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マチスタ・マジック

マチスタ・ラプソディー
vol.040

posted:2013.3.7   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

マミちゃんとのコーヒー教室。

毎朝そうするように、店を出てすぐの歩道に看板を出そうとして、ふと気づいた。
いつも看板を置くところ、敷き詰めた歩道のブロックのわずかな隙間から
青いものが出ていた。同じ場所のはずなのに、昨日はまったく気づかなかった。
ぎざぎざ尖った葉はどうやらタンポポのそれのようである。
ここ二、三日、めっきり陽が暖かくなったと思ったら、こんなところにも春があった。

3月に入って最初の週末。のーちゃんが東京の友人の結婚式で上京するというので、
土曜日と日曜日の2日間をひとりで店番した。
年が明けて以来、日曜日は隔週で店番しているものの
土曜日との連チャンは経験がない。
ぼくにとっては初めてのフルマラソンみたいなものだった。
案の定、前半のハーフで結構なスタミナをもっていかれ、
後半のハーフで完全に燃え尽きた。
おかげで日曜日の閉店後のレジ閉めでは計算がまったく合わなかった。
それならそれでそこにある現金を計算し、
ひょいひょいと算数すればいいことなんだけど、
搾りカスのようになった脳みそにはそれさえ荷が重すぎた。
自分がなにをどう計算しているのかさっぱりわからなくなった。
挙げ句、「今日はもう無理!」とあきらめて、
帳簿にはなにも書き込まないまま店を出たのだった
(翌朝の暗いうちに店に行って帳簿をつけました、そのあたり経営者ですから)。

そんなこんなで、今年に入ってからのいろんな無理がたたったのだと思う。
しばらくおさまっていた、
首から右肩にかけての痛みと右腕のしびれがいっぺんに再発した。
実はこれ、昨年の梅雨に出た症状で、
以来年末にかけて週に1〜2回、児島の鍼灸院に通い続けていた。
でも年が明けてからは、平日の慌ただしさにかまけて一度も院には行っていなかった。
「久しぶり!」
火曜日の夕方、2か月ぶりになじみの鍼灸院を訪れた。
カウンターの向こうにいたのは先生の姪っ子のマミちゃん。
いつもは午前中に院を手伝っていて、
午後からは柔道整復師の資格をとるべく岡山市内の専門学校に通っている。
「あれ? 今日、学校は?」
「春休みなんです」
「髪型が変わったな、パーマあてとるが!」
「はい、春休みですから」
彼女は相変わらず滑舌がよくて、笑顔は明るく可愛いらしい。
マミちゃんとは、顔を合わすとあらましこんなジャブ程度のやりとりがあるが、
お互いおしゃべりなタイプじゃないので、会話らしい会話はしたことがない。
しかし、その日は珍しく、電気を通す施術を受けている間に彼女から話しかけてきた。
「赤星さんのお店では、コーヒー豆を売ってますか?」
「もちろん売ってるよ」
「じゃあ、今度お店に行きます」
「持って帰ってきてあげるよ。マミちゃん、コーヒーが好きなんだ」
「いえ、わたしは飲めないんです。母がコーヒー大好きなので、
誕生日にコーヒー豆をプレゼントしようと思って」
あまりにいい話なので、また例によって調子のいいことをついつい口走ってしまう。
「それだったら、お母さんの目の前でコーヒーを淹れてあげたらいいよ。
美味しいコーヒーの淹れ方、いつでも教えてあげるから」
この時点での、このコーヒー教室の実現の可能性は1、2割といったところだろうか。
大抵は「じゃあ、いつかお願いします!」的な会話のノリだけで終わり、
結局なにもなかったみたいな、それがむしろ普通。
ところが今回の話は意外な展開を見せる。
「え、本当ですか? いつ教えてもらえますか?」
「うん? ああ、いつでもいいよ。平日の午後はだいたい事務所にいるから」
「じゃあ、水曜日はどうですか?」
「水曜日って……ええっと、明日のことかな?」
「はい、明日です。明日の午後に行っていいですか?」
かくして早速の翌日にコーヒー教室が決定。
その流れは谷川浩司永世名人の光速の寄せ、
最短・最速の手筋で鮮やかに詰まされた将棋を見るようだった。

はたしてマミちゃんは自転車に乗ってやってきた。
若者に流行のショート丈のダッフルコートに編み上げの革のブーツといういでたちで。
1時間ほど、ぼくたちは入れかわり立ちかわりでコーヒーを淹れた。
使用する豆はその朝マチスタから買ってきたマチスタブレンドである。
そして、早速マチスタのマジックが炸裂した! 
「コーヒーは飲めない」と言っていた彼女が、
なんと砂糖とミルクなしのブラックの状態でも「おいしい!」と
口にするまでになったのだった(タイアップ広告の記事っぽいな)。
個人教授がひととおり終わって、
事務所の半オープンエア部分に置いたテーブルで、
マミちゃんとヒトミちゃんと、
それにふらりとやってきた某企業の総務部長も加わっての
コーヒーブレイクとあいなった。
妙な光景だった。10代の女の子にスーツを着たオジさんという、
我が社ではあまり見ない類の組み合わせ。
しかも総務部長の足もと、靴に触れんばかりのところでサブが昼寝している。
それにしても気持ちのいい午後だった。
風はなく、静かで、ぼんやりと白んだ陽射しに暖かみがある。
マミちゃんとコーヒーのおかげで、思いがけずおとずれた春の休息タイム————。
ちなみにマミちゃんとのコーヒー教室は来週の水曜日に第2回の開催が決定している。

マチスタにも春の陽が降り注ぐ。あんまり気持ちいいので、近いうち、日曜日の午後あたりにテーブルまで出してのオープン席をもうけようと企画している。まさにパリのカフェみたいに。もしもポリスが来たら、「店内を掃除してました」という言い訳は通用するでしょうか?

Shop Information

map

マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 火〜金 9:00 ~ 19:00 土・日 11:00 〜 18:00(月曜定休)

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