「ヤギと一緒に暮らしたい」
ふと私の中から出てきたひと言に、自分で驚いたが、
その場にいた友人はもっと驚いていた。
「東京では難しいんじゃない?」
「なんでヤギなの?」
自分でも説明するのが難しかったが、
きっとヤギがのんびり草を喰んでいる、広々とした風景の中で、
生活してみたいということなのだと思う。
フリーランスのフォトグラファーというお仕事をしている私、黒川ひろみは、
日本各地に出張する機会をいただくことがたびたびあって、
そんな風景を幾度となく目にしていたから、かもしれない。

出張先の淡路島で出会ったヤギ。
現在、東京を拠点に活動をしていて、
ずっと憧れていた写真を撮るお仕事ができて、
東京にはたくさんの知り合いや仕事仲間もいる。
だから◯◯県に移住がしたくてたまらない、というよりは、
ヤギを飼うことは本当に難しいのだろうか、
「好きな仕事」と「理想の生活」は両立できるのかというシンプルな問い。
そして憧れている先輩フォトグラファーが移住して、
その地で新たに人脈を広げたり、
写真のお仕事を充実させたりしている様子を
SNSで見つけたことをきっかけに、
東京以外の選択肢もあるのでは? と淡く期待をふくらませた。
そんな将来の可能性を拡充するために、
9月25日〈東京国際フォーラム〉にやってきた。

「ふるさと回帰フェア2022」の入場ゲート。
全国から350もの自治体や団体が集う「ふるさと回帰フェア」。
東京・有楽町の〈ふるさと回帰支援センター〉が主催し、
移住希望者や、検討中の人が、
実際に自治体の移住担当者とお話できる貴重な機会だ。
11時に到着したが、すでに大盛況で、
熱心にうなずきながら説明を聞く人、
パンフレットを握りキョロキョロとしている人、
何か新しいことが始まるような高揚感が会場に満ちていた。

都道府県の総合案内ブースと、自治体ごとのブースが並ぶ。のぼりや揃いの衣装、展示物など各自治体工夫を凝らしていて、眺めるだけでも楽しい。
まず先に向かったのは、故郷である北海道のブース。
深川市、聞いたことがある地名に安心感を覚え、
まずはお話を聞いてみた。
担当してくださったのは同年代くらいの女性で、
市内のありのままの様子をお話してくれた。
(勢いよく話を聞きに行って、
うっかり名刺をもらい忘れてしまった……)
彼女によると深川市は、スーパーには地元野菜もたくさん並び、
お米の生産量は道内3位と豊かな農地が広がる美しい場所だが、
インターチェンジも近く都市にも出やすい穴場とのこと。
観光パンフレットには載っていないような、
生活者視点のお話がありがたい。
「実はヤギを飼いたいと思っていて……」
変なやつと思われるかなと少し心配しながらも、
自分が考える理想の生活を伝えてみると、
「へえ、そうなんですね!」
と落ち着いた笑顔。
「え!?」とか「なんで!?」といつものような
リアクションが来るかと思っていたので拍子抜けした。
「私の知り合いにも飼っている人いますよ」
「かわいいですよね〜」
とのこと。
あれ、犬の話だっけと思うくらい自然に話が進んでいく。
移住した先でヤギを当たり前のように飼っている自分の姿が、
より現実味をおびて浮かび、一気に楽しくなって、
時間が許すかぎりさまざまな地域に顔を出した。