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十和田 Part3
風景は変わらない。
では、どうやって風景に入るか。

山崎亮 ローカルデザイン・スタディ
vol.020

posted:2012.6.22   from:青森県十和田市  genre:活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  コミュニティデザイナー・山崎亮が地方の暮らしを豊かにする「場」と「ひと」を訪ね、
ローカルデザインのリアルを考えます。

writer profile

Maki Takahashi

高橋マキ

たかはし・まき●京都在住。書店に並ぶあらゆる雑誌で京都特集記事の執筆、時にコーディネイトやスタイリングを担当。古い町家でむかしながらの日本および京都の暮らしを実践しつつ、「まちを編集する」という観点から、まちとひとをゆるやかに安心につなぐことをライフワークにしている。NPO法人京都カラスマ大学学長。著書に『ミソジの京都』『読んで歩く「とっておき」京都』。
http://makitakahashi.seesaa.net/

credit

撮影:嶋本麻利沙

今年度から青森県の十和田市現代美術館副館長に就任した
美術家の藤 浩志さんと山崎さんとの対談をお届けします(全4回)。

生活を変える。風景を変える。

山崎

どうして、藤さんが都市計画に関わることになるんですか?

奄美の喜界島出身だという地上げ屋社長に興味を持って、
彼のもとに就職したんですよ。でも、半年後に社長が突然
「ビッグバン作戦だ。全員解散!」って宣言して会社が終わってしまった。

山崎

倒産じゃなくて、解散?(笑)

そう。バブル崩壊で、解散。あとはじぶんたちで食っていけと(笑)。
面白い社長だったんです。
解散後は、そのときの仲間が立ち上げた会社に入って、
地図づくりとか怪しい物件の資料づくりとか、なんでもやった。

山崎

都市計画のことなら、時代感はわかります。
もちろん、そのころぼく自身はまだ高校生ですけれど。

でも、上からまちづくりをする時代だったから、違和感ばかり。
当時はまだワークショップの手法もなかったけれど、
もっと地元のひとと対話をしようよって思っていました。

山崎

ある日住民説明会が行われるだけの、勝手なまちづくりですよね。
藤さんとは世代的にタイムラグがありますが、それでもとても共感します。

そんな時代に嫌気がさして、地元の鹿児島へ戻り、
パブリックアートとして実家を改装したカフェをオープンしたりしながら
美術の世界に戻っていくんです。

山崎

アートとまちづくりがリンクしていくわけですね。

個人の立場で地域のひとたちとなにができるかを模索、
実践していくことになります。
90年代半ばだから、山崎さんたちが動き始める前の時代ですよね。

山崎

はい。

そのころには、地域系のアートプロジェクトも増えてきたりするんだけど、
これがただのデモンストレーションに終わってはいけないと、
それまでにぼくは学んできたわけです。

山崎

そうでしたね。

結局、どんなに面白いことをやっても、構造や仕組みに介在していかなければ、
風景は変わらない。そこにアートの手法が使えないかと考え始めるんです。

草間彌生の「愛はとこしえ 十和田でうたう」

美術館向いにあるアート広場に恒久展示されている、草間彌生の「愛はとこしえ 十和田でうたう」。

「種のひと」から「水のひと」へ。

山崎

ちょうどそのころ、ランドスケープデザインを学ぶなかで、
ぼくもそういったことに次第に気付いていきます。
どういうふうに木を植えるかということでは「風景」は変わりません。
ひとが日々をどう暮らし、どう行動するかが積み重ねられ、
どうしようもなくできあがるのが「風景」なんです。

なるほど。

山崎

生活を変えるには、コミュニティ、
つまりひとびとの集まりのアクションを変えていかなきゃいけないと気づいて、
考え方をシフトし始めたのが阪神淡路大震災の後です。

95年の震災はたしかに大きく影響しているね。
同じころに同じ問題意識を抱えていたわけだ。

山崎

はい。ひとのつながりさえ正常であれば、
風景はもういちどつくり出せると実感したできごとでした。

一方で、ぼくは最近「風土」ということもよく考えるようになりました。

山崎

風土?

ええ。ひとを、風土に必要なものに例えるんです。
地域を育てるのが好きな「土のひと」、
面白い種を運んでくるのが「風のひと」、
メディアなどで紹介したりつなげたりする「光のひと」。
そして、いまいちばん注目しているのが「水のひと」。

山崎

それはどういう役割を担うひとですか?

面白いと思ったことを、ただ素直に「面白い」と言って、とどまるひと。
アイドルのファンみたいなものかな。面白くなくなれば、去って行く。

山崎

なるほど!

風土を語るときに、水の存在や状態、役割って大切でしょう。
超論であることを重々承知の上で言えば、
同様に、地域の活動をつくっていく上で、
どれだけそれに興味関心のあるひとを集められるか、
その流れをどうつくっていくか、
つまり水のコントロールが非常に重要なんじゃないかなと。

山崎

水の状態によって成長もするし、枯れもすると。

アーティストは種や風の役割をすることが多いのですが、
ここではぼくが「水のひと」になって地域にすでにある種を見つけて
「面白い!」と言うことで育てることができないかな、と考え始めています。

(……to be continued!)

街並みに溶け込む、美術館向いにあるアート広場

風景とは、ひとが日々をどう暮らし、どう行動するかの積み重ねからできるもの。

対談の様子

「まちづくりには、もっと地元のひととの対話が必要だと感じていた」(藤) 「世代もフィールドも違うのに、ところどころで妙にシンクロしているのが不思議です」(山崎)

information

map

十和田市現代美術館

青森県十和田市が推進するアートによるまちづくりプロジェクト、Arts Towada(アーツ・トワダ)の拠点施設として、2008年4月に開館した現代美術館。アート作品が街に対して展示されているかのような開放的な空間構成を持ち、まちづくりプロジェクトの拠点施設としてつくられた特徴ある美術館となっている。

住所:青森県十和田市西二番町10-9

TEL:0176-20-1127

Web:http://towadaartcenter.com/

profile

HIROSHI FUJI 
藤 浩志

1960年鹿児島生まれの美術家。京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了し、翌年よりパプアニューギニア国立芸術学校講師、建築企画・都市計画コンサルタント勤務を経て、藤浩志企画制作室を設立。対話と地域実験の場を作る美術類のデモンストレーションを実践。2012年4月より十和田市現代美術館副館長に就任。

Web:http://geco.jp/

profile

RYO YAMAZAKI 
山崎 亮

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院地域生態工学専攻修了後、SEN環境計画室勤務を経て2005年〈studio-L〉設立。地域の課題を地域の住民が解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、パークマネジメントなど。〈ホヅプロ工房〉でSDレビュー、〈マルヤガーデンズ〉でグッドデザイン賞受賞。著書に『コミュニティデザイン』。

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