日本あるいは北海道のイメージを超えた世界
学生時代、表現活動のひとつとして独学で服づくりを習得し、
映画、演劇、ダンス、音楽シーンなどの衣装を手がけるようになった
ファッションデザイナーのスズキタカユキさん。
自身の名前を冠したブランド〈suzuki takayuki〉では、
“時間と調和”をコンセプトに、
着る人の本質的な美しさを引き出すような洋服をつくり続けている。

流行を追い求めることなく、長く愛されるものづくりを目指すスズキさんの洋服には著名人のファンも多い。
最近だと、東京オリンピック開会式で
ダンスパフォーマンスを披露した森山未來さんの衣装制作や、
同じく開会式冒頭、コロナ禍でアスリートたちが抱いた
不安や葛藤を表現したパフォーマンスで、
ダンサーの衣装デザインを手がけたことでも話題に。
一方で〈仕立て屋のサーカス "circo de sastre" 〉という
音楽家とのユニットに所属し、自ら舞台の上に立って、
音と光と布が織りなす見たことのない世界を創出。
国内だけでなくフランス、スペイン、インドネシアなど
海外でも公演を行っている。

「鉛筆と紙があればどこでも仕事ができるし、生きていける。ものにあんまり執着がないんです」とデザイン画を描きながら。
そんなスズキさんが北海道・根室の土地に魅せられ、
東京と2拠点生活を送るようになったのは、2015年のこと。
「移住先を積極的に探していたわけではなかったのですが、
僕も妻も地方出身ですし、“東京にしか住めない”という意識は
もともとありませんでした」

会話をしながらも手を止めることなく、さらさらとデッサンを描きあげていく。
根室を訪れるきっかけとなったのが、友人の移住だ。
フライフィッシングが趣味のその友人は、
日本全国を回るなかで根室を訪れ、あっという間に移住を決意。
「彼は、東京でも活躍していたアクセサリー作家で、
『とにかく一度、来た方がいいよ』と強く誘ってくれるわけです(笑)。
彼のセンスや、ものを見る目を僕はとても信用していたのですが、
半信半疑で行ってみたら、日本にこんなところがあるのかと驚くほど、
想像を超えた世界が広がっていました」

人の手がほとんど入っていない湿地と原生林からなる、春国岱(しゅんくにたい)。
北海道に行ったことは何度もあったし、
北海道に縁のある知り合いも少なくなかった。
しかしスズキさん夫妻が降り立った根室は、
今まで知っていた北海道とはまったく異なる場所だった。
「釧路と根室は同じ道東で比較的近いのですが、
それでも釧路から根室に向かう途中で風景が一気に変わる。
人の手が入っていそうな場所が圧倒的に減るんですよね。
しかも緯度が高いので、太陽が斜めから射してくるような感じで、
スコットランドとか北欧みたいなドラマチックな光なんです。
こういう環境に身を置いてみるのはおもしろいかもしれないと思いました」

根室の浜辺に咲いているオオハナウド。
唯一の気がかりは、
訪れた時期がベストシーズンといえる6月だったこと。
すでにその時点で心はほぼ固まっていたものの、
自然環境がもっとも厳しくなる冬を知らずに決めるのは心もとない。
結局、地元の人が強くおすすめしてくる真冬に再訪し、
もうひとつの生活の場を根室に定めた。

















































































