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まだまだ、旅の途中。
伊豆下田に移住した一家の
働き方とコロナ禍での暮らし

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.101

posted:2021.3.26  from:静岡県下田市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  自分たちの暮らしを自分たちで丁寧につくりたい。そんな思いから移住を決意した一家。
移住先を探す旅、そしてその暮らしを、夫婦で交互に綴っていきます。

editor profile

Ichico Enomoto

榎本市子

えのもと・いちこ●エディター/ライター。東京都国分寺市出身。テレビ誌編集を経て、映画、美術、カルチャーを中心に編集・執筆。出張や旅行ではその土地のおいしいものを食べるのが何よりも楽しみ。

credit

撮影:津留崎徹花、津留崎鎮生

伊豆下田に移住してもうすぐ4年になる津留崎鎮生さん、徹花さんと娘の一家。
夫婦が交互に綴ってきた、移住と自分たちの暮らしにまつわる連載も、
スタートから4年半になります。

101回目となる今回も、前回に続き特別編として、
津留崎さん夫妻にいまの暮らしや働き方について聞いてみました。

移住して変わった、働き方

――移住していろいろなことが変わったと思いますが、
そのひとつが働き方だと思います。
徹花さんは東京と行き来しながらフォトグラファーとして働き、
鎮生さんは〈高橋養蜂〉での農園管理の仕事と、最近ではライター業など
在宅でもできる仕事、複数の仕事を組み合わせる働き方ですね。

徹花: 新型コロナウイルスの感染拡大前は、月に2~3回東京に行って、
まとめて撮影して帰ってくるということが多かったですが、
いまは頻繁に行き来することもできません。
下田でも仕事をいただいてますが、東京の仕事を継続することで収入も安定するし、
以前からの仕事仲間とのつながりも継続できる。
仕事のついでに東京に住んでいる母にも会えるし、
2拠点で仕事ができるとちょうどいいバランスでした。

鎮生: このコロナ禍で、そのバランスがかなり崩れたね……。

徹花: 東京の仕事が減った時期もありますが、
同時に観光地である下田の仕事も影響を受けています。
でも新しいやり方も今後展開してみようと思っているんです。

――新しいやり方?

徹花: コロナ禍のさなかに、地元の方から撮影の依頼を受けたのですが、
商品を海辺のシーンで自由に撮ってほしいと。
普段だとスタッフが何人も集まって商品撮影をするのですが、
商品だけ渡されてあとはお任せというのは初めての経験でした。
実際に撮影していると下田はロケーションに困らない。
すぐそこに海も山もあるし、朝日も夕焼けも撮影できる。
この環境を生かして、たとえば商品を都市部から送ってもらって
撮影して写真を納品する、というやり方もできるなと思って。

――それはすごくいいですね! 東京の出版社にとってもありがたいのでは。

徹花: ある雑誌の編集長からの提案で、
海とか風景写真を下田で撮影してストックしてもらえないかと。
エッセイやコラムのページに、イメージカットとして
使わせてもらいたいという提案でした。
もちろん掲載した写真については料金をお支払いしますとのこと。
この下田の環境を生かしながら、そうした仕事のやり方もできるなぁと思いました。

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連載がきっかけで新しい仕事も…?

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鎮生: 僕は、徹花のこういう働き方に合わせる意味もあり、
フルタイムで仕事を入れないフレキシブルな働き方として、
いまのスタイルになりました。

徹花: 私が出張に行くときは、子どもの世話をしっかりしてくれるので
安心して仕事に出られます。

鎮生: このスタイルにしたことで、時間的な余裕が生まれ、
ほかにもちょっとした仕事を頼まれたりして、結果的に仕事の幅が広がった気がします。

徹花: いまでは小屋もつくれるし、罠の狩猟免許もとったし、
この連載をきっかけとしてライターの仕事もくるようになったし。
いろんなスキルが上がったよね。

鎮生: そうなんです。おかげさまで、最近はライターもやらせてもらってます。
これがもし、仕事を決めてから移住して、たとえばサラリーマンでもやってたら、
いまほど仕事や人間関係の幅が広がっていなかったと思います。
本当に縁に恵まれていました。

高橋養蜂ではこの春にヤギを飼い始めたそう。その小屋も鎮生さんがつくりました。

高橋養蜂ではこの春にヤギを飼い始めたそう。その小屋も鎮生さんがつくりました。

徹花: 私は東京では料理家さんと撮影をさせていただくことが多いのですが、
そういう方と仕事をするととても刺激になります。
一方で、下田ではホテルとかゲストハウスからの撮影依頼とか、
知人から七五三や成人式の撮影を頼まれたり。
あとはライフワークとして自分の好きな海女さんや漁師さんの撮影をしたり。
いろんな内容の仕事が2拠点でできると、
バランスとしてはとてもいいなと思っています。

――たしかに。東京の仕事をしながら地元でも仕事が増えていくといいですよね。

徹花: そうですね。夫は養蜂の仕事やライター業、建築の仕事とか
二足、三足のわらじを履く働き方をしています。
ちなみに、養蜂場の仕事で山の中にいると楽しくて、
あっという間に時間が過ぎちゃうんだそうですよ。

――充実感があるということでしょうね。

鎮生: 少し前まで、朝晩うーんうーんって唸りながら
山手線に乗ってたなんて、ちょっと信じられないね。

仕事のある日でも、少し時間ができれば海に出かけることもあるそうです。

仕事のある日でも、少し時間ができれば海に出かけることもあるそうです。

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気をつけていることは?

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地域のコミュニティとの関わり方

――移住して、地域のコミュニティについてはどうですか? 
前回の話でも、人づき合いが苦手だと難しい面もあるかもということでしたが。

鎮生: 地域のコミュニティが濃厚だというのはどこでもそうだと思いますが、
それが地方暮らしの醍醐味だと僕は思う。
でもそうじゃなくても、別荘地とか、人と会わないような
山の中に住むという暮らし方もあると思います。
僕らは、たとえば釣れた魚を友人の漁師さんからいただいたり、
そういう地元の方との関わり合いが楽しいですね。

徹花: こっちだと、まちで車を運転していても誰かとすれ違う、
それくらい小さいコミュニティだから。それが気になる人は嫌かもしれないですね。

――移住者同士のつながりとか、コミュニティはあるんですか?

徹花: 移住者かどうかは、私たちはあまり気にしてないです。
地元の人もいれば、移住者もいる、という感じで。
それだけ地元の人たちによくしてもらっているということだと思います。
それでも、やっぱりここで生まれ育ったわけではないから、
謙虚さを忘れないようにしています。
あくまで自分たちは移住者だということは、意識的に気をつけてますね。

鎮生: 何年住んでも、移住者は移住者だよね。

徹花: 以前、講演会でお話する機会があったんですが、
「下田を元気にしましょう!」と声高らかに掲げるつもりはなくて。
私たちはまだここに来てまだ4年です。地元の人たちが大切にしてきたものを、
そう簡単に理解することはできないと思うんです。
もちろん地元の人たちと親しくさせてもらってますが、
自分たちの知らない感情や考えがあるんだってことを肝に銘じています。

鎮生: でも下田はもともと観光地だし、サーファーが多くて、
昔から移住者もいたみたい。基本的には移住者もウェルカムな人が多いよね。

徹花: 比較的そうなんだけど、もちろん移住者に対して
ウェルカムじゃない人もいて。でもあまり気にせず、
よくしてくれる人たちとつき合っていければいいなと思ってます。

津留崎家の田植えにて。

津留崎家の田植えにて。

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いまの悩みは…?

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コロナ禍のいまと、これからの暮らし

――新型コロナウイルスによって、まだ先が見通せない状況が続きますが、
いま東日本大震災後と同じように、地方での暮らしが見直されているのではと思います。

徹花: 下田も移住者が増えてるみたい。
実際にコロナの影響で移住してきた家族もいるようです。

鎮生: なぜコロナで移住者が増えるかって、
出社しなくてもよくなったからだよね。
そういう働き方は今後も見直されていくんじゃないかな。
でも、観光業は深刻です。

徹花: 下田も観光業で成り立っているまちだからね。

鎮生: たとえば、1次産業である高橋養蜂のはちみつだって
多くは観光施設で販売している。
観光業が傾くと、まちのいろいろなところが厳しくなってしまう。
観光だけでは……ということで、下田ではいまワーケーションに力を入れて、
盛り上げていきたいみたいだけれど、まだまだこれからだろうから。
でも以前にも連載で書いたけど、質素な暮らしでも暮らせるからね。
そういう暮らしにシフトしている人もいます。

徹花: 食材は手に入りやすいからね。
それは私たちが移住した目的のひとつでもあるし。
東日本大震災のときにスーパーの棚が空っぽになっているのを見て、
暮らしを見直すようになったし、今回はそれを実感する機会ではありました。

鎮生: ただ、こっちで育ってきた人たちはそういう感覚はないかも。
もともと恵まれた土地で食材も目の前でとれる豊かな環境、
それが地元の人にとっては当たり前だから。
そのありがたさは、移住者のほうが感じてるんじゃないかな。

徹花: たとえば流通が止まったとしても、
直売所には地元の生産者さんが普通に卸してくれるから野菜が並んでるし。
逆に豪雨や台風のときは品薄になるというのが、
生産者さんと食卓が密接だと感じますね。
そこは東京の流通とは感覚が違うなと思います。

――何か困っていることや悩んでいることはありますか?

徹花: 下田での暮らしは娘も楽しんでいるんだけど、
唯一、東京のいとこたちと引き離してしまったことが気がかりで。
生まれたときから一緒に暮らしていたので。
特に、コロナ禍になってからなかなか会えなくなってしまって。

鎮生: 定期的に会っていた家族と、
いまは会えなくなってしまうというのがね……。
早くまた行き来できるようになるといいけど。

徹花: 娘にとってこれでよかったんだろうかというのは、いまも悩みます。
子連れで移住した家族はいろいろ迷ったり、
悩んだりしている方もいるのではないかと思います。

この4年間でも、東京で暮らしていたらできない経験をたくさんしたそう。

この4年間でも、東京で暮らしていたらできない経験をたくさんしたそう。

――でも津留崎家の未来も楽しみです。

徹花: あと1年で5年かー。どうなっているんだろう。
でも夫は本当にいろいろなスキルがアップしたと思うので、
実際に行動を起こして発信していったらおもしろいと思う。
山を切り拓いたり、ワークショップをやったり。

鎮生: 頭の中ではいろいろ妄想するんだけどね……。

徹花: 彼はこの4年でたくさんの経験をさせてもらって、
そのなかでいろんな発想が芽生えたと思うし、
山の中での作業なんかも格段にスキルアップしてる。
娘が大人になったときに世界が少しでもよくなるように、
夫は行動して発信していったらいいなと思ってます、私が勝手に。

鎮生: 移住してからの目標のひとつでもあった自宅のオフグリッド化は、
いまの家が賃貸ということもあって、なかなか取り組めていない。
将来的には家を買っていろいろと挑戦したいなと考えているんですが。

徹花: 今後の自分たちのことを考えると、将来歳をとっても
継続できるような仕事も考えていかないと、と思っています。

――がんばってください! これからの津留崎家も応援しています。

鎮生・徹花: ありがとうございます! 
新しい展開もまた連載で書いていきたいと思います!

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