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避けられない話

マチスタ・ラプソディー
vol.023

posted:2012.7.12   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

「我慢してしのぐ」、夏のマチスタ。

結局、避けられない類の話なのだ。
それを避けて、どうでもいい話というわけでもないんだけど、
周辺の小さなエピソードなんかを書き連ねようとすると、
何を書いても薄っぺらなように思えてきて、書いては消し、書いては消しの繰り返し。
ぼくのまわりの人も、この『マチスタ・ラプソディー』を読んでくれている人も、
みんなうすうす思っているはずなのだ。
つまりは、マチスタはちゃんとやっていけているのか、という話である。

最初の1か月の収支は以前に詳しく報告した。
約5万円の赤字、これが4月の成績だった。
問題はその後だ。税理士の島津さんの産休をいいことに、
5月の経理処理を怠った(島津さん、第二子のご出産おめでとう!)。
さすがに2か月も無視することはできないので、7月に入ってすぐにマチスタに行き、
久しく見なかった出納帳の5月と6月のページをコピーした。
その場ではあえて数字を見ないようにし、帰りの車の中、信号待ちをしている間に、
トートバッグに無造作に突っ込んでいたコピーを初めて手にとった。
ずらりと並んだ売り上げの数字。コイケさんが月の終わりに収支をまとめてくれていた。
そこにあった数字はだいたい予想していた通りだった。
漠然とだけど、売り上げがよくないのは電話で聞いていたのだ。
でも、それは5月の話。6月の売り上げはというと—————。
(なるほど、落ちるときはそこまで落ちるわけだ)
6月の売り上げは4月に比べて30パーセント以上の減。
赤字は20万円に届くかもしれない。
言うほどたいした数字じゃないと思うかもしれないけど、
我が社アジアンビーハイブにとっての20万円は、
トヨタにとっての2000億円に匹敵する数字。手加減抜きのデカさなのである。

出納帳のコピーを持ち帰ったその日、この夏と秋の決まっている仕事を書き出した。
さらに、それに対して支払われるであろう報酬の概算を書き出し、
毎月20万円の赤字にどれだけ耐えられるかを計算してみた。
年中、貧血気味の当社にしては意外や意外、
この秋をなんとかしのげそうだということがわかった。
あれだ、例の納期が大幅に遅れてしまった冊子制作の仕事
(やっと今週に全ページを校了! 結局納期は4か月遅れになりました)。
あの報酬が、半分は前借りでなくなっているとはいえ、
我が社にとっての結構な「恵みの雨」になるのだ。
だったら初志貫徹、即座にそう思った。
「こうしたらいいのでは?」という大小さまざまな改革案が耳に届いているんだけど、
コイケさんの淹れるコーヒーで売る「まちのコーヒースタンド」という
最初のコンセプトを
逸脱するようなことはしたくない。
いまは我慢だ。基本は武田信玄、動かぬこと山のごとし。
ぼくの右脳は、泰然自若として、じっくりとかまえるのが最善手であると判断した次第だ。

7月7日土曜日。
ホットドッグとミートボールサンドに使用するパンの仕上がりの時間に合わせて
「どんぐりコロコロ」に行った。
(まったく異なる2種の天然酵母コッペパンを特注で焼いてもらっています)
パンをピックアップし、その足でマチスタへ。
夕方4時過ぎ。マチスタの前で車を一時停車すると、
店から3人の30代の女性が出てくるのが見えた。
店を出る直前まで楽しそうに話していたようで、3人ともまだ笑顔のままだった。
「マチスタ0メートルだって、可愛いね!」
ひとりが看板を見て笑い、それを合図にでもしたかのように、
3人が携帯電話を取り出して店の写真を撮り始めた。
ぼくは彼女たちが去るのを待って、パンの入った箱を手に店に入った。
カウンターの向こうにはのーちゃんがいた。
声をかけるのも気がひけるぐらい忙しそうだった。
カウンターの反対側には、
テイクアウトのゆず茶シェイクを待っている若い女性がひとり。
もうひとりの男性はテーブルで文庫本を読みながら
テイクアウトのカフェオレができるのを待っていた。
彼らが帰る前に次のお客さんが現れ、
さらに次のお客さんがテイクアウトをオーダーした。
その直後にやって来た、
見たことがないような珍しいデザインの眼鏡をかけた若い男性客は、
焼き菓子を3つほど買い、ホットドッグとアイスのカフェオレをテイクアウトした。
そして、やっと店内からお客さんがひけた。
この1時間近く、のーちゃんはまさに息つく暇もなかった。
「よっ、おつかれさま!」
ぼくが言うと、のーちゃんは顔をほころばせた。
「もうホントに忙しくって!」
長くマチスタに行ってなかったせいもあるんだけど、
久々にのーちゃんの笑顔を見たような気がした。
そして、それはすごく良い笑顔で、本当に輝いて見えた。
それ以上、マチスタにいてなにがあったわけでもないんだけど、
その日ぼくは「我慢してしのぐ」という今後の作戦の基本が間違っていないと感じた。
一時的にお客さんがいっぱい入っていたからというのではないのだ。
なんと言ったらいいか、まあ勘みたいなものだ。
勘だから外れることはままあるが、当たることだってある。

4月からアジアンビーハイブのスタッフとしていろいろと手伝ってくれていたニシちゃんが児島のアパレルメーカーに就職。まっとうな仕事に就けてよかった。でも、ヒトミちゃんとのこんな光景も見られなくなって少し寂しいです。

梅雨にもかかわらず、夏限定のマチスタスペシャル「ゆず茶シェイク」が絶好調! ふたりにひとりはオーダーする人気ぶり。お盆明けには第二弾をスタートさせるべく、新メニューの開発に取り組んでいます。

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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