地域の若者のコラボレーション 食・ものづくり・自然 × ソーシャルデザイン。 「TSUGI」後編
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「かわだ くらしの晩餐会」で地域の魅力を探す
福井に移り住んだ二十代の若者7人のプロジェクト「TSUGI」。
「ものづくり」や「地域の魅力」を発見する、
さまざまなコラボレーションが生まれ始めている。
地域の魅力探し、そのひとつが「食」。
6月15日、21日と2週に渡って、「かわだ くらしの晩餐会」が開催された。
福井新聞の「まちづくり企画班」の担当者と一緒に企画を進め、
TSUGIが全体のデザインディレクションを担当した。
福井県内の各地を回って、
その土地の文化を活かし発信するイベント「FUKUI FOOD CARAVAN」。
その一環として行われた、体験型の食のイベントである。
テーマは「食、ものづくり、自然」。
これまでのTSUGIの活動のなかでも、もっとも力をいれたイベントのひとつだ。
FUKUI FOOD CARAVAN vol.02「かわだ くらしの晩餐会」の動画。制作は福井新聞社「 まちづくり企画班」とTSUGI。映像はホオズキ舎の長谷川和俊さん。「食工房野の花」代表の佐々木 京美さんとTSUGIによる食空間プロデュース。越前漆器の器と木彫りのスプーンを使って地域伝統の食を味わうイベント。
鯖江の若者コミュニティづくり
TSUGIの事務局、ディレクターの新山直広さんにお話を伺った。
「福井の魅力は〈食〉ということで、
福井の地域を巡りながらその土地の魅力を
掘り出していこうと考えていくキャラバンなんですが、
漆器の里である河和田では、まず器を自らつくるところからはじめよう、と。
下塗りを越前漆器の職人さんにやってもらい、参加者に上塗りをやってもらう。
自分でつくった器で食べてもらいました」
イベントは2週に渡って行われ、最初の1日目は
木のスプーンづくりとお椀の漆塗りの体験。
1週間後の2回目に手づくりしたスプーンとお椀を使って、
地域伝統の食を味わう晩餐会を開催した。
その素敵な動画を見ていただければ、
河和田の「食」と「暮らし」の魅力を感じることができる。
なにより集まるひとたちの笑顔がイイ。
素晴らしい「コミュニティ」が息づいている感じが伝わってくる。

「かわだ くらしの晩餐会」では越前漆器の若手である中野知昭さんと酒井義夫さんの協力で、器づくりからスタート。写真提供=TSUGI
地域の食材はどんなものがあるのか。
「もともと湯治場だった河和田の風土から産まれた薬草や薬膳料理、
地域ならではの在来種の野菜、
たとえば賀茂ナスの類縁関係といわれる吉川ナスなどもあります。
それを工夫して新しい料理を考えたりします。
たとえば柚子と唐辛子、赤ピーマン(なんば)をあえた地元の食材・やまうにと、
アイスクリームをあえたデザートとか。
昔の養蚕の名残で自生する桑の木があるのですが、
その桑の葉を使った桑の葉茶とかもオススメです」
食に関しては、TSUGIが編集に関わった「風土とフード」という冊子も発行している。
うるしの里食文化戦略協議会が発行し、TSUGIはブランディングで関わっている。

TSUGIが編集に関わる「風土とフード」。うるしの里食文化戦略協議会発行。薬草を取り入れた薬膳や伝統的な鯖江の野菜などを紹介している。写真提供=TSUGI
メガネのまち、鯖江の「ものづくり」
鯖江のものづくりと言えばなんといっても「メガネ」。
今やメガネフレーム生産シェアは、国内の約94%を占めている。
鯖江の就業人口の6人にひとりは眼鏡産業に従事していると言われる。
TSUGIのメンバーの今川心平さんは、鯖江でメガネ職人として働いている。
「大学ではデザインの勉強をしていたんですが、
自分が大手のメーカーでデザインを描いている姿が想像できなくて
ものづくりの現場に入っていったんです。
自分の手で生み出していくことが向いているなと」
鯖江に移住したのは河和田アートキャンプに参加したのがきっかけ。
そこで「伝統と産業」というプロジェクトを担当した。
「ひと夏、プロジェクトの運営をがんばって、最後に鯖江のメガネを買いにいきました。
若い世代が3Dを駆使して新しいデザインのメガネをつくっている。
そのメガネづくりの仕事がかっこよく思えたのです。
その時に、自分の手でもつくりたいと考えました」
TSUGIではワークショップを企画したり、
クラフトマーケットなどで販売するアクセサリーをつくったりしている。

TSUGIの今川心平さん。創業59年のメガネのセルフレームをつくっているメーカー「谷口眼鏡」でメガネ職人をしている。「谷口眼鏡」は自社オリジナルの「TURNING」というブランドを展開。年間5万から5万5千本の眼鏡をつくっている。
今川さんにとってメガネとは?
「いい意味で、やればやるほどわからなくなるもの。
深いです。宇宙ですね(笑)。それが魅力です」
「つくっていると初めてわかることがある。たとえば、このエッジがすごい、とか。
つくってみてそのすごさがわかる」
「ものづくり」の秘訣はなんだろう?
「やりすぎない、ということですね。
いい“案配”ということが大切ですね。仕事には効率も求められます」
職人の仕事は精神的にも肉体的にもきつい部分もあるだろう。
「でも自分がここでつくっている眼鏡がお店のひとにいいですね、と言われたとき。
そういう話ができるようになったのが嬉しかったですね。」

メガネ素材(アセテート生地)で作ったピアス「sur」(サー)。TSUGIのオリジナル商品。今年の秋には量産できるように準備中。
今川心平さんは「ものづくり」のセンスを生かした
TSUGIのオリジナル商品も開発している。
最近ではメガネ素材(アセテート生地)でつくったピアスを制作した。
鯖江のメガネ工場で使われなかった部分をアクセサリーとして再生している。
メガネをつくる工程と同じく、1点1点手作業でパーツを仕上げる。

TSUGIの今川心平さん。メガネの「磨き」の工程を作業中。研磨剤をつけて、ひとつひとつ仕上げていく。
今川さんはTSUGIでは伝統工芸の「金継ぎ」のワークショップも担当。
「金継ぎ」とは、割れたり、欠けたり、ヒビの入ってしまった陶磁器を漆で接着し、
接着部分を金で装飾して仕上げる日本古来の修復技術だ。
TSUGIでは『金継ぎ』の伝統技術を体験するだけでなく、
オリジナルのブローチづくりを考えた。
割れた陶器の破片を漆でつなぎ、金箔で粧飾して仕上げる。
伝統工芸と現代的なファッションセンスが融合する。

TSUGIでは割れてしまった陶磁器を再生する伝統工芸の「金継ぎ」のワークショップも開催。

金継ぎのワークショップで参加者が制作したオリジナルのブローチづくり。写真提供=TSUGI
鯖江の里山のなかでの暮らし。「NPOエコネットさばえ」
鯖江にやってきて、
里山の自然のなかで暮らそうと考えたのはTSUGIのメンバー楳原秀典さん。
楳原さんは「NPO法人 エコネットさばえ」の職員をしながら、
環境教育などに取り組んでいる。
TSUGIが立ち上がるとき、里山の保全などで関わろうと考えた。

TSUGIのメンバー楳原秀典さん。鯖江に移住して、独居老人と同居中。環境教育などを行う「NPO法人 エコネットさばえ(環境教育支援センター)」の職員をしながら、TSUGIでは地域づくりに取り組む。 http://ecoplaza-sabae.jp/
「もともと自然のなかで
仙人のような閉じた生活をしてみたいという気持ちはあったのですが、
いざ地球環境のことを学んでみると、
このままでいくとまわりの環境がダメになっていって、
自分がひとり仙人みたいな生活はできないということがわかったんです。
いまは本当に豊かな暮らしってなにかを伝えていきたいです」
NPOの仕事では、鯖江市の環境課の仕事を委託されており、
市内12校の小学校で、環境教育をしている。
「どんぐりを拾って植樹をしたり、
冬は鮭の稚魚を育てて鯖江市の日野川に放流するなどの活動をしています。
そのなかで地球環境との関わりを学ぶ環境教育の授業をしています」
TSUGIでは少し幅広く、場づくりや
コミュニケーションの領域にも関わりたいと考えている。
鯖江に定住した理由はなんだろうか?
「いざここで仕事をやってみたら、ここに住むことの楽しさを感じたんです。
実は僕、古民家やアパートを借りているのではなく、
家族が鯖江を離れてしまっているおばあちゃんとふたり暮らしなんですが、
それが面白いんですね。
ここでは食の文化、特に旬のものがすごい。
漆器を使った食卓で、伝統的な発酵食や保存食が美味しい。
おばあさんはとても元気で、年寄り目線からみる、いろんな気づきがあります」
ちなみに、いったいどのくらいの家賃なのか聞いてみた。
「とても素敵な古民家で、食費と光熱費を払って、
1か月だいたい2万5千円。三食賄い付きです。
それだけあればここでは暮らしていけるんです。
正直、地方の賃金は高くないけど、ここでは暮らしとして成り立つし、
尊敬できるひとと一緒に暮らせるなんてほかではないと思うんです」

TSUGIの拠点、TSUGI Lab。古い漆器店をリノベーション。左官屋の経験がある楳原さんは内装などを手がけている。
空き家コンシェルジュ
TSUGIのメンバーは全員、Iターンの移住者。
これから先、ますます福井を面白くしていくために、
今後、鯖江にやってくるひとたちが移住しやすくするために
新しいプロジェクトを計画中だ。
TSUGI事務局の新山直広さんに、TSUGIの「次」を伺った。
「河和田地区には約80軒の空き家があるんです。
鯖江市では既存の“空き家バンク”がありますが、
河和田地区の空き家は1軒も登録されていません。
そこで、移住希望者向けの“住まい”“仕事”“暮らし”をセットにした
『暮らしバンク』を立ち上げようと計画中です。
地域の良さを伝える情報発信を、
『空き家コンシェルジュ』としてマッチングサポートをすることを考えています」
今後の企画案の一部を見せていただいた。

鯖江市内の空き家のマッチングのプロジェクト「空き家コンシェルジュ」のプラン。資料提供=TSUGI
「空き家」と「仕事」を結びつけ、移住者のIターンを促す。
ものづくりの集落ならではの人材を逆指名して、
伝統産業のものづくりの担い手を集めてしまおうというアイデアだ。

「空き家」と「仕事」を結びつけるWEBサイト『福来たる』のプラン。資料提供=TSUGI
結成2年目をむかえたTSUGIは、これまで
「STEP1」として、「ワークショップ」や「トークイベント」を開催。
「STEP2」として「商品企画」や「コラボレーション」を展開してきた。
いよいよ「STEP3・4」は「地域活性」のための仕組みづくりに取りかかる。
「将来的にはものづくりのための“シェア工房”なども考えています。
シェア工房では、若手のつくり手が休日使えるファクトリー、
観光客がものづくりを体験できる施設をイメージしています。
また、使われなくなった道具や機械の引き取りも計画中です。
いずれはこの地域の技術とか素材を使って流通に乗せられる商品をつくり、
ブランド価値を高めていきたい」
と新山さんは語る。

TSUGIの事務局、ディレクターの新山直広さん。
information
TSUGI Lab
