連載
posted:2013.6.18 from:東京都渋谷区 genre:ものづくり
sponsored by 貝印
〈 この連載・企画は… 〉
「貝印 × colocal ものづくりビジネスの未来モデルを訪ねて。」は、
日本国内、あるいはときに海外の、ものづくりに関わる未来型ビジネスモデルを展開する現場を訪ねていきます。
editor profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Suzu(Fresco)
スズ
フォトグラファー/プロデューサー。2007年、サンフランシスコから東京に拠点を移す。写真、サウンド、グラフィック、と表現の場を選ばず、また国内外でプロジェクトごとにさまざまなチームを組むスタイルで、幅広く活動中。音楽アルバムの総合プロデュースや、Sony BRAVIAの新製品のビジュアルなどを手がけメディアも多岐に渡る。https://fresco-style.com/blog/
伊藤園の「お〜いお茶」は、家庭で緑茶を淹れるときと同様に、
製造後に茶殻が出る。その量は年間で約47000トン(2011年度茶系飲料合計)。
その茶殻をどうにか有効活用できないかと
2000年頃から茶殻のリサイクルへ向けた取り組みが始まった。
ちょうど他社でもペットボトルの緑茶が出始め、
「お〜いお茶」も売り上げが伸びていた頃で、
それだけに茶殻リサイクルシステムは
創業者である当時の本庄正則会長、本庄八郎社長(現会長)が切に望んでいたことだった。
2000年に伊藤園に入社した佐藤崇紀さんは、
研修を終えるとすぐ茶殻リサイクルの研究開発を言い渡された。
当時の茶殻は、おもに農家の手に渡り、飼料や堆肥などに活用されていたが、
新たな方向性を模索しようとした第一歩だったのだ。
「最初は単純に炭にしてみようと思ったんです。
備長炭とか竹炭とかあるので」と語る佐藤さん。
炭にすることは可能だったが、茶殻は水分を多く含んでいるので効率が悪い。
「日本の技術力は優れていて、
1時間ですぐ炭にできる炭化装置なんかもあったんですね。
でも隣でその装置に燃料をドボドボ入れているんです。
これでは何のためのリサイクルか」と感じた。
リサイクル自体は可能でも、
その過程においてリサイクルの意味を成さないこともある。
水分を含んだ茶殻を乾燥させるにはどうしてもエネルギーを使ってしまうので、
佐藤さんたちは、含水のまま=生のまま保存する方法を研究することに尽力し、
とうとう開発に成功する。
まずは畳の芯に使われる建材ボードを開発。
建材ボードのなかに、茶殻を練り込んだ。
しかし技術者は開発しただけで満足してしまいがち。佐藤さんも同じように、
そもそも飲料メーカーなのでこれをどうしたらいいかわからず、
売り方だってもちろんわからない。
それでもいくつかの建材メーカーに持ち込んだりはしていたが、
研究職の佐藤さんに商談スキルは乏しく、うまく営業できない日々。
「 “伊藤園です”といって訪ねると、“自販機はいりません”と
門前払いされる始末でした。
そんなとき、社内の別件の会議に呼ばれたときに、
当時の営業課長に恐る恐る建材ボードを見せてみたんです。
すると、“なんでこんないいものをもっと早く持って来ないんだ”
と怒られちゃいました(笑)」
できた製品に自信はあったが、持て余していた状況。
それが営業課長に託すとすぐ1か月後に畳メーカーの北一商店を
見つけてきてくれて、とんとん拍子に話は進んでしまった。
ひとつ商品としてかたちになると、この課長を始め、
社内のいろいろな部署から“あれはできないか、これはできないか”と
アイデアが出てきた。
社内の立ち話レベルからアイデアをもらったこともある。
封筒やあぶらとり紙なども、ほとんど思いつきの発想だった。
こうして今では40点ほどの製品が出来上がっている。
名刺や紙ナプキン、マッチなどから、
“茶殻?” と首を傾けてしまいそうなベンチ、ゴミ箱、健康サンダル、
タイルまで、ジャンルもさまざま。
分析の結果、茶殻にはカテキンなどの成分も残っていて、消臭と抗菌効果がある。
そしてこれら製品のほとんどは、ほんのりとお茶の香りがする。
「展示会などで茶殻入りであることをお客様に説明すると、
8割くらいのひとはすぐに匂いをかぎます。何か安心感があるようですね」
たしかに緑茶の香りは、ほとんどの日本人がDNAレベルで
いい香りと思うものだろう。インタビューを行った会議室も、
たくさん置いてあった茶殻製品のおかげで、とてもかぐわしい。
香りが残っているのは、茶殻をリサイクルするときに、
熱によるダメージが大きい乾燥の工程を入れていないから。
その詳細は企業秘密。
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現状では佐藤さんが主に茶殻リサイクルを担当しているが、
それを専門に戦略を立てたり、売るような部署は社内に存在していない。
しかも伊藤園は飲料がメインのメーカーなので、茶殻リサイクル製品は、
他の企業や工場にお願いしないとつくることができない。
それならば、社内に茶殻リサイクルの部署をつくってもよさそうなものだが。
「現在、専門部署がない代わりに、さまざまな部署の人が手助けをしてくれます。
あまり特化しすぎないように、いろいろな部署のひとが絡んでくるほうが、
アイデアもたくさん出てきます」
たしかに専門部署にしてしまって他の部署のひとが関係ない顔をしているより、
常にたくさんのひとが頭の片隅で意識することが企業にとっても重要なのかもしれない。
自分の会社の商品の行き着く先であり、環境事業のことなのだから。
「私個人としては、関連部署や取引メーカー、製品の製造工場など、
こまめに足を運ぶようにしています。
もう開発なのか、営業なのか、広報なのか。
でも何でも屋でいいと思っていますし、
それを自由にやらせてくれる会社に感謝しています」
縦割りにならず、直接的な連携を持つことが出来るのは素晴らしい。
伊藤園という企業において、
会長や社長、社員に至るまでそれぞれが茶殻のリサイクルに関わっているのだから。
「CSRという位置付けもありますが、
“お茶”という本業に直結している事業なんです。
茶産地育成事業などの原料開発から、最後に出てくる茶殻の処理まで。
伊藤園は、『茶畑から茶殻まで』お茶のことならあらゆることに挑戦する企業なんです」
しかもその茶殻はゴミではない。佐藤さんは「未利用資源」であるという。
「茶殻のような、世界で排出される有機性廃棄物は、ほとんどが堆肥利用されています。
そんななかで、それ以外の利用法を日本で確立して、
世界にも広めていきたい」と夢を語る。
たしかに、紅茶であれ、ウーロン茶であれ、お茶の文化は世界中にある。
その数だけチャンスがある。
伊藤園でも、この茶殻リサイクル製品に使われているのは、
総茶殻排出量のうち、まだ約1.7%だ。残りは堆肥や飼料などに使われている。
「この数字をどんどん大きくしていきたい」というが、
現状ではこの茶殻を利用して肥料をつくっている農家も多く、
いきなり大きく減らすと農家にも迷惑をかけてしまうので、
茶殻リサイクル製品に使用する茶殻は、様子を見ながら徐々に増やしていきたいということだ。
まだまだ、茶殻リサイクルの研究開発は続いている。
今ではともに開発をしている企業は150社にもなった。
これからは「より日用品を増やしていきたい」という。
お茶自体が毎日のように飲むものだけに、
その方向性はダイレクトで気持ちがいい。
最後に佐藤さんの夢を訊いた。
「昔は、茶殻で家を建てたいという話をしていて、笑い話だったんですが、
今考えて見ると、実現できそうな気がします。畳もあるし、壁もタイルもある。
部材なども樹脂でつくれますし」
住宅メーカーのみなさん、茶殻ハウス、どうですか?
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