行動を起こしたことを抽出して話したわけだが、
24時間の暮らしは平穏なわけではないし、ネガティブな気持ちに包まれることもある。
そんななかでも、少しでも未来の希望へとつながる話題が提供できたのであれば、
わたしもうれしい。

「みなさん、わたしのほうこそありがとうございます!」

きっとこの記事も読んでくれているはずなので、
あらためてお礼の言葉を届けたいと思います。

Feature  これまでの注目&特集記事

    Tags  この記事のタグ