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新生「マチスタ」の苦悩

マチスタ・ラプソディー
vol.005

posted:2012.3.7   from:岡山県岡山市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  東京での編集者生活を経て、倉敷市から世界に発信する
伝説のフリーペーパー『Krash japan』編集長をつとめた赤星 豊が、
ひょんなことから岡山市で喫茶店を営むことに!? 
カフェ「マチスタ・コーヒー」で始まる、あるローカルビジネスのストーリー。

writer's profile

Yutaka Akahoshi

赤星 豊

あかほし・ゆたか●広島県福山市生まれ。現在、倉敷在住。アジアンビーハイブ代表。フリーマガジン『Krash japan』『風と海とジーンズ。』編集長。

開店まであと 26日——————

Krash japan』の発行に関連していくつかグッズを制作した。
そのことごとくが無惨な結果に終わっている。
最初がホームページで連載した小説『ポイズン』の書籍化。
2000部刷ったうちの1800冊が5年ほど実家の2階に眠っており、
うちのオヤジが捨てたくてうずうずしている。
次にオリジナルTシャツ。
高価なボディをセレクトした上にアーティストへのロイヤリティを加算していったら、
販売価格が6000円以上になってしまった。
当然、さっぱり売れず。
そんな具合に、エコバッグ、下津井節をアレンジしたCD『スモツイ』などが赤字道まっしぐら。
極めつけは最終号と同時に発売した「コンプリートボックス」なる代物。
全10号をぴったり収納できる箱で、完結記念Tシャツとセットで3780円という値段設定をした。
が、なんとこの箱だけでコストが4000円以上かかってしまった。
しかもこれも在庫の山ときた。
「こうすりゃいいのに」という意見は悪いけど聞きたくない。
ぼくだってバカじゃない、わかっているのだ。
わかっているのに、こうなってしまうのだ。
もしかしたら、それってバカってことなのか?

マチスタの営業時間を朝からにするというぼくの秘策に、
コイケさんはすんなり賛成してくれた。
問題は終わりの時間だった。
ぼくは夕方の5時ぐらいまでと考えていたのだが、
コイケさんは「もう少し遅くまで開けておいたほうがいい」と言う。
たしかに、「仕事帰りにコーヒーを一杯」というお客さんも結構いるだろう。
でも、我が社アジアンビーハイブの社員となるコイケさんに、
朝から夜までという長時間労働を課すわけにはいかない。
年齢も年齢だし。
児島で働いているぼくが毎日夕方から交代するというのも無理な話だった。
そんな折、ぼくとコイケさんの共通の友人で、
昨年、岡山に越してきたデザイナー・デュオの能登夫妻、その妻から
「この春、妹が岡山に移住してくるので会ってやってもらえませんか?」
とマチスタでの雇用を打診された。
なにやら東京ではカフェで働いていたらしく、
岡山でもその手の仕事を探すつもりだという。
ぼくとしては、マチスタがいまだまったくの未知数で、
コイケさんの給料も満足に払えるかどうかわからないのに、
もうひとりスタッフを増やすなんてありえない話だった。
「時給を聞かれたので“700円ぐらいだと思います”と言っておきましたよ」
仕事を探しにやってきた能登夫妻の妹さんに、先に会ったコイケさんはそう言ったらしい。
相当気に入ったご様子だった。
それから数日して、今度はぼくが会った。
コイケさんがいたく気に入るのも無理もないと思った。
彼女は控えめで、まわりのことにホントよく気がついた。
ぼくと話しながら、一緒にいた1歳になるお姉さんの娘を、
お姉さん以上に気にしてかまってやっていた。
しかも美人である。イヤミがまったくない類の。
会って10分もしないうちに、すでに彼女を雇わないという選択肢はぼくのなかにもうなかった。
「時給は800円出しますから!」
こうして能登夫妻の妹さん、通称<のーちゃん>がスタッフとして加わったことで、
マチスタの営業時間が決定した。
平日は朝8時半から夜8時。土日は朝11時から夕方の6時まで。
のーちゃんが日曜日も一日出てくれるというので、
年中無休の完璧なシフト体制が出来上がったのだった。

3月に入ってすぐのこと。ヒトミちゃんと事務所でお昼を食べながら、
「これから毎月どれぐらいお金が出て行くか」という話になった。
マルナカで買った弁当を食べながら、いきおいよくペンを走らせた。
「うちの事務所の家賃でしょ、光熱費でしょ、国金の返済、
ヒトミちゃんの給料、オレ、コイケさん、のーちゃん、マチスタの家賃、光熱費………」
こうして挙げていくうち、なんかヤバーい感じがしてきた。
「ゲッ、こんなに出て行きますか………」
そこに算出された毎月の経費。
2か月間振り込みがまったくないなんてことも珍しくない我が社に、
こんな額が毎月きっちり払えるのか………。
こうやってちょっと計算すればわかることなのに、ずっとしなかった。
正視するのを避けていた。
きっと、気持ちのどこかで逃げていたのだ。悪い癖だった。
でも、もう逃げるわけにはいかなかった。ぼくひとりじゃないのだ。
いきなり奮い立ったぼくは、まだお昼の12時台というのに、1本の電話を入れた。
「ちょっと相談したいことがあるんですけど」
電話の相手は、つい最近、うちに来て名刺を置いていった銀行マン。
彼は15分もしないうちにカブで事務所にやって来て、
15分もしないうちにアジアンビーハイブの過去2期分の決算書を持って帰った。
「100万円なんて言わずに、300万円って言えばよかったかなあ」
銀行マンが帰った後も、しばらくそんなことを考えていた。

いろんな制作物が急ピッチで進められている。写真は入り口のドアのガラスに施すカッティングシートの図案。文字色は白を予定している。

3月最初の土曜日、ヒトミちゃんとサトちゃんを引き連れマチスタの清掃の手伝いに。掃除の合間には開発途中のブレンドも試飲しました。

岡山ではなにをやるにもまずフライヤーを作る。メインコピーは「コイケさんの淹れるコーヒーはおいしい」。店のスタッフに「さん」をつけるのが斬新ね。

Shop Information

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街なか study room

住所 岡山県岡山市北区中山下1-7-1
TEL なし
営業時間 12:00 ~ 23:30

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