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銀行からの融資、その後–––––

マチスタ・ラプソディー
vol.019

posted:2012.6.13   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

おとながおとなに叱られたときのこと。

遅れている仕事がある。その遅れ方が半端じゃない。
4月下旬納品の予定で進めていた冊子の制作が、
6月に入った今もまだ納品できていない。入稿できていないページさえある。
この分だと納品は7月の終わりぐらいか。
最初は悠長に構えていた担当者も、
さすがに5月も下旬にさしかかってくると心中穏やかでない。
紳士的な態度で理性的な言葉を使ってはいるが、実質、叱られた。
さすがにこの歳で怒られることなんてまずないから、
結果、ぼくの気分は数日へこんでいた。
ちょうどそんなときだ、友人の黒住光から電話があったのは。
「なによ? こんな時間に」
時間は夜の12時を過ぎていた。
「いや、電子レンジをもらった礼でも言おうかと思って」
マチスタで新しく買った電子レンジが、
周波数が違うとかで関西以西では使えないことがわかり、
東京にいる黒住に送ってやった。
しかし、それもその電話より3週間も前のことだ。
「どしたの、なんか話したいことでもあるんじゃないの?」
「いや、話したい話があるわけじゃないが、話せといわれたら、話す話がないでもない」
そんな目眩がするような前置きをして、黒住は仕事で怒られた話を始めた。
「仕事の内容で怒られるってのはさすがにキツいな。
しかも、相手の言うことがいちいちごもっともなんだよ。
もう、ぐうの音も出ないんだよ」
情けないヤツだなあ、といつもならそんな受け答えをしていたところだ。
しかし、タイミングがタイミングである。
ぼくは黒住の愚痴めいた話に
「なるほど、そうか、そうだよな」とさも親身に聞いているような相づちを入れ、
頃合いを見て「実はオレもな」と、納期が遅れて怒られた話を始めた。
普段は黒住だろうが誰だろうが自分の話をするのは好きじゃない。
ましてや愚痴なんて言わない。でも、稀にそんな気分のときもあるのだ。
なのに、ヤツはぼくの話を遮ってこう言った。
「仕事が遅れて怒られるのはいいんだよ。オレはそんなの全然気にならない」
すっかり忘れていた。『Krash japan』をやった5年間、
連載をもたせたがためにどれだけ黒住に原稿を待たされ、気をもんだことか。
やっぱり愚痴なんて言うんじゃなかった。
ちなみに、黒住光は社会人としては疑問符もつくヤツなのだが、
書くものはやけに面白い。

以前、この連載でも報告した銀行からの融資。
担当のシマちゃんには、
「まあ絶対必要ってわけじゃないけどね」と言って借りた200万円が、
きれいさっぱりなくなった。振り込みから3か月ももたなかった。
とくに高価な買い物をしたわけでもなく、普通にマチスタの準備資金と運転資金、
それにアジアンビーハイブの運転資金の一部として消えて行った。
そして、給与やら家賃やら仕入れやら、
5月末の支払いをすべて終えたアジアンビーハイブの現在の口座残高が
6871円(6月11日時点)。
社員を複数抱える会社のそれとしてはまずありえない数字。
でも、経営者として手はうってある。
人生初、ギャラの前借りを敢行していたのである。
その前借りをお願いした先というのが、先に紹介したクライアント。
納品が遅れて怒りを買った会社なのだった。
もともと足の長い仕事なので、
制作途中での一部支払いもやぶさかではないと言われていた。
でも、途中で支払ってもらうタイミングは完全に逸している。
納品が遅れているいま前借りをお願いするのは「史上最悪のタイミング」なのである。
でも、言い出しにくいとか怒られるとか、そんなこと言っている場合じゃないのだ。
ぼくには社員に給与を払って、
アジアンビーハイブとマチスタの両方を継続させていく義務がある。
どう考えても方法はこれしかなかった。
「じゃあこれ、お願いしまーす」
トイレお借りしまーす、みたいな感じでさらりと言った。
冊子の内容の打ち合わせの最後、席を立たんとするときを見計らって請求書を出した。
これ、結構考えた末の作戦だった。
前後がまったく脈絡もないので、
担当者はなにが「じゃあ」なのかよくわからなかったと思うけど、
「ああ、これね……わかりました」と受け取ってくれた。
本当はもう少しだけやりとりがあったのだが、
まあざっくり説明するとそんな感じだ。
こうして何度目かの危機をギリギリ切り抜けることができた。
というか、早く仕事を終わらせろってことなのだけど。

コイケさんには
「会社は大丈夫、余裕があるので心配しないでください」と言ったかと思うと、
翌週には「ヤバいッス、もたないッス」みたいなことを言っていたりする。
そのあたり、経営者としては失格なんだけど、
でも、会社が心もとないなんてことはコイケさんには最初からわかっていることだと思う。
だから、いまはのーちゃんと一緒に
新しいメニューの開発に力を入れてくれているんだと思う。
そして、マチスタとして実はまた新たな展開を考えている。
それがコイケさんによるコーヒー教室だ。
まだまだ企画段階で実現にはかなり距離があるのだが、
この日曜日、試験的にやってみた。
約2時間のクラス、ぼくはかなりいい線いっていたと思っている。
コイケさん、結構向いているのだ。
そのプロト・コーヒー教室の模様は次回に報告します。

マチスタのすぐ隣にあるスーパー「柳川いちば」が5月いっぱいで閉店。重宝していただけに、イタッ! 人通りも少なくなって、イタタッ!

普段、自分のデスクよりも倉庫のテーブルを机代わりにして仕事をしてます。『コロカル』の原稿もこんなところで書いているのでした。

Shop Information

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マチスタ・コーヒー

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 月〜金 8:30 ~ 20:00 土・日 11:00 〜 18:00

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