リモートワークやテレワークという言葉は今や日常的に使われるようになった。
実際に、ネットワーク環境さえ整っていれば働けるという職種も少なくない。
東京・代々木に本社を構える〈株式会社モノサス〉は、
Web制作事業を主にマーケティングやプランニング、
デザイン、コーディング、運用などを行うIT企業である。
2017年、取締役副社長の永井智子さんが東京から山口県の周防大島町に移住し、
徳島県の神山町に続くふたつめのサテライトオフィスを開設した。
永井さんは島ではどのような働き方、暮らし方をしているのだろう。
周防大島町は青い海に囲まれ、平均気温15℃ほどという年間を通して温暖な気候だ。
モノサスのサテライトオフィスがある地家室(じかむろ)は
周防大島町の中心部から離れた南の沿岸部に位置する。

山口県のガードレールは夏みかん色。その奥に見える集落が地家室と呼ばれる地区だ。
オフィス周辺に到着すると永井さんが出迎えてくれた。
「目印になるものはコカ・コーラの自販機です」
この地区唯一の自販機を曲がった突き当たりの木造の建物が
モノサスのサテライトオフィスだ。

この辺りは海に近く、塩害から家を守るために焼杉を使った民家が多いという。
オフィスに改装した古民家はもともと永井さんの母親の生家だった。
東京と変わらない快適なネット環境を整えたオフィスで、
現在4名の仲間と日々仕事に励む。
「主にホームページを制作する会社で、
私はWebディレクターとして各スタッフにデザインやコーディングの指示、
プロジェクトの進行状況を管理しています。
クライアントによっては週1で打ち合わせをしたり、
メンテナンスやサポートの仕事を行ったりします」
企業のコーポレートサイトなどの制作に関わる業務内容は
東京にいた頃とさほど変わっていないという。
変わったことといえば、打ち合わせの方法。
以前は月に2、3回ほど打ち合わせのために上京していたが、
コロナ禍で東京に行くことは大幅に減った。
「移住して3年くらいは、
東京に行って打ち合わせしないと仕事になりませんでした。
でも最近ではお客さまからリモート会議でお願いしますといわれることも増えて、
環境のほうが変わりましたね」
地方で仕事をする距離的なデメリットが減り、偶然にも時代の流れにマッチした。

近所を一望できる高台へ。仕事の気分転換のためによく散歩するという。
永井さんは都会から島へ生活環境を変えて、すんなり地域に溶け込めたのだろうか。
「地域に溶け込むのにハードルは感じませんでした。
閉校した近くの地蔵小学校で祖父母が先生をしていたので、
『先生にお世話になったから』といって近所の方によくしてもらうこともありました。
もう50〜60年も前の話なのにね」
学校の夏休みに遊びに来ていた記憶から、地域での暮らしをある程度は予想できたという。
「インターネット通販で注文すれば、翌々日には届きます。
車の運転は、20年以上ペーパードライバーだったんですけど、
さすがに車を買って練習しました。
最初の1、2年は大変でしたが、Wi-Fi環境はむしろ東京よりもいいし、
不自由を感じることはありませんね」
東京ではほぼ外食だったが、移住してからは自炊が増えたという。
自分たちの畑で育てた野菜や魚屋さんで手に入る新鮮な魚が永井家の食卓を彩る。

オフィスの裏手にある畑で季節に合わせた野菜をつくっている。夫婦ふたりで食べる野菜は8割がた賄えるそう。
「スーパーで食材を買ったり、親戚がお米をつくっているので送ってもらったり。
といっても、ピザもパスタもインスタントラーメンも食べるし、
田舎ならではのメニューばかりでもないですよ」
移住後すぐは新しい拠点整備に大わらわだったそうだが、
今では生活にも慣れ地域に馴染んでいる。