ちちぶメープルプロジェクト vol.2 メープルで林業の未来をつくる!

埼玉県秩父市。山々に囲まれ、自然豊かなこの地で、 メープルシロップをつくる取り組みが行われています。 その秩父の森で生まれたメープルシロップを味わえる〈シュガーハウス〉ができるまでを 秩父にUターンした井原愛子さんが綴る短期連載です。

なぜ秩父でメープルの取り組みが始まったのか

メープルプロジェクトが行われている秩父、皆さんは聞いたことがありますか?
秩父は、埼玉県の西部に位置し、池袋から西武鉄道で最短80分の距離にあります。
四方を山々に囲まれた盆地で、荒川の源流も流れる、自然豊かな土地です。
また、日本最初の貨幣といわれる〈和同開珎〉や
最近話題のパワースポット〈三峯神社〉、
日本三大曳山祭りのひとつ〈秩父夜祭り〉など、秩父には歴史的な文化資源も豊富です。
最近では、秩父を舞台にしたアニメ作品「あの花」こと、
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のおかげで、
たくさんの若い人たちも秩父を訪れてくれるようになりました。

秩父の奥地、大滝にある〈三峯神社〉は遠方から人が訪れるパワースポット!

そんな秩父ですが、ほとんどの地方と同様に少子高齢化という問題を抱えています。
市の87%が森林というなかで、林業の衰退により
生かしきれていない森林資源もたくさんあるのです。

秩父のほとんどは、木、木、木!

なぜ秩父でメープルの取り組みが始まったのか?
そこには、仕掛け人であり、NPO法人〈秩父百年の森〉の理事長(当時)、
島崎武重郎さんの存在が大きいのです。

大学時代に山登りが好きだった、島崎さん。
あるとき立山連峰の山小屋のマタギさんから紅茶をごちそうになりました。
ほんのり甘く、心と体に染み込んだ紅茶の味は、
これまで飲んだ紅茶とは比べものにならないほどおいしかったそうです。
ところが砂糖が入っていると思いきや、まったく入っておらず、
それはカエデの樹液だけで淹れた紅茶だったのです。
その驚きとおいしさに感動し、山に通って樹液の採取方法を教わったそうです。
それからも山遊びや川での釣りが好きだった島崎さんは、
自然と密に関わりながら秩父で暮らしてきました。

島崎さんの山と関わる原点は、意外にも釣りにあるそう。

いまから17年ほど前、秩父の新たな名産品をつくろうという取り組みが始まり、
そのときに島崎さんはカエデの樹液紅茶のことを思い出したそう。
「そういえば、秩父にはたくさんカエデの木があるのだから、
それを生かした商品をつくればいいのではないか」と。
あらためて秩父の森の調査を始めると、たくさんの発見があったそう。

島崎さんは秩父の貴重な資源、カエデのことを積極的に子どもたちに伝えています。

秩父の土地はカエデの生育に適しており、
日本にある28種類のうち21種類のカエデがあったのです。
秩父のカエデがたくさんある大滝というエリアを中心に、
その後数年にわたり、NPOや埼玉大学の協力のもとにカエデの調査が行われ、
ある程度まとまった量のカエデの樹液が採れるようになりました。

「伐る林業」と「伐らない林業」

やがてNPOや山林所有者が関わってできた〈秩父樹液生産協同組合〉ができたことで、
樹液を採取し売る組織ができたのです。
そこで、樹液生産協同組合は、秩父のお菓子や酒、味噌など、
多種多様の事業者が集まってできている〈秩父観光土産品協同組合〉に
樹液を買い取ってもらい、商品化できないか打診しました。
ここで問題になってくるのが、樹液を買い取る値段です。
そもそも樹液に値段があるわけではないので、
普通であればなるべく安い値段で仕入れることを考えるはず。
しかし、話し合いのなかで「山主の言い値」=「山主にきちんと利益が還元できる値段」
での取引が決まりました。

秩父観光土産品協同組合の組合員である事業者が、工夫をこらしてつくったメープル商品たち。秩父で採れた樹液をメープルシロップにしたり、砂糖の代わりにお菓子やサイダー、パンなどに使い商品化。どれも自然の甘さでおいしい!

これは、林業にとっては画期的なことなのです。
何十年もかけて木を育てても、1回木を伐ったらそれで終わりだし、
持ち主の手元には手数料などを引いてしまうと、1000円程度しか残らないそうです。
しかし、木を伐らなくても毎年冬の時期に樹液が採取でき、
それがカエデ1本あたり平均8000円くらいで取引され、
手数料を差し引いた額がカエデの木の持ち主に支払われます。
これにより、山の持ち主が樹液の収入で
森の手入れができるという好循環が生まれました。
島崎さんはこれを「伐らない林業」と呼んでいます。

樹液でいっぱいになったタンクを凍った川を渡って運びます。「伐らない林業」もとっても重労働。

いまは、戦後に植えたスギやヒノキが
ちょうど伐り出さなければいけない時期になっており、
日本の人工林はいま“満員電車”の状態なのだそう。
この“満員電車”を解消しないと、どんなことが起こるのか……。
木が混み合い日光が入らずに、下草が育たなくなります。
そういった土壌は貧弱になり、土砂崩れが置きやすくなるのです。
そして、これからの季節、花粉症の方は
スギだらけの山と聞いただけで、絶対近づきたくなくなるでしょう。

手入れをするにもお金も人手も足りない、いまの日本の林業。
スギやヒノキを間伐する「伐る林業」と
カエデの樹液を採取する「伐らない林業」のバランスをうまくとること。
これがうまくいけば、未来の子どもたちに残していく
新しい日本の未来の森のかたちになるかもしれない!
昨年の11月に、この「伐る林業」と「伐らない林業」の複合化を実践するモデルとして、
スギの間伐後の場所に、カエデの苗木を地元の中学生たちと植林しました。

今回植林したカエデの木から樹液が採れるようになるのは、早くて20年後……。

私たちの壮大なチャレンジである、秩父のカエデの森づくりがようやく始まりました。
このカエデの森を育てていくことが、
ちちぶメープルプロジェクトの大きな鍵となるのです!

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