連載
posted:2012.7.4 from:岡山県岡山市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!?
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。
writer's profile
Yutaka Akahoshi
赤星 豊
あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。
児島に世界で唯一無二の作家がいる。
ぼくの近しい友人でもあるカワベマサヒロ。
作っているのは主に指輪なのだが、問題はその元となるマテリアル。
彼はステンレスのナットを削って指輪を作っているのである。
しかも機械の類は一切使用しない。
膨大な種類のヤスリを使い、ひたすら手で削って磨いてを繰り返す。
驚くべきはそのクオリティだ。
六角形の内側のねじが切ってある部分は微かにアールがつけられていて、
ステンレスという材質ともあいまって、指に吸いつくようにぴたりとおさまる。
デザインはまこと繊細。
インダストリアルな匂いを意図的に残しているものもあるにはあるが、
多くは曲線(または曲面?)が立体的かつ複雑に組み合わさっている。
しかも彼はそれを図面に描くことはせず、頭のなかで組み立てて具現化する。
そのクリエイティビティたるや、まさに神がかっているとしか言いようがない。
さらに、少ない紙幅を割いても彼の風貌について紹介したい。
頭はスキンヘッド、あごヒゲは常に20センチぐらい伸ばしてある。
この風貌でEXILEみたいなミラーのサングラスをかけ、
30年も前のスズキ・フロンテ(超ミニな軽四です)に乗って
児島のまちをちょろちょろしている。
こうやって客観的に特徴を記すとただの気持ち悪いヤツで、
現にぼくなんかは気持ち悪いと思ったりすることもあるんだけど、
若い女子のウケは最高にいい。まあ、ベースは男前である。
強いて言えば浅野忠信、目つきなんかよく似ているし。
でも、それだけじゃない。針の穴ほどのストライクゾーンしかもたないヒトミちゃんが、
ルックスも含めて「理想の男」とするぐらいだから、相当の“オトコ”なのである。
彼と知り合って、まだ間もない頃だったと思う。
「赤星さん、この間、東京に行ってきました!」
子どものような、嬉しそうな顔でそう言った。
カワベくんはその風貌のわりに基本は子どもっぽい男だったりする。
「ほう、どこに行ったの?」
「はい、東京ディズニーランドに」
「……それ、東京じゃないけん」
ちょうどその頃、逼迫した懐事情により、
東京のマンションを引き払うかどうかを考えていた時期だった。
でも、簡単には決断できなかった。
前にも書いたけど、ぼくの人生の大半が東京にあった。
さらにクリエイターとしては、東京から完全に離れてしまうことに、
漠然としてはいるが大きな不安があった。
正直、表はトンがっていても、
内側は東京に未練たらたらの情けない状況にあったのだった。
まさにそんな折の、この脳天気な「ディズニーランドに行ってきました」報告。
(この男には東京なんてはなからどうでもいいのだ)
そう思うと、それまでの自分が情けないやら気恥ずかしいやらで、
なんだかバカらしくなった。同時に、「赤星さん、裸一貫で勝負できますか?」
とヤツからむき身の刃のように鋭く迫られたようにも感じた。
後から思うとあのときだ、ぼくが本当の意味でローカルから出発したのは。
前に紹介したアレンジドリンク、コーヒースカッシュが好評だ。
さらに、7月1日から新しいメニューが登場した。
定番の「マチスタスペシャル」の夏限定バーション第一弾、ゆず茶シェイクである。
児島で缶詰状態になって久しい経営者のこのぼくが、
自らカメラをもってマチスタに行ったのが6月30日の土曜日
(まだ缶詰状態から抜けきれておりません)。
午前中に写真撮影を終え、昼過ぎには児島に戻ってヒトミちゃんにデータを渡した。
そして夕方にはデザインを上げてA3用紙に出力。
あらかじめ用意していたA3のフレームに入れて、
翌日曜日のお昼前にマチスタに納めた。
まさにミッション・インポッシブルばりのスケジュールをこなしてのポップの納品。
月曜日の今日は、さらにA2サイズのポスターをリデザイン。
今週後半には、店頭にはり出してのポスター展開も目論んでいる。
今回のゆず茶シェイクのポップの制作で、
これがあるべき姿のひとつだと感じた。
つまり、マチスタの母体であるアジアンビーハイブが、
その本業での力を生かして、PR展開に積極的に参加するというものだ。
以前から、ロゴのデザインやら、看板やらシールやらコースターやら、
やることはやっていたのだ。
でも、今回のゆず茶シェイクのPR展開がこれまでと違ったのは、
「どうやったら新商品が売れるか?」を
ヒトミちゃんが主体的に考えたことだった(デザインも100パーセント彼女です)。
どっちかというと、傍観者のような態度もあったヒトミちゃんも、
実はマチスタのスタッフでもあるという意識が、
今後さらに新しい展開をもたらしてくれるかもしれない。
と、都合のいいことを願いながら、
「あともう少しなんよ!」といまだ児島にはりついて叫び続けている今日この頃……。
Shop Information
マチスタ・コーヒー
住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00
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