連載
posted:2014.9.23 from:栃木県日光市 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
イラストレーターとして活躍する平尾香が、各地の粋な飲み屋をご紹介。
旅して飲んで、おいしいお酒と肴と人に出会います。
text & illustration
kao.ri hirao
平尾 香
ひらお・かおり●イラストレーター。神戸生まれ、独自の個性を発揮した作風で、世界的ベストセラー「アルケミスト」を始めとする書籍のカバーや、雑誌の挿絵、広告などで活躍。個展も多数開催。現在は、逗子の小山にアトリエを構え、本人の取材やエッセイなど活躍の幅は広い。著書本に「たちのみ散歩」(情報センター出版局)「ソバのみ散歩」(エイ出版社)
http://www.kao-hirao.com/
https://www.facebook.com/Kao.0408.hirao
「高速道路の入り口までになかったら、あきらめよう」
日光江戸村で撮影のお手伝いをしていたお仕事の帰り道。
数日間のロケ弁当しか口にしていなかった3人が乗った車の中での会話。
せっかく遠いところに来たのだから、最後においしいものでも食べて帰ろうと。
飲食店の閉店時間が迫る中、国道を走る車は、
高速道路の入り口までもうすぐのところで、ぼんやり明かりが灯った看板を発見!
「ニュー和加奈」と書かれたお店は、ちょうちんもぶら下がって、居酒屋の佇まい。
車から駆け下り、縄のれんをくぐって、
店主に尋ねると、カウンターなら大丈夫ということ。
どうやら、ひとりできりもりしている様子。
この店主の顔を見て、二言三言のやりとりで、
ここはいい店なんだと確信した私は、
ええ感じよ、と車を停めてから友人たちと再び入店。
店内は、カウンターのほかはお座敷。けっこう広く、
連ねた机の上には、宴の後の皿やコップが置かれたまま。
団体客が帰った後の店内は、がらんとしています。
座敷の端っこで地元の草野球の(草野球というのは私の妄想ですが……)
メンバー3人がビールと酎ハイ片手に飲み会。
そのお客さんの注文の揚げ物を揚げる音が店中に響いています。
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運転手じゃないふたりの前に生ビールがようやく置かれて、
ウーロン茶とで、お疲れさまの乾杯。
どちらにするか、好みも聞いてくれたお通しは、鰹と鮪。
鮪にはとろろがかかり、鰹にはたまねぎ、ニンニク、ねぎに芽じそが盛られて
彩りも美しい。黒い札に白い文字で書かれたメニューの中から、選んで注文。
「はいはい」と店主が厨房でつくってくれる。
時間がゆっくりと流れる。
店内をながめながら料理を待つのが、なんとも心地よく、
座敷の振り子時計のリズムと一緒にいつの時代かどこの場所やら気が遠くなりそう。
蒸し上がった茶碗蒸し。あっついから気をつけて~と蓋をあけて、はふはふと。
名物の大きな唐揚げ、ナス焼き、冷や奴などをのんびりといただく。
シメの焼うどんまでたのんで満腹。
店先の窓に美しい猫が一匹、まねき猫。
かわいい~と言うと2階から子猫をつれてきてくれた店主のくしゃっとした笑顔。
猫の名前を教えてくれる。最後は、外までお見送りをしてくれた。
知らないまちの知らない居酒屋。なんだか切ない気分になりながら、
そのまちで唯一開いてる店の明かりを後にしたのでした。
Information
ニュー和加奈
住所:栃木県日光市今市1492
TEL:0288-22-2488
営業時間:17:00〜23:00
定休日:日曜休
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