連載
posted:2023.12.8 from:静岡県掛川市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。
したたむ
料理人の夫・奥田夏樹と陶芸家の妻・吉永哲子によるご飯屋と陶芸工房。完全予約制でランチのみ営業中。
予約はInstagramより。
https://www.instagram.com/_sitatamu_/
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編集:栗本千尋
静岡県掛川市の山間での暮らしを始めて4年目、
料理人の夫と陶芸家の妻による、ごはん屋さんと陶芸工房〈したたむ〉。
完全予約制のランチ営業のみで、Instagramで1か月分の予約を開始すると
すぐに埋まってしまい、キャンセル待ちができるほどの人気店です。
車でしか行けない山奥にあり、決して利便性の良い立地ではないものの、
ここまでの人気店に成長したのはなぜなのか、本連載を通してひも解いていきます。
これまで、飲食店を開こうと考えたきっかけや、お店を出すための土地探し、
資金調達、セルフリノベ、屋号やコンセプトの決め方について教えてもらいました。
今回は、陶芸家の妻・吉永哲子(よしなが のりこ)さんが、
それぞれが異なる事業を行う2本柱で働くからこそのメリットと、
夫婦での役割や話し合いについて執筆してくれました。
掛川に移り住んで、〈したたむ〉の営業を開始するまでの1年間は、
開業準備や家の改装など、それなりにやることはありながらも、
今思うと割とマイペースに過ごしていたように思います。
7月に引っ越して9月には陶芸の仕事を再開していたので、
例えば午前中に作陶して午後から壁を塗るなど、
自分のペースで仕事ができる時期でした。
夫のほうは、助成金関係の書類作成や、家やその周りの整備で忙しいながらも、
開店準備のワクワクのなか、もともと好きなDIYを楽しんでいたようでした。
実際にごはん屋〈したたむ〉を開店してみて、私にとって一番問題になったのは、
時間がとにかく足りないということです。
考えてみれば、ごはん屋も陶芸の仕事も片手間にできるものではありません。
ごはん屋の調理など、ほとんどの仕事は夫が一手に引き受けてくれていますが、
営業日の準備や接客は私の仕事です。
週に4日の営業ですと、陶芸に当てられる日は週3日となり、
時間が足りなすぎるということになります。
〈したたむ〉をごはん屋と陶芸工房の2本柱で立ち上げようと構想を練っていたときは、
「お互いの仕事を助けあっていけばいいよね」という、ゆるふわな考えで、
このあたりのシミュレーションがまったくできていませんでした。
まだ完全には解決していないこの問題を、時間とお金の面から整理してみたいと思います。
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まずは時間についてですが、ごはん屋は当初、週4日、12〜15時頃の営業でした。
夫は買い出しと仕込みで3日ほどかかるので、ほぼ休みはないような状態です。
営業のある日の私のスケジュールはこのような感じです。
朝起きて、朝食、身支度を済ませたら、その日のお品書きを書く。
掃除をして、客席を整える。
家の周りから季節の花や枝などをつんで、花器に生ける。
土間を掃き、店の前の坂道に葉がたくさん落ちているようなら、ブロアーできれいにする。
お客様がいらしたら接客、合間に洗い物。
コーヒーをお出しして、会計、お見送りするところまでが私の役割です。
15時半頃、遅い昼食をとり休憩。
陶芸の仕事が立て込んでいるときには、このあとに工房に行って仕事をします。
営業のない3日間が、私が陶芸の仕事にあてられる期間ですが、3日でも少ないし、
これだと休みがまったくとれません。
改善策としては、やはり営業日数を減らしてバランスをとるしかありません。
2年目からは、古民家でエアコンをつけるのが難しいということもあり、
夏と冬にそれぞれ1か月半ほどのまとまった休みをとることにしました。
この期間に普段できない家周りの整備やメンテナンス、事務作業もできるようになりました。
行きたかった店に行ったり、会いたかった人に会いに行ったり、
旅行する時間もつくれました。
これで陶芸仕事が進む! と思いましたが、休みモードにのまれていまいち進まず。
これは今後の課題です。
今年からは試しに週3日営業にしていて、
これでやっと週に1日休める計算になります。
少しゆとりはできましたが、そのぶん収入的には厳しくなります。
これもまだいろいろ試しているところです。
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次にお金の面から考えてみます。
わが家は最初から生活費を折半していました。
あらかじめ決めた金額を出し合い、たりないときはその都度出し合うというやり方です。
開業してからも1年くらいはそのままのかたちだったので、夫は店の売り上げから、
私は陶芸仕事の売り上げから半々に生活費をまかなっていました。
でも、何か月かお店を切り盛りするうちに、週4日、5時間ほどの仕事に対する
報酬がないことに不満を感じるようなりました。
特に自分の仕事で忙しく時間がないときなど、イライラがつのりがち。
もちろん開店したばかりで必死に頑張る夫の姿も見ているし、
ふたりのお店なので盛り上げたいし、お店の仕事も好き。そんな気持ちと板挟みでしたが、
思っていることをすべて伝えて、落としどころを探りました。
夫婦経営、自営業あるあるかもしれません。
このあたりも、本当は最初に話し合っておくべきだったなと思います。
話し合った結果、働いた分の報酬はしっかり受けとることで決着しました。
生活と仕事が分けにくく、すべてがきっぱりと割り切れない暮らしなので、
何から何までビジネスライクにはいきません。
私がクラフトマーケットなどに出店するときには、夫は率先して手伝ってくれるし、
私も手が空いているときは銀杏の皮剥きを手伝ったりします。
まだまだ理想的なワークライフバランスとはいきませんが、
これからもその都度話し合って微調整を繰り返しながら、
どこにもない私たちの暮らしをつくっていきたいと思います。
〈したたむ〉のお店づくりについての連載は、今回で終了となります。
準備期間も含めて5年ほどの歩みをまとめてみて、
あらためて思い出したこと、言語化できたことがたくさんありました。
まだまだ途上の〈したたむ〉です。
これからも日々の暮らしを楽しみながら、私たちのお店をつくっていきたいと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。
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