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弟子屈中学校の授業で
アカエゾマツの森を学ぶ。
動画『森の中へ』も完成!

弟子屈の森から
vol.008

posted:2023.3.17   from:北海道弟子屈町  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  北海道の道東・弟子屈(てしかが)町の「自然に住む心地よさ」に惹かれて移住した井出千種さん。
身近になった木や森を通して、「自然に惹かれる理由」を探ります。

writer profile

Chigusa Ide

井出千種

いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。

地元の中学生と歩いた「アカエゾマツの森」

きっかけは、地域おこし協力隊の同期、高橋志学くんからの誘いだった。
「弟子屈中学校の先生から
『協力隊と一緒にできることはないでしょうか?』と相談を受けました」

昨年の初夏のこと。
「アカエゾマツの森」を、できるだけ多くの人(とくに町民)に
知ってもらいたいと考えていた私は、迷わず手を挙げた。

そして実現したのが、2日間におよぶ
弟⼦屈中学校1年生 × 東京農業⼤学教授・上原巌先⽣
「川湯の森の散策と森林講座」
(この模様は、上原先生のブログに楽しく紹介されているので、
ぜひご覧ください)

2020年から毎年、弟子屈町の森を訪れている、東京農業大学教授・上原巌先生。「川湯の森の散策と森林講座」は、弟子屈町の広報誌の表紙も飾った。

2020年から毎年、弟子屈町の森を訪れている、東京農業大学教授・上原巌先生。「川湯の森の散策と森林講座」は、弟子屈町の広報誌の表紙も飾った。

1日目は中学校の講堂でスライドを観ながら、
「森とは何なのか?」「弟子屈町にはどんな森があるのか?」など
アカエゾマツなどの蒸留をしつつ学んだ。

2日目は「アカエゾマツの森」と、近くにある「川湯の森」をみんなで歩いた。
「この森は、どんな風に感じる?」「この葉っぱ、どんな形をしている?」
上原先生は、いつも問いかける。
そして参加者は、眺めるだけでなく、考えるようになる。
すると木や森は、いつもとは違う姿をどんどん見せてくれるのだ。

2日目には「アカエゾマツの森」。中学生はタブレットを持ち、写真を撮りながら歩く。

2日目には「アカエゾマツの森」。中学生はタブレットを持ち、写真を撮りながら歩く。

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発表を聞いて驚いたこととは?

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中学生が考える「エコツーリズム」とは?

さて、そんな体験をした弟⼦屈中学校1年生29名は、
約2週間後、総合学習(総合的な学習)の発表会を体育館で行った。

「川湯の森の散策と森林講座」は総合学習の一環で、
テーマは「弟子屈再発見、エコツーリズムの視点に立って」。

1年生(12、13歳)で、ずいぶん難しいテーマに取り組むのだなぁ、と
感じていた私は、みんなの発表を聞いて驚いた!

8チームそれぞれが、テーマに合わせて課題を決め、体験や調査を経て発表会に臨んだ。

8チームそれぞれが、テーマに合わせて課題を決め、体験や調査を経て発表会に臨んだ。

29名が8チームに分かれ、それぞれパワーポイントでつくった資料をもとに
発表したのだが、的を射た内容に感心するばかり。
「木を減らさないための工夫」
「自然を守りつつ観光客を増やす」
「弟子屈の自然を見に行こう→心を落ち着かせに行こう」etc.

目の前にある自然を感じて、純粋な心で受け止めて、真摯に向き合って考える。
その結果は、環境のことや「地球を守りたい」という思いにまでおよんでいた。

エコツーリズムの先進地を目指す、弟子屈町。中学生の思いが広がれば、きっと未来は明るい。

エコツーリズムの先進地を目指す、弟子屈町。中学生の思いが広がれば、きっと未来は明るい。

地域おこし協力隊 観光プロモーション活動支援員という立場になって、
「エコツーリズム」という言葉をやたらと耳にするようになったけど……。
本当に大切なのは、中学生が感じているような
とてもシンプルなことなのではないだろうか。
そんなことを改めて考えさせられた貴重な機会になった。

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「悩みすぎて熱が出て、寝込んだらアイデアが浮かんだ」

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中学生の視点を伝える動画がつくりたい

総合学習の発表内容を多くの人に伝えたくて、
動画を作成してみることにした。
協力してくれたのは、広瀬結花さん。
弟子屈町に生まれ育ち、弟子屈中学校の卒業生でもある。

彼女のことを知ったのは、昨年の春、
地域おこし協力隊の先輩から届いた1通のメールからだった。
「南弟子屈の酪農家さんからうれしい情報をいただいたので
共有させてくださいね」と、こんな動画が紹介されていた。

2022年3月に発表された『撮ってもいいね! 北海道 動画コンテスト』で、最優秀賞に輝いた広瀬さんの作品『THE PROUD LAND HOKKAIDO』。

広瀬さんは韓国に語学留学していたのだが、コロナ禍で弟子屈町へ。
以来、酪農家であるお父さんを手伝っている。

牧草の作業が終わって、少し時間ができるようになったという10月初旬、
初めて広瀬さんに会った。

弟子屈町に生まれ育った広瀬さんだが「アカエゾマツの森」に入ったのは、今回が初めてだった。

弟子屈町に生まれ育った広瀬さんだが「アカエゾマツの森」に入ったのは、今回が初めてだった。

「映像に興味を持ったのは10年前くらいですが、
独学でつくって自分で楽しんでいただけなんです。
一昨年、妹の結婚式のときに映像をつくったら、
『プロデュース力がある』なんて褒めてもらって。身内からですけど(笑)。
もう少しつくってみてもいいのかな、って思うようになりました」

そして応募した作品が、『THE PROUD LAND HOKKAIDO』。
動画制作は、仕事ではなく、趣味である。
だけど初めて会ってときに見せてもらった阿寒の森の映像に、
なんだか惹かれるものがあって
広瀬さんに「アカエゾマツの森」も撮ってもらいたいと感じたのだ。

真冬の朝、「アカエゾマツの森」に射し込む光は、とても美しい。

真冬の朝、「アカエゾマツの森」に射し込む光は、とても美しい。

それから打ち合わせを重ねること、約2か月。
広瀬さんは、今回の動画のために2度の撮影をしてくれた。

最初は12月初めの早朝。
氷点下10度以下にもなる森の中で、カメラを回した。

「光の感じがすばらしくて、鳥の声だけしか聞こえない世界。
ここは“無になっていい場所”なんだな、と感じました」

日々の生活では頭の中を巡っている雑念が、
「アカエゾマツの森」に入った瞬間、すべて消えていったという。

2回目は12月中旬、中学生1年生2名の協力を得て
一緒に歩き、インタビューもしながら撮影した。

「川湯の森の散策と森林講座」に参加した1年生に声をかけ、樋口愛海さんと横山結那さんの2名が協力してくれた。

「川湯の森の散策と森林講座」に参加した1年生に声をかけ、樋口愛海さんと横山結那さんの2名が協力してくれた。

動画制作にあたり、広瀬さんにリクエストしたのは2点。
中学生の視点であることと、発表会の内容を入れること。
この後者が難問だった。

「どうやったら上手くまとまるのか、最初は想像もつかなかったんです。
考えて考えて、悩みすぎて熱が出て、寝込んだらアイデアが浮かびました(笑)」

そして撮影後は、編集に没頭すること約2か月。
こうして1月末に、動画『森の中へ』が完成した。感激した!

動画『森の中へ』は、2月25日に公開したばかり。「アカエゾマツの森」の魅力を伝えるツールとして、今後広く活用していきたい。

うれしくて、以来、たくさんの人に紹介している。
「すごくいいね」「大人にこそ観てもらいたい」「心が洗われるよう」……と
賞賛の声が続々と!

これらを聞いて広瀬さんは、
「テーマがきれいですから。 “森”と“中学生の視点”のおかげですよ」と笑いながら、
ひとコマひとコマに思いを込めることと、
それらをつなげてメッセージを伝えることが
「得意なのかもしれないな」と、うれしそうに語ってくれた。

授業に関わることで知った、中学生のピュアな感想とストレートな意見、
それらの説得力の強さを大切にしたい。
そして同時に、彼らの感性を育んできたのは、
ここ弟子屈にある自然、それらに囲まれて暮らすことなのだと思いたい。

 撮影しながら、落ち葉や松ぼっくりを拾って楽しんでいたふたり。森の中は、小さな発見に溢れている。

撮影しながら、落ち葉や松ぼっくりを拾って楽しんでいたふたり。森の中は、小さな発見に溢れている。

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『森の中へ』

YouTube:『森の中へ』

*「弟子屈なびChannel」にて配信中

動画時間:4分23秒

出演:樋口愛海、横山結那(弟子屈中学校一学年生/2023年2月現在)

協力:北海道 弟子屈町立弟子屈中学校

撮影:広瀬結花(弟子屈中学校卒業生)

アカエゾマツの森:弟子屈町・川湯ビジターセンターの裏に広がる、アカエゾマツの純林。徒歩約30分のゴゼンタチバナコースと約60分のアカゲラコース、ふたつの散策路があり、1年を通して、希少な植生や森の心地よさを楽しむことができる。

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