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西粟倉村のローカルベンチャー。
〈村楽エナジー〉のゲストハウスと
バイオマスエネルギー供給

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.027

posted:2016.9.29   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

ローカルベンチャー発祥の地、西粟倉村での取り組み

今年の6月から、北海道岩見沢の美流渡(みると)と朝日地区で、
東部丘陵地域未来会議というトークイベントが行われている。
東部丘陵地域とは、美流渡や朝日、毛陽、万字(まんじ)、宮村など、
岩見沢の山間部に近い地域全体のことを指す。
いずれも過疎化の問題を抱えており、これらの地域を
いかに活性化させるかが課題となっている。

わたしたち家族は、いま美流渡地区の空き家を改装し、
ゲストハウスのような場所をつくろうと考えており、
地域の未来について、住民の皆さんとともに考えていきたいと思っているところだ。
そのため、この会議の企画のサポートをしており、コロカルの連載でも
イベント第1回からレポートを掲載してきている。

その第4回目が9月9日に、岩見沢市の朝日コミュニティ交流センターで開催となった。
トークのゲストは、岡山県西粟倉村で
〈村楽エナジー〉という会社の代表を務める井筒耕平さん。
西粟倉村は人口約1500人の小さな村だが、近年、移住者が増え、
次々と起業家が生まれ、地域活性のモデルとして、全国から注目を集めている場所だ。
この村で井筒さんは、樹木などの有機物を原料にした
バイオマスによるエネルギーの供給やゲストハウスの経営、
コンサルティングと多彩な仕事を行っており、これらの経験を踏まえて、
「ローカルベンチャーでちゃんと稼ぐ」をテーマに今回は話をうかがうことにした。

井筒耕平さんの出身は愛知県。専門は再生可能エネルギーと林業に関する実践および調査研究。岡山に移住したのは11年前。現在、西粟倉村で村楽エナジーという会社を運営する。

西粟倉村に移住する以前、近隣の上山集楽で地域おこし協力隊として活動していた井筒さん。ここで林業を自ら体験。獣害対策として、猟師が仕留めた鹿を自らさばくこともあったという。

トークのはじまりは井筒さんの仕事内容から。
井筒さんは大学で環境学を学んだ後、エネルギー事業のコンサルタントを手がけており、
バイオマスエネルギーが専門だった。
自身の知識や経験を生かして、西粟倉村の日帰り温泉施設に薪ボイラーを設置。
2015年からエネルギー供給をスタートさせた。燃料となる薪は、
住民やこの地域の林業の経営母体となっている役場から買い取っている。

西粟倉村は、村の95%を森林が占め、そのうち86%が人工林。
スギやヒノキが植林されていたことから、〈百年の森林構想〉を掲げ、
林業を軸とした地域再生に乗り出している。
薪は地域に豊富にあり、井筒さんはC材と呼ばれる、
家具や建材では使用できない木材を買い取っている。
「C材はパルプなどの原料になりますが、外に売るととても安くなってしまうので、
地域の中で使うことを考えました。
C材を少し高めの値段で買って、林業を支えることができたらと」

木材の購入によって地域を潤すだけでなく、エネルギーを自分たちでつくり出すことは、
地域外へのお金の流出を抑制することにもつながるという。
井筒さんの調べによると、エネルギーに対して人々が支払う金額は、
1500人の村で数億円であり、村としては巨額になるという。

住民や役場から買い取ったC材をカットして薪にする。

カットした薪をボイラーのある施設に運ぶ。

新型の薪ボイラー。ボイラーには3〜5時間に1回、薪を投入する必要があるという。バイオマスエネルギーによるメリットは多数あるが、人件費がかかり、なかなか利益があがらないという課題もある。

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井筒さんのゲストハウスのコンセプトとは?

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「ここにしかない」、そんな特徴のあるゲストハウスをつくる

バイオマスによるエネルギー供給とともに、西粟倉村で井筒さんが運営しているのが
〈あわくら温泉 元湯〉というゲストハウスだ。
そのコンセプトは、子どもの笑顔が真ん中にある大きな「家」。
ゲストハウスの中には子どもが騒ぐことを歓迎しない場所もあるが、
そうした気兼ねがないことが話題となり、休日には多くの家族連れでにぎわっている。

また、カフェ&レストランもあり、地域の人々の交流の場にもなっているそうだ。
「地元で起業した人たちがやってきて、
ここでお酒を飲んでいるうちに新しいアイデアが生まれることも。
先日は、東京に西粟倉村の企業が集う
事務所をつくろうという話が持ち上がっていました」

ゲストハウスの様子。みんなで集まることのできるカフェ&スペースやキッズスペースもある。

天然温泉もあり、日帰り入浴も可能。お風呂はオモチャを浮かべて遊ぶこともできる。

平日には外国人観光客が多く訪ねるという。カフェ&レストランスペースに集う地元住民と宿泊者の交流も生まれる。

井筒さんは、このほかコンサルティング業務も行っている。
その範囲は全国におよび、北海道のまちのローカルベンチャー育成に関わるなど
多岐にわたる。
「会社には方向性がまったくないんです(笑)。
あわくら温泉の運営を始めたのも、ここが3年間空いていて、
誰もやらなかったので、それなら自分がやろうと思ったからでした。
僕は、分野や領域にこだわらず、出会いから生まれた新しい世界に、
どんどん挑戦していきたいと思っています」

ある意味無計画にも思えるが、そこには井筒さんの信念がある。
それは、右肩上がりに成長する経済が終わり、先が読めない時代にあって、
状況の変化にしなやかに対応し、その中でベストを尽くすというものだ。
「それが、これからの時代に求められる会社や地域のあり方なのではないでしょうか?」

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まだある、西粟倉村のローカルベンチャー

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ニーズがあるから起業するのではなく、続けるなかでニーズが生まれる

いま西粟倉村では、若手がさまざまな会社や店舗を立ち上げている。
地域にあるものを上手に発見して、新たな価値観を持ったビジネスをつくる、
そんな「ローカルベンチャー」発祥の地として、
西粟倉村はこれまで多数のメディアでも紹介され、注目を集めてきた。

〈百年の森林構想〉に合わせ、住民と役場が出資してつくった
西粟倉・森の学校〉をはじめとする、
家具や木工を手がける会社が立ち上がっただけでなく、
油が好きな女性が始めた食用油の製造や販売を行う〈ablabo.〉や
帽子屋〈UKIYO〉、酒屋で出張日本酒バーを各地で開催する〈酒うらら〉など、
ジャンルは本当にさまざまで、こうした会社や店舗の7割が移住者によるものという。

また井筒さんは、西粟倉・森の学校の創業者であり
ローカルベンチャー育成事業を手がける牧大介さんについてもトークで触れ、
牧さんの考えでは、10人以上または1億円の企業が10社揃えば、
地域の経済は円滑になり、売り上げ規模は小さくとも、
村の未来に大きな影響を見込める事業を大切にしたいと考えているそうだ。

「油や帽子などは、地域で求められていたものかというと、そうではないと思います。
けれど続けているうちに求められるようになってくる。
もうひとつ大切なのは、西粟倉村の企業やお店の多くは、
村内ではなく外を相手にしようとしているところです」

過疎地に会社やお店をつくろうとすると、必ずといっていいほど
「そんな場所につくっても儲からないからやめたほうがいい」と意見する人がいる。
しかし、井筒さんの話を聞いていると、大切なのは地域の人口ではないと思えてくる。
「例えば僕がゲストハウスをつくるときに、子どもを中心とするという、
ほかとは違う新しさを考えました。プロジェクトを行うときは、
常に何か新しいことが含まれないと意味がないと思っています」

もうひとつ、井筒さんがローカルベンチャーを立ち上げるときに
重要だと考えていたのは、ディレクターの存在だ。
「地方の取り組みでよくあるのは、計画しお金を出資するプロデューサーと、
それを動かすオペレーター的存在の人はいても、
その間に立って具体的な方針を決めるディレクターがいないという状況です」

そのため井筒さんはプロジェクトを立ち上げるときには、
必ずディレクター的立場の人間を配置するようにしており、
バイオマスエネルギー事業については、専門分野である井筒さん本人が、
ゲストハウスについては、デザインなどのセンスが高い奥さんが
そこを担当しているそうだ。

あわくら温泉のロゴマークは、地元でブランディングやグラフィックデザインを行う〈nottuo〉が手がけた。洗練されたデザインも重要。

あわくら温泉では、地元食材にこだわったメニューを提供。

井筒さんの家族。ふたりの子どもはあわくら温泉でのびのび育っている。

井筒さんのこうした話は、美流渡をはじめとする東部丘陵地域の、
いままさに目の前にある課題を浮き彫りにするようなものだった。
東部丘陵地域未来会議では、これまでゲストの話だけでなく、
あったらいいと思う施設や会社、地域独自のものづくりについて、
参加者自らが話し合う機会を設けてきた。
そこで挙がったアイデアの中には具体的なものも多かったが、
それをディレクションして実現化させる人材がいないために、
企画が宙に浮いた状態になってしまっているのだ。

トークの前に東部丘陵地域を見て回った井筒さんは、
「ここには空いている資産が山ほどある。チャンスだらけ」と思ったというが、
まだまだその資産を生かしきれていないのが現状だ。

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美流渡で改装中の空き家を…

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もう動くしかない、井筒さんに背中を押されて

トークのあとに、参加者が輪になってディスカッションが行われ、
そのときこの地域に、あわくら温泉のカフェ&レストランのような、
住民が集える場があればという話が持ち上がった。
昨年、美流渡地区では、唯一あった飲み屋が閉店となり、
営業しているのは1軒の食堂だけ。
お茶を飲んだりお酒を酌み交わしたりできるスペースは、いまこの地にはなく、
以前から、そうした場所の必要性が語られていたのだ。

ディスカッションの様子。東部丘陵地域未来会議は、これまで美流渡地区のコミュニティセンターで行っていたが、今回は朝日地区にて開催。地域間の交流にもなった。

今回のトークに一緒に参加していたわが夫は、ディスカッションの間、
ずっと黙っていたのだが、この話を聞いたとき、
「大丈夫、来年には俺が場所をつくってやる」と、突然つぶやいた。
おそらく井筒さんも会場の人も、なんのことかわからなかっただろうが、
わたしたちが美流渡で改装中の空き家を、そうした場所にするという、
彼の決意表明だった。

この連載をずっと読んでくれている人にはわかるかもしれないが、
彼の発言は大きな心境の変化を物語っている。
これまで口を開けば、わざわざ駅に近い市街地の家から、
なぜ美流渡の山奥に移住しなければならないのかとわたしに文句を言い、
しぶしぶ改装をしている様子だった。

そんな夫の積極的な発言には正直驚いたが、そういう気持ちになるのもうなずける。
美流渡は、きっと誰かが何か事を起こせば、確実に変わっていくはず、
そんな風に思える場所だ。
そして今回、井筒さんのトークを聞いたことで、わたしたち夫婦は
ドンと背中を押されたような気持ちになっていたのだった。

「いつも考えているのは、人生は1回きりだということ。
だからいまを精一杯生きようと思っています。
そしてプロジェクトについては、何が新しいのかを考え、すぐにやる。
とにかくやる。また人との出会いなど偶然性も大事にしています」

トークの最後に井筒さんが語った、いつも胸に留めているという
この言葉には重みがあった。
わたしたち夫婦も、そしておそらく美流渡を含む東部丘陵地域の人々にも、
まさにこの言葉のように、いま動くことが何より大切なのだ。

美流渡の空き家は、まだ内壁を壊している段階。夫ひとりで改装をしているので、なかなか劇的には進まないのが現状だが、なんとか来年には……。

information

map

あわくら温泉 元湯

住所:岡山県英田郡西粟倉村影石2050

TEL:0868-79-2129

ゲストハウス

宿泊料金:相部屋1名3240円、個室1名1室6480円〜

カフェ&レストラン

営業時間:15:00〜22:00、土日祝 10:00〜22:00(L.O フード20:30、ドリンク21:30)

定休日:水曜日

日帰り温泉

営業時間:15:00~22:00、土日祝 10:00~22:00(最終受付21:30)

定休日:水曜日

http://motoyu.asia/

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