連載
posted:2023.11.27 from:香川県小豆郡土庄町 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
海と山の美しい自然に恵まれた、瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。
この島での暮らしを選び、家族とともに移住した三村ひかりが綴る、日々の出来事、地域やアートのこと。
writer profile
Hikari Mimura
三村ひかり
みむら・ひかり●愛知県生まれ。2012年瀬戸内海の小豆島へ家族で移住。島のなかでもコアな場所、地元の結束力が強く、昔ながらの伝統が残り続けている「肥土山(ひとやま)」という里山の集落で暮らす。移住後に夫と共同で「HOMEMAKERS」を立ちあげ、畑で野菜や果樹を育てながら、築120年の農村民家(自宅)を改装したカフェを週2日営業中。
https://homemakers.jp/
暑さが落ち着きようやく秋が始まったかと思いきや、
11月だというのに朝から20度を超えるような日があったり。
そうかと思えば、突然風が強くなって雨が降って、気温が一気に下がったり。
今年の秋は本当に気温の変化がめまぐるしくて、
半袖になったり長袖になったり、対応するのに必死です(汗)。
とはいえ、季節は少しずつ冬に向かっています。
2023年10月から、本連載『小豆島日記』の更新が月1回となったのですが
(それまでは月に2回更新していました)、1か月単位で振り返ってみると、
季節って確実に巡っているんだなというのがよくわかります。
11月は気温の変化に振り回されながらも、
秋が深まっていくのを日々感じながら過ごしています。
さて今回は、自分たちの農業のスタイルについて書こうと思います。
2013年にわたしたち夫婦で始めた〈HOMEMAKERS〉という農園は、
今年で11年目になるのですが、仲間も増え、畑も広くなり、
それに合わせて少しずつ働き方や売り方などを改善しながらやってきました。
いつしか、自分たちが農業をしていることが当たり前になり、日々楽しみつつも、
最近は業務としての効率化や、経営について考えることが多くなりました。
気候、農業資材の価格、自分たちやスタッフの年齢など
日々いろいろな状況が変わっていき、考えることがいっぱい。
収穫した野菜を見て美しいなぁと思っても、
写真を撮る余裕もなく、さっさと出荷作業を進めてしまったり、
私自身は経理や人事、お客様とのやりとりの時間が増え、
畑で土に触れて作業する時間が極端に減ってしまいました。
農家であることの誇りみたいなものを少し失いかけていて、というか、
私は畑にほとんど出られていないし、農家と名乗っていいのかと思ったり。
こんなにもたくさんの種類の野菜を育てても効率悪いし、大変だし、
減らしたほうがいいのかなぁと考えてしまったり。
結論がでないまま、そんな思考が堂々巡りしていました。
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そんなときにお声がけいただいたのが、先月(2023年10月)
徳島県の神山町で行われた『Farmer’s Meeting』というイベント。
“オーガニック料理の母”と称される料理人であり、
カリフォルニア州・バークレーにあるレストラン〈シェ・パニース〉のオーナーである
アリス・ウォータースさんの来日のタイミングにあわせて開催されたもので、
イベント主催者であるRichSoil & Co.とFood Hub Project と
つながりのある農家や料理人たちが集まりました。
わたしたちも農家として参加させていただき、
開催場所である神山町にある農園の見学から始まり、
テーマを設けてミーティングセッション、夜は焚き火を囲みながら、
アリス・ウォータースさん、ジェローム・ワーグさん、野村友里さんのクロストークなど、
本当に盛りだくさんな内容の1日でした。
そこに行けば、何か答えが見つかるかなと思いながら神山へ。
農家や料理人たちと1日ともに過ごすなかで、経営のこと、栽培のこと、
農家と料理人の理想的な関係のこと、いろいろなことを話しました。
週に何日出荷しているか? 出荷作業は何人でしているか?
なんて具体的なことから、ぶっちゃけ農業って儲かるのか? といった話まで。
共感できることが多く、話すだけですごく励まされました。
みんなそれぞれ考えながら、自分たちのスタイルの農業をしている。
自分たちが育てたい野菜を育てている。
そうなんだ! 答えなんてなくて、答えがあったとしても
それを真似して同じことをしてもきっとうまくいかなくて、
自分たちで考えて試行錯誤して、農家としてのかたちをつくっていくんだなと、
心からそう思えました。
そしてその夜、アリスさんと話す機会があり、今日話さなかったら絶対に後悔すると
話しかけに行き、今の気持ちを伝えたら、とてもあたたかく話してくれました。
「ファーマーズ・ファースト」
生産者が一番大事、農家ってすばらしいのよと伝えてくれて、ほんとうにうれしかった。
ぶれていた心が、ぐっと固まった感じ。
イベントの翌日、神山を早朝に出発して、朝一番のフェリーに乗って小豆島に戻りました。
その日も朝から畑に出て、野菜を収穫し出荷作業。
野菜たちが愛おしい。
小豆島だからこそできる農業を。
そしてそれは自分たちが働いていて気持ちいいと思えるかたち。
たくさんの種類の野菜を育てていくことは、たしかに効率は悪いけど、
でもたくさんの喜びがある。だからそこは変えない。
一気にたくさん採れすぎてしまった野菜を残さず生かしたい。
畑で使うビニールマルチシートを極力減らして、経費もゴミも減らしたい。
間引いた小さいサイズだからって価格をさげないようにしたい。
忙しい時期はもっとたくさんの人とともに働きたい。
ともに働く仲間が幸せであってほしい。
やりたいことはまだまだたくさんある。
そのひとつひとつを実現していく。
実現する方法を考えて考えて、試して、積み重ねていく。
そうしてかたちができあがっていく。
農家であることの誇りをいつも忘れずに。
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