連載
posted:2021.3.12 from:静岡県下田市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
自分たちの暮らしを自分たちで丁寧につくりたい。そんな思いから移住を決意した一家。
移住先を探す旅、そしてその暮らしを、夫婦で交互に綴っていきます。
editor profile
Ichico Enomoto
榎本市子
えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。
credit
撮影:津留崎徹花、津留崎鎮生
移住先探しの旅に始まり、紆余曲折を経て、下田に移住した
津留崎鎮生さん、徹花さんと娘の一家。
自分たちの暮らしを見つめ直し、そのときどきの思いを
夫婦でリアルに綴ってきたこの連載もスタートから4年半、
ついに100回を迎えました。
今回は特別編として、人気記事のベストテンをご紹介しながら、
これまでの移住をめぐる“旅”を振り返ります。
――連載100回おめでとうございます! ここからは、連載開始からいままで、
よく読まれた記事をカウントダウン形式で振り返りたいと思います。
42歳の夫、42歳の妻、5歳の娘の津留崎家は移住することを決意。夫は会社を辞めて、移住先探しの旅へ。(2016年9月)
――10位は記念すべき第1回目でした。
移住先探しの旅を始めると聞いて、私たちも驚きました。
鎮生: いま思えば、移住先を決めないで旅に出るって、よく行ったよね。
行っちゃえば、移住できるだろうという気持ちはあったけど。
徹花: まだ迷いはありました。移住したいけれど、
どういう暮らしがいいという具体的なことは、はっきりしていなくて。
でも旅先で出会った人たちの暮らしを見ながら、こんなことができるんだと、
自分たちが求めていたものがわかるような旅でした。
車中泊ができるように車を改造。自分たちの暮らしを探す旅が始まりました。
下田に移住して1年余り。実際に移住してみて、こんな人は移住に向いていないかも? というポイントをまとめました。(2018年8月)
――9位はこちら。移住したいと考えている人たちにとって興味深い内容だと思います。
こんな人は難しいかも、というポイントとして
・収入を下げたくない
・虫、爬虫類と暮らせない
・心配性すぎる
・教育機関にこだわる
・免許がない、車の運転が苦
を挙げていましたが、いま振り返ってどうですか?
鎮生: たしかにそうですね。
徹花: 収入は本当に下がりました。それで不安になる人は大変かも。
ほかに何かあるかな?
鎮生: 人づき合いが苦手な人はちょっと難しいかな。
ただ、ご近所づき合いが嫌なら別荘地とか山の奥で暮らすという手もあります。
徹花: コミュニティが小さいと何をしてるか丸見えで、
たとえば庭に車がないと「出かけてたの?」とわかっちゃう。
そういうことが苦手だときついかもね。
うちは人づき合いが嫌いじゃないから、居心地はいいです。
最初は業者に依頼したスズメバチの巣の撤去も、自分でできるように。田舎は虫は多いけれど、慣れるそうです。
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下田に移住して3年半。漁師の方におすそ分けをいただくことも増え、魚もさばけるように。サザエも以前は取り出せなかったのが、いまではスルリと刺身にできます。(2020年12月)
――8位は最近の記事がランクイン。
これは移住に関心がない人にも多く読まれたのではと思います。
徹花: 意外。これを書いたあとに、地元のママ友に
「サザエ取り出せる?」って聞いたらポカンとした顔されちゃって。
それくらいこっちの人には当たり前すぎて、そんなことを書いてしまったか、
とちょっと心配だったんです。
鎮生: わからない人が多いから読まれたんだろうね。
徹花: 東京にいたときは魚なんてさばけなかったのに、
4年暮らしているとだんだんできることが増えてきて。
それが当たり前になりつつあるのが、ちょっと不思議な感覚。
鎮生: それだけ、なじんできたってことだよね。
徹花: 地元の漁師さんや海女さんを写真で紹介できるのは、とてもうれしいですね。
伊勢海老やアワビなどをいただくことも。記事では伊勢海老の茹で方や、漁師さんの食べ方も紹介。
〈高橋養蜂〉で働くようになった鎮生さん。獣害によって荒れてしまった果樹園を再生させ、「ミツバチの楽園」をつくろうとする高橋養蜂の取り組みを紹介。(2018年1月)
――7位は〈高橋養蜂〉の記事でした。「ミツバチの楽園」というと夢がありますが、
里山が抱える深刻な問題にも触れています。
徹花: 高橋養蜂の高橋鉄兵さんとは、本当にいい出会いだったよね。
鎮生: ここまでやりがいのある仕事に就けたというのは運がよかった。
ライフワークのように感じています。最近は、ヤギの家をつくっているんです。
またそんなことも連載で紹介していきます。
鹿に樹皮を食べられ、枯れてしまったみかんの木。枯れ木を撤去し、獣害対策用の柵を設置し、それから果樹を植えていくという壮大な計画です。
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家計を見直すとともに、無駄な食材を買いすぎて余らせてしまわないように、冷蔵庫の中をすっきりさせ、シンプルに暮らそうと思った徹花さん。冷蔵庫には、過剰な“欲”が詰まっていたのです。(2018年3月)
――6位は稲垣えみ子さんの本と冷蔵庫の話でした。
このとき、1日の買い物を2000円に抑えるという
「クリアファイル家計簿」が出てきましたが……。
徹花: 「クリアファイル家計簿」、最近全然やってないですね(笑)。
最近コロナで家にいることも長いし、ストレスもたまるでしょ。
食べることが楽しみだから、スーパーに行くと、ついいろいろ買っちゃうんです。
仕事が減ってるのに食費が上がってるんじゃないかというくらい。
鎮生: それで冷蔵庫がいっぱいって、元に戻ってるじゃない。
徹花: いやそれで、知り合いの飲食店が
テイクアウトをせっかくやっているんだから、
スーパーでちょこちょこ買い物をするくらいなら、倹約して、
こういうお店でお金を使って地域に還元したほうがいいなと。
それで、今日から1週間買い物をやめよう! と決めて、
節約して満足度の高い食事をした、ということが最近ありました。
そうすると冷蔵庫のものは整理するし、いろいろ工夫するのが楽しい。
鎮生: 相変わらず冷蔵庫に詰まってる欲と戦ってるってことだね。
福島の原発事故後、節電をきっかけに、電化製品を使わず暮らしを見つめ直していく、稲垣みえ子さんの著書『寂しい生活』。暮らしのいろいろなヒントが詰まっています。
移住して始めたかったことのひとつが米づくり。津留崎家は下田に移住して1年目から無農薬の米づくりにチャレンジしていますが、思った以上に雑草の処理が大変……。(2018年10月)
――5位は米づくりに関するものですが、意外にも田植えでも稲刈りでもなく、
雑草の話でした。実際に雑草で困っている人が見てくれるのか、
公開後2、3年目もよく読まれている記事です。
鎮生: うれしいですね。ノウハウを知りたいという人に
読んでもらえているのかな。僕たちが移住して念願の米づくりが始められたのも、
〈南伊豆米店〉の中村大軌さんがいたから。本当にありがたい。
徹花: でも昨年は台風の影響で急遽稲刈りをしなくてはならなくて、
大軌さんの手を借りることができず。
地元の知り合いの協力を得たりしながら自分たちでできたのがすごく進歩でした。
実際に行動を起こしてみたら、みなさんとても協力的で。
鎮生: 米づくりも今年で4年目。
全部自分たちでできるようになるにはまだまだだね。
山積みになっているのが「ヒエ」という、稲によく似た雑草。すぐに大きくなってしまうのでとても厄介。
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一度は三重県の美杉町で暮らし始めたものの、環境の大きな変化に娘がとまどい、いったん東京に戻ってから、今度は伊豆下田へ再び移住することに。それから約半年、新しい土地になじみ始めた一家の様子を綴ります。(2017年10月)
――4位は、家族で移住するということの難しさを綴った回です。
悩みながら前に進んでいくリアルな内容が印象的でした。
徹花: やっぱり子どものことが一番気がかりでした。
大人だけの移住だったらどうにでもなるんだけど。
これはいまでも難しいなと感じています。
鎮生: いまは娘もだいぶ落ち着いてきたけど、
今度はコロナで東京との行き来ができなくなったのがつらいね。
徹花: 東京では、娘はいとこ、つまり私の姉の子どもたちと
いつも一緒にいたのですが、それが会えなくなってしまって。
娘に申し訳ないという気持ちと、いや、この決断は間違っていないという気持ちと、
何度も波がやってきて、いまでも悩んでいます。
鎮生: 早くコロナが終息してくれればね。
下田での撮影の仕事を娘が手伝ってくれることも。
移住先探しの旅を経て、三重県津市の美杉町で暮らし始めた津留崎家。家族ぐるみで仲良くなった一家もいて、順調のように思われましたが、娘の本音を知り……。(2017年2月)
――3位は、ずっしり重い内容でしたが、私たちも忘れられない回です。
成功ばかりではなくて、うまくいかなかったことも赤裸々に書くことで、
多くの人が共感してくれたと思います。
徹花: この回と、さっきの4位の記事が、
自分の中では一番きつかったことを書いています。
やってみて、うまくいかなくて方向転換したというのは、
自分たちとしてもつらかったね。
鎮生: 最初は、ついにお試し移住だ! と喜んでいたけどね。
でもこういうことがあっていまがあるんだなと思います。
移住の難しさをこうして書き続けてきてよかったなと。
徹花: 心が揺らいだりしたときに、自分たちがどうやって歩んできたのか、
たまに読み返してみたり。最近もコロナがあってすごく不安で、
ちょうど読み返してみようと思っていたところです。
美杉町の太郎生(たろお)という集落。自然が豊かで夜空には満天の星が。
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伊豆下田で新しい生活がスタートして2か月。新鮮な海産物が手に入ったり、うれしいこともありますが、不安に感じていることとは?(2017年6月)
――2位は、実際に下田に移住してみて、どんな不安があるかという話でした。
具体的には
・クモとかムカデが家中に多発
・「旦那さんのお仕事は?」と聞かれると困る
・収入が減ることは覚悟していたものの、実際そうなってみると焦る
というものでした。
徹花: 旦那の仕事、よく聞かれましたね(笑)。
仕事を決めないで移住したから、無職ですと言うと、
小さいコミュニティでは気になるんですよね。
最初は夫の収入がなかったから焦ったけど、
私が東京の仕事があるうちは稼げていたので。
鎮生: でもやりたい仕事を口に出して言い続けていたら、
なんとかなっちゃいました(笑)。
徹花: この記事にも書きましたが、いただきものは多くて、
いまは漁師さんとも新しい縁ができたり、野菜もこの頃よりいただくことが増えて、
本当にありがたいです。ただ、いまはコロナで、
東京に頻繁に行くこともできないので、このときより収入は減ってるかも。
鎮生: 2拠点で仕事をする身としてはいまは難しい状況だよね。
徹花: 虫はすぐ慣れますね。自分でこんなに慣れるとは思わなかった
というくらい、素手でつまみ出せちゃったり。
鎮生: 人って適応するんだよ。
いただいたイサキをお刺身に。食生活が豊かになったのはとてもうれしいこと。
パンづくりに凝っていた徹花さんが、友人のお店でパンを販売するイベントを2日間開催。カメラマンの傍ら「ときどきパン屋」は果たして可能なのか……?(2018年2月)
――そして1位は、「カメラマンときどきパン屋」という働き方について。
これは圧倒的にPVが高かったのですが、カメラマンとパン屋という意外性が
多くの人の興味を引いたのと、1か月の収支についても具体的に触れています。
実際のところ、パン屋の可能性は?
徹花: 実はパンを販売するイベントはもうやっていないんです。
とても大変で。家で自分たちが食べるパンはつくってますが。
いまはまたちょっと違うことを考えています。
鎮生: 僕はいまは高橋養蜂の仕事と、そのほかにもライター業などをこなして
収入を得ています。
徹花: 仕事を始めたときより少しだけど収入も上がってるし、運がいいよね。
だいたい移住してくる人はどちらかがお役所勤めとか就職先が決まっていて、
もう一方が子育てをしたり自営業の準備をしていたりという人が多いと思います。
うちは私が2拠点で、旦那が小さななりわいを複数持つ働き方。
でもいつも、働くってどういうことなんだろうと悩んでます。
鎮生: そういう悩んでることも記事にしていくことで共感を得ているのかな。
自家製玄米酵母で焼いたパンはとても好評。趣味が高じてパン屋に……!? と思いきや、なかなか大変ということです。
次回は、さらに徹花さん、鎮生さんに移住についての話を聞いていきます。
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