連載
posted:2023.10.25 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
私が代表を務める地域PR団体が主催して、北海道岩見沢市にある
旧美流渡(みると)中学校で毎年開催している『みる・とーぶ展』。
今年は年2回開催し、秋の展示が10月1日に終わったばかりだったが、
なんと、その次の週末には、まちなかに出張して展示を行うこととなっていた。
出張展示は、岩見沢市の「開庁140年・市制施行80周年記念事業」の
一環となっていて、10月の第2週の週末を中心に、私たち以外にも、
まちのあちこちで多彩なイベントが開かれていた。
この話が具体的になってきたのは今年の春のこと。
場所は岩見沢駅近くの広場にある〈イベントホール赤れんが〉。
市の担当者と協議するなかで、この「赤れんが」が開催場所の候補となったとき、
一瞬私はのけぞった。
〈赤れんが〉は人工芝を敷き詰めた屋内運動場のような場所で、とにかく広い。
普段ライブやスポーツイベントなどをやっていて、
『みる・とーぶ展』の展示作品を並べるだけではとても埋まらないし、
作品の世界観を伝えるようなムードもつくりにくい。
いつもは自然に囲まれた山あいの校舎でイベントを開催している私たちにとって、
まったく違うシチュエーション。
「いったい、どうしたらいいのか」と不安がいっぱいになった。
そんなとき、旧美流渡中学校の企画をともに考えてくれている、
美流渡に移住した画家・MAYA MAXXさんが、こんな提案をしてくれた。
「『シャボン玉を描こうワークショップ』の作品をたくさん飾ってみたら?」
MAYAさんは絵画制作とともに、十数年間、
子どもたちと絵を描くワークショップを続けてきた。
主に行ってきたのは、横幅3メートルの白い防炎シートに手と足で絵具を塗り、
その上に絵を描く「大きな絵を描こうワークショップ」と、
鏡で自分の顔をよく観察しながら目、鼻、口と順番に描いていく
「自画像を描くワークショップ」。
昨年からは、シャボン玉を実際に観察して、
それを透明シートに描いていくというワークショップも始めた。
「シャボン玉は透明に見えるけれど実は虹色。
このワークショップは子どもたちが初めて描く抽象画だよ」
ただの丸を描くのとは違う、子どもたちなりの実感がこもったシャボン玉の丸。
そのどれもが違っていて、とてもきれい。
そうか、赤れんがは天井が高いから、そこからこれを吊るしたら楽しそう!!
空間全体をインスタレーションととらえて取り組めばいいんだと考えられるようになった。
また、もうひとつ、いつも旧美流渡中学校の体育館で展覧会期間中に開催している
「ミルトぼうけん遊び場」のことを、まちなかの人にも知ってほしいと思った。
この遊び場を運営してくれている林睦子さんと相談し、トランポリンやすべり台、
楽器やおままごと、木工遊びセットなどを持っていくことにした。
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こんな感じで赤れんがでの企画が決まっていくなかで、さらなるアイデアが浮かんできた。
秋の『みる・とーぶ展』では、MAYAさんによる10メートルの鳥の塔をグラウンドに設置。
この制作をサポートしてくれた、岩見沢市にある栄建設の佛田尚史社長と
打ち合わせをしている際に、鳥の塔と同じ構造のミニュチュア版を
赤れんがで展開したらおもしろいんじゃないかというプランが持ち上がった。
「2メートルくらいの高さで、10体の動物ができたらいいね」とMAYAさん。
骨組みづくりは栄建設がサポートしてくれることになり、
頭と飾りつけを私たちがすることになった。
しかし、この動物シリーズの制作の話が決まったのは夏のこと。
それ以降『みる・とーぶ展』の準備などもあり、
赤れんがのプロジェクトにかけられる日数は限られていた。
10体の動物をどうやってつくったらいいのだろうと考えていたタイミングで、
貴重な出会いがあった。
夏に行ったフェスティバルに参加してくれた布小物を制作している
榊原美樹さんとあるとき話をしていたところ、
美術大学でFRP(繊維強化プラスチック)による造形を学んでいたと知った。
これまで着ぐるみの制作もしたことがあるそうで、
動物づくりのプロジェクトを一緒にやってくれることに!!!!
9月初旬に制作がスタート。
MAYAさんのスケッチをもとに、榊原さんと私、
ほか3人の仲間(チームMAYA MAXX と呼んでいる)が集まった。
榊原さんが効率よく立体にする方法などを提案してくれて、
思いのほかサクサク作業が進んだ。
これまでもMAYAさんと仲間たちとで、クマの顔の立体と、鳥の塔の顔の制作を行っており、
スタイロフォームという断熱材(発泡スチロールのようなもの)を重ねて、
そこから立体を削り出し、最後にFRP樹脂で固めてきた。
今回も基本の工程は同じだが、榊原さんがやりやすいコツを教えてくれて、本当に助かった。
クマ、パンダ、ウサギ、ネコ、カエル、アオムシ。
顔はなんとか完成! あと1週間に迫ったなかで、体の制作を行っていった。
骨組みに白いシートを被せ、ハートや水玉、ストライプなどを描き、
さらにパンダは笹、クマは松ぼっくりで覆うことになった。
タイムリミットの迫るなか、時間を見つけては仲間が駆けつけてくれて、
搬入日2日前にすべてが終わった(やったー!!)。
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『みる・とーぶがやってきた!』展は10月7日、8日、9日に開催された。
オープン初日、向かい側で『sozo』という北海道大学が主催となった
音楽とフード、カルチャーをテーマにしたイベントも開催され賑わった。
シャボン玉を描きにきてくれる親子連れも多く、およそ8メートルの透明シートに
絵がどんどん描かれていった。
また、この日は午後から、札幌を拠点に活動する
シンガーソングライターの長澤まろいさんと
アフリカ太鼓のバンド〈みるとばぶ〉のライブも開催された。
ライブを見ていて「みる・とーぶ」らしいなーとしみじみ思った。
会場には100名ほどいたが、6割以上の人が、「ぼうけん遊び場」と
「シャボン玉を描こう」エリアにいて、子どもたちは、
ぴょんぴょん跳ね回ったり、絵を描いたりと自由にしていた。
そのかたわらで、大人たちはライブに耳を傾けた。
「夜のライブハウスになかなか行けないお父さんお母さんにも聞いてほしいから、
旧美流渡中学校の体育館で歌ってみたい」
そんなふうに長澤さんは考え、夏にこの場で歌ってくれた。
そして、今まちなかでも、同じ光景が広がっていた。
3日間、シャボン玉のワークショップを続け、11枚の透明シートが完成した。
1枚、また1枚と飾っていくごとに、会場が明るくなっていく。
クローズ間近までシートを天井から張っていき、
最後に会場のあちこちに点在させて置いてあった動物たちを一列に並べてみた。
「わあ! きれい!! かわいい!!!」と笑い合って、スタッフ全員で写真を撮った。
なんだかとても満ち足りた気持ちで終わりを迎えられたのは、
みんながずっとひとつの空間で、この3日間をともに過ごしたからかもしれない。
旧美流渡中学校の展示は、作品販売は1階、ぼうけん遊び場やライブは体育館、
ワークショップは2階、MAYAさんの展示は3階と、それぞれエリアがわかれていて、
みんなバラバラの場所で活動しているため、お互いにどんな状況だったかはわからないことも多い。
今回のように、シャボン玉のシートがどんどん貼られていく様子や
子どもたちの遊ぶ様子、作品を買ってくれる人の様子を、
みんなで一緒に体験できたことはとても大切なことだと思えた。
これで今年の「みる・とーぶ」の大きなイベントは終了。
また春にみなさんに会えるように、冬はこもってじっくり準備をしていきたい。
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