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空白の時間帯

マチスタ・ラプソディー
vol.039

posted:2013.2.23  from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

マチスタに来るのはお客さんだけではない。

朝、お客さんがやってくる気配さえもない空白の時間帯がある。
そんなときでも、外から丸見えの、ガラスを多用したつくりであるからして、
まったく油断ならないのがマチスタである。
実際、信号待ちのバスの乗客や通りを歩く人から
じっと見られているということがよくあるので、
ミルを掃除したり作業台を磨いてみたり、
あるいは什器の配置を変えるなどして、
時間をもてあましていると見られないように気を遣っている。
でも、ふりをするのにもやるべきことはやり尽くして、
ふと気づいたら、入り口のドアのところに立ってぼんやり外を眺めていた、
ということが何度かあった。
そして、実はここが肝心のところなんだけど、
ぼくがドアのところで外を眺めていると、
きまって、電車通りを挟んでちょうど向かいにある理髪店の主人が、
その入り口のところでぼうと立って通りを、
つまりこっちの方を眺めているのだ。まるでぼくを鏡で映しているかのごとく。
その姿はいつ見ても「暇をもてあましています」という感じで、
ぼくは我が身を顧みていそいそと厨房に戻る。
「お互い、暇だね」みたいな、お客のなさを共通のネタに
変な仲間意識をもたれるのもイヤだし。
ちなみに、その理髪店の主人の立っている様は、
身につけている白衣や古びた木枠のドア、
それに色落ちした水色のストライプの装飾テントの雰囲気も手伝って、
かなりホラーな感じでもある。

さて、テントで思い出した話をひとつ。1週間ほど前のことだ。
30代と20代とおぼしき、作業着を着た男ふたり組が店に入って来た。
いや、「入って来た」というのは正確性に欠く。
ドアを開けたその場所で、30代の男の方が目だけで
「わたしたち、お客じゃありません、ちょっといいですか?」
と器用に訴えかけて来た。
そんな手でくるならと、ぼくも目だけで「さて、なんでしょう?」と返し、
彼らの方に近づいていった。
ふたりは委託を受けているとして、国の行政機関を口にした。
「この入り口のところにあるテントですが、使用されてますか?」
マチスタのエントランスには開閉式のテントがある。
色は鮮やかなグリーンで、収納していても結構目立つ。
「雨が降った日だけね、あんまり出すと店のなかが暗くなっちゃうから」
「ああ、そうですか」
細かく首を縦に振る男のそのしぐさに、若干の不安がよぎる。
そして若干の不安は、次の瞬間、夏の雨雲のように厚さを増した。
男が差し出したファイルに料金表のようなものを見たのだった。
つまりはこういうことだった。
テントが歩道にせり出した部分の料金を払いなさい、と。
これ、法律で決められているんですよ、と。
————吐き気がするぐらいげんなりだった。
ぼくは少々ふてくされた態度で「じゃあ、いくら払えばいいんですか?」と聞いた。
「一平方メートルで6000円ですから、おたくの場合は2万1000円になります。
これ、年間使用料ですからね」
怒りやら悲しさやら情けなさやら、
もういろんな感情がないまぜになって言葉をほとばしらせた。
「無理だって! お金全然ないんだから、この店ずっと赤字なんだから! 
もう雨が降ってもテント出さない! だいたいこのテント、壊れてるし、
結構前から壊れてたし!」
壊れているのはぼくの頭だと思われたかもしれない。
さらには、彼らは身の危険を感じたのだと思う。
粘る姿勢を見せながらも及び腰で、
結局、「不動産を解約する際に撤去する」と約束することで身を引いてくれた。
ぼくは目前の危機を回避した喜びから、
帰ろうとするふたりを引き止めるようにして言った。
「コーヒー飲んでいってよ。オレ、おごるからさ」
「いや、いいです、いいです。そういうの賄賂になりますから」
言いながら彼らは通りにフェイドアウトして行った。
今回、完全にぼくが撃退したカタチになったわけだが、
彼らはおおむね善い人だった。もしもここに書いたことで、
上司に怒られるとか、始末書を書かされるとか、
彼らの身になんらかの不幸が起こったとしても、ぼくの本意ではない。

まあ、この手のお客じゃない人も来るし、お客だとしてもいろんな人がやってくる。
この間なんか、高校生がひとりでやってきた。不良だなんてとんでもない。
ごくごく真面目そうな、普通の男の子である。
彼はもじもじとした調子でブレンドとホットドッグを注文した。
そして恥ずかしそうな、少年らしい笑みを浮かべてぼそり、ぼくに言った。
「『マチスタ・ラプソディー』、読んでます」
「マ、マジでええっ!?」
「ハイ」
「面白い?」
「ハイ、面白いです」
ぼくはうまそうにホットドッグにかじりつく彼の背に、
聞こうかどうしようかと迷っていた質問を唐突にぶつけた。
「あのさ、オレみたいな大人、どう思う?」
彼はこちらを向いて、またあの恥ずかしそうな笑みを浮かべて言った。
「いいと思います」
高校生に肯定された。それが自分でも意外なほど、嬉しかった。

作業台の上をちょっとずつ片づけていたら、いまやごらんのようにスッキリ。ずいぶん磨きやすくなりました。といっても、まだまだモノはあります、作業台ですから。

オフィスの倉庫のなかにさらに倉庫を作ってみた。入り口の暖簾は、マチスタの新しい朝の常連客、草木染め作家の浅山クンが制作。代金はマチスタのコーヒーチケットで支払った。和風な感じに意外性があってよし。倉庫の施工は、これもマチスタの新しい朝の常連、田中さんによるもの。

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 火〜金 9:00 ~ 19:00 土・日 11:00 〜 18:00(月曜定休)

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