連載
posted:2015.8.3 from:東京都世田谷区 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
writer's profile
Nobuyuki Fukui
福井信行
1975年神奈川県生まれ。大学中退後3年半のニート生活を経て木工所勤務。1996年よりACME FURNITUREにてアメリカ中古家具のメンテナンスと仕入れを担当。不動産会社勤務を経て、2005年に株式会社ルーヴィスを設立。2013年より木賃ディベロップメント共同主宰。2015年より費用負担型サブリースを行う「カリアゲ」をスタート。古家や再建築不可物件など流通しにくい建物の再生を試みながら活動中。
みなさま、こんにちは。ルーヴィスの福井です。
今回は〈途中の家〉と名付けた、
現在も進行中のプロジェクトについて
施主のメッセージも交えながら紹介します。
このプロジェクトが始まったのは、2012年の夏頃だと記憶しています。
ある日、まだ20代だった高田陽介さん、尚子さんご夫婦が事務所に相談に来ました。
「RC地下1階地上3階建の事務所ビルを買ったのでリノベーションしたい」
いつもの相談と少し違ったのは
「自分たちでできる限りDIYしながらやりたいので、
できない部分をお願いしたい」ということでした。
その頃、“塗装は自分たちでやりたい!”というクライアントも増えていた時期。
ただ、日常の関係で挫折してしまう人も多く、
一瞬、不安を覚えましたが、陽介さんと尚子さんは、
初回の打ち合わせで自分たちが子どもの頃から思い描いていた
理想の家をものすごい熱意で話してくれました。
背景をうかがっていくと、陽介さんの両親は、
「理想の住まいを追い求めているうちにセルフビルドで一軒家を建ててしまった」方たち。
さらに、尚子さんは、
「子どもの頃に読んだ『三匹の子豚』の物語が忘れられず、
ひとつずつレンガを積んで家を建てるのが夢」と言います。
とにかく「自分たちの住む家は、自分たちの手でつくりたい!」
という熱意は人一倍感じたのを覚えています。
ふたりのあまりの熱意に
「なんとかなるんじゃないですか?」と返事をしたものの、
少し半信半疑だったのも正直なところでした。
工務店というのは現場を管理するのはもちろんですが、
工程どおりに職人を現場で動かしつつ、
クライアントが求める日までに適正なクオリティで
工事を完了して引き渡すことが求められます。
施主が通しで工事に参加することは、
スケジュール通りに工事が進行しないリスクを受け入れることになります。
直前で工程をリスケすることは職人の生活にも直結します。
どのような取り組み方がいいのかを考えた結果、
「施主と工務店の工事区分をしっかりとしたうえで、完成を前提としない」ことにしました。
当時、工務店が工期を明確にしないというのは、
建設業者として社会的には、疑念を抱かれるかもと思っていましたが、
高田夫妻の理想を実現するために、
そのリスクを負い、竣工しないことを肯定することにしました。
施主が途中でリタイアして、職人を入れたとしても費用が莫大に増えない、
もしくはあとからでも施主が対応可能な仕様を
仕上げとして逆算しながらプランを考えました。
陽介さんと尚子さんの「自分たちでできる限りDIYしたい」という話を信頼し、
まずはふたりに解体をお願いしました。
慣れない解体作業に苦闘するふたりの様子は、facebookにアップされていき、
僕らは見守るだけでした。
「真夏の解体作業は過酷でしたが、
丸裸の家を見れたおかげでどこに何がついているかよくわかりました。
それに“夢のマイホーム”だからと言って買ったまま大事にとっておく必要はなくて、
むしろ家も暮らしの道具だと思ってどんどん使い込めばいいんだ、
と割り切った気持ちでスタートできたのはよかったと思います」(陽介さん)
正直、解体作業って大変です。
粉塵まみれになるし、ケガもしやすい。
特に夏場は汗に粉塵がまとわりついて不快指数も上がります。
陽介さんと尚子さんのfacebookの写真を見て、
「もしかして、このふたりならこのままいけるかも」と僕は思い始めていました。
さらに驚いたのは陽介さんのお父さんのプロ並みの技術です。
多少スケジュールがずれたりもしましたが、
こちら側の工程進行に支障がないように少しずつ確実に進んでいくのです。
「父に工具の使い方を教わっているときは、
子どもの頃に戻ったようでちょっと懐かしい気分でした」(陽介さん)
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「壊す、削る、塗るといった作業は根性さえあればなんとかなる。
リノベーションが進むにつれて、
セルフでできる部分と助けが必要な部分の境界線が明確になっていきました」(尚子さん)
僕らは、高田夫妻のセルフリノベーションの状況を観察しながら、
電気・設備・ガスなど、プロじゃなくてはできないことをサポートしていました。
まだまだ工事は中間地点でしたが、
僕はこの頃から「工務店の本来のあり方」みたいなものを考え直していました。
工期もそうですが、工務店はなるべくリスクを最小限に留めたいと考えます。
もちろんそれが正しい姿なわけですが、
とは言え、工務店がリスクを最小限に留めたいが故に、
施主に思考させないことが正しいわけではないということです。
DIYで施主自身が上手くいかずに試行錯誤することもありますし、
部材製品を施主自ら発注して間違ったものを頼んでしまうこともあるかもしれません。
施主が失敗することを前提にこちらが「すべてお任せください!」
と言うことが正しい関わり方ではなく、
寄り添うようなかたちでものづくりをすることで、
互いに得られるものもあるかもと思い始めていました。
そう僕が勝手にパラダイムシフトを起こしている間にも工事は仕上げに進んでいきました。
「セルフリノベなら下手や失敗も笑い話になりますし、気に入らなければまた直せばいい。
たとえ完璧な仕上がりじゃなくても、家を見渡せば必ずどこかに家族が関わったしるしがある。
それが、やっぱりいいなと思います。そう考えると、
僕たち夫婦にとってはこの家そのものが思い出のかたまりなんです。
もちろん、ふたりで夢見たこととは言え、
家づくりを続けていくことは楽しいことばかりではありません。
むしろ、作業を始めたばかりの頃は、
時間的にも体力的にも追い込まれてケンカばかりしていました。
家を買ううえでは切っても切り離せないお金の問題もありました。
ただ、甘い経験も苦い経験も全部引っくるめて楽しめている自分たちがいることも事実。
そんな夫婦としての才能を発見できただけでも、
やってみた甲斐があったのかもしれないなと思います」(陽介さん)
僕らがサポートしたのは、まずは水回りが関係する間仕切りなどに関して、
なるべくDIYができるプランをつくること。
あとは、機材なども基本高田さんがレンタルショップから借りています。
5か月が経過して生活に支障がないぐらいにできたという頃に、僕は見に行きました。
ドアノブは付いておらず、キッチンにタイルはまだ貼られていませんでした。
工務店目線で言えば、明らかに途中だったのですが、決してネガティブな途中ではなく、
これから先にポジティブな未来を感じる途中でした。
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「家づくりを始めたときは一刻も早く完成させたいと思っていた私たちですが、
寝室ができて、リビングができて、キッチンや水回りができてきたら、
今の自分たちにはこれだけあれば十分だと気づきました。
わが家にはいまだに手つかずの場所がたくさんありますが、
それでも生活には困らないし、せっかくリノベーションを“しながら”住んでいるのだから、
焦ってかたちにするのはもったいない。
むしろ、家族の変化に合わせて自由に家をつくり変えていけることが、
リノベーションの醍醐味なんじゃないかと思います」(尚子さん)
僕は、陽介さんと尚子さんが、
「最近は、週末にドアノブを見に行ったりするのが楽しみで」
と話していたことがすごく印象的で、
それは、途中だからこそ得られる贅沢な楽しさだなと思いました。
「ああでもないこうでもないと言いながら理想に向かって生きているからこそ、
途中でもこんなにおもしろいのかもしれません」(陽介さん)
以前もお話ししましたが、新築でも中古でも家にはメンテナンスが必要です。
ただ、そのメンテナンスも修理や補修の類いなのか、
ライフステージに合わせた改善なのかで気持ちが大きく変わります。
今回の〈途中の家〉の場合、施主にとって途中がスタート地点ゆえに、
“修理・補修・改善”がすべて並列となり、
気持ち的にメンテナンスに取り組みやすい状況になっていると思います。
今回のプロジェクトに関しては、誰もができることではないかもしれません。
ただ、僕らの仕事に対する取り組み方もまだまだ「途中」と捉えて、
新しい工務店としての寄り添い方を模索していきたいと考えています。
次回は最終回となりますが、近年、社会問題となりつつある空き家問題に貢献すべく、
2015年からスタートさせた新しい取り組み〈カリアゲ〉についてお話したいと思います。
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